日本に有機農業が広まる前から、在来品種や伝統野菜の種を継いで守られている、岩崎政利さん(長崎県雲仙市)のお話をお聞きしてきました。
関西よつ葉連絡会さま主催の、『在来品種・伝統野菜をまもるとは』という公開講座です。
もともと植物には、置かれた環境に応じて、姿かたちや性質を変えていく順応力があるそうです。
ひと口に大根やカブといっても、土地ごとに定着した品種がとてもたくさんあるのですが、それも別の環境に置くと、また新しい場に応じて姿を変えて順応していく。
そうして、その土地に合った姿になって、たくましく生きていくそうです。
ただ、それには長い時間が必要で、種子が新しい土地に馴染むまで、10年以上かかることもザラだとか。
種を守る気持ちを持って種継ぎを続けることに、種子が応えてくれると岩崎さんは言われます。
土地ごとに、あるいは家ごとに継がれてきた種を守る、その、人の気持ちに応じるように野菜が花を咲かせるとき、野菜の一生の中で一番おめかしして見せてくれるその瞬間には、野菜が神々しく見える。人と植物の間で、気持ちが通じ合うのだといわれる岩崎さんのお話ぶりに、思わず引き込まれ、そのイメージの中に自分も入らせてもらえたような気がしました。
そのように大切に引き継がれた植物の種ですが、次に繋ぐ母親となる個体を選ぶときに、美しくて魅力的なものだけを選んでいるうちに、段々と人参の生命力が弱って、最後には種が取れなくなってしまったそうです。
「種は多様性の中で守られる」
そう気づかれてからは、見た目にも様々なものを一緒にして継ぐようになって、ふたたび、野菜たちは逞しさを取り戻したそうです。
器量が良かったり悪かったり、細かったり太かったり、色が濃かったり薄かったり。
いろんなものが混じってるからこそ、丈夫で健康な次世代が生まれる。
植物だけでなく、ほかの動物や人間にも当てはまることですね。
いろんな違いがあるからこそ、全体として強く居られるというのは、とても心強いメッセージです。
違いがあることに価値がある。
そのことをそのまま表現する、個性的な伝統野菜たちは、味わいも様々で、たとえば南瓜のなかには、煮物にすると水っぽくて美味しくない品種もありますが、ジュースやサラダにするとすごく良さが際立ったリ。
一つの品種を一くくりにせずに、それぞれの個性がいちばん活かせる道を探すのは、とても楽しいこと。
この楽しさや豊かさは、流通しやすいように画一化された野菜ではなく、在来品種ならではのものです。
気が遠くなるほどの昔から守られてきた種を、その守ってきた人たちの思いも一緒に継いでおられる農家さんのお仕事は、とてもクリエイティブで、感動的なシーンが散りばめられていると同時に、環境としてはとても過酷でハードです。とくに今年は自然の猛威を見せつけられる機会が、何度もありました。
そんな中でも、よい野菜を守って育ててくださっている農家さんたちに敬意と感謝を忘れず、できるだけ近い距離で支え合えたらと、都市で消費する立場のものとして思います。
在来の種は、環境に応じて順応してくれるのだから、天候不順が続くこの時代には特に、引き継いで守られていくことが大切。
その大切さを共有する人が増えることで、種子法廃止や種苗法改変の流れにも、違う影響が生み出せるのではないかと感じました。