弁護士辻孝司オフィシャルブログ

京都の弁護士辻孝司のブログです
弁護士の活動、日々感じたことを弁護士目線でレポートします
弁護士をもっと身近に・・・

「俺の上には空がある 広い空が」桜井昌司著 2022.7.25

2022-07-25 13:08:08 | 本と雑誌

えん罪をテーマとする弁護士会のイベント「憲法と人権」の準備のためにと調べていたら、

桜井昌司さんが昨年4月に出版されているのを発見。

さっそく、拝読しました。

 

 

20歳で逮捕

49歳で仮釈放

64歳で再審無罪

20歳から49歳までの29年間、普通なら働き、結婚し、子どもを育ててという人生の核となる時期、それを奪われる。

刑事に騙されて虚偽の自白をしてしまい、裁判官に何度も裏切られる。

収監中にご両親もお亡くなりになるが、その死に目にも会えない。

無罪判決を獲得するまでに44年、これまでの人生の半分以上がえん罪との戦い。

その悲しみやや怒りはどれほどのものだったでしょう。

でも、この本の桜井さんは、常に明るく、前向きです。

えん罪との戦いの中で人との出会いがあり、刑務所での読書が人生観を作ってくれた。

刑務所の中で叫びたくなる時には、「俺の上には空がある。広い空が広がる。自由な空がある。」と考えて深呼吸した。

恨みではなく、感謝にあふれています。

 

桜井さん作詞、作曲の歌はこれまでに何度か聞いたことがありましたが、この本にも桜井さんの詩がいくつも掲載されています。

桜井さんの詩は知的で洗練されているけど、とても優しく、温かく、寄り添ってくれます。

これらの詩が、桜井さんの人生を何よりも語ってくれています。

(私は子どものころから詩を書くのが大苦手でした。自分の内面を出すことが恥ずかしくて、とても文章になどできませんでした。それは今も変わりません。)

 

優しい気持ちにしてくれる本です。ぜひ、読んでみて下さい。

 

 

 


「それでもボクは会議で闘う」 周防正行監督の新刊紹介です。

2015-05-07 12:42:16 | 本と雑誌

   

このGW、周防正行監督の「それでもボクは会議で闘う」(岩波書店)を読みました。

  

一般の方にはなじみが薄いと思いますが、厚生労働省の郵政不正事件で明らかとなった大阪地検特捜部の違法捜査、違法取調べを契機として、

取調べの可視化、証拠開示などの刑事司法改革を進めるために、政府の法制審議会に「新時代の刑事司法制度特別部会」というものが設置され、

昨年まで約3年にわたって、議論が行われてきました。

議論の結果は、今年、国会で刑事訴訟法等の改正として実現される予定です。

  

周防監督は、「それでもボクはやっていない」でちかん冤罪問題を取り上げ、日本の刑事司法の抱える問題点を世に問われたということで、この特別部会にも委員として参加されていました。

この本は、その特別部会での、周防監督の官僚、学者、裁判官、検察官たちとの闘いをレポートしたドキュメンタリーです。

可視化や証拠開示などの法制度、「人質司法」などの刑事司法の問題点など専門的な話も多いのですが、周防監督がわかりやすく説明を加えてくれています。

      

周防監督や、郵便不正事件で無罪となった厚労省事務次官の村木厚子さんら一般有識者委員が(弁護士以上に)筋を通して奮闘されていたことが良くわかります。

そして、官僚がいかに巧妙であるかも。

   

本書によれば、特別部会の最後の会議となった2014年7月9日の第30回会議でのこと、

極めて限定的なものとされてしまった可視化について、有識者委員の村木厚子さんが確認のための質問をしたそうです。

その質問とは、

「刑事司法における事案の解明が不可欠であるとしても、そのための供述証拠の収集が適正な手続きの下で行われるべきことは言うまでもないこと」

「公判審理の充実化を図る観点からも、公判廷に顕出される被疑者の捜査段階での供述が、適正な取調べを通じて収集された任意性・信用性のあるものであることが明らかとなるような制度とする必要があること」

この二つの共通認識を踏まえて見直しが行われると受け止めてよいか?

最高検の依命通知によって検察が新たに行うことになった録音・録画制度の運用は、捜査機関による恣意的な録音・録画と言ったものではなく、先に述べた二つの共通認識及び本答申の趣旨に沿うことを目指すものであると理解してよいかどうか?

   

この質問に対して、法務省選出の吉川幹事は、「村木委員の指摘のとおり受け止めていただいて結構です。」と答え、

最高検選出の上野委員(最高検公安部長)は、「検察の運用につきましても、村木委員のご指摘のとおりご理解いただいて結構でございます。」と答えたそうです。

  

そして、この答えを受けて、村木さん、周防さんら有識者も、限定された範囲ではあるものの取調べの全過程を録音・録画するという答申案に賛成されたとのことです。

     

さてさて、その後は・・・・ (ここからは、本書の内容ではありません。)

第30回会議から7か月後の2015年2月12日、最高検は次長検事名で、全国の検事長、検事正に宛てて「取調べの録音・録画を行った場合の供述証拠による立証の在り方等について」(依命通知)を出しました。

その依命通知には、次のようにあります。

「被告人の捜査段階における供述による立証が必要となった場合には、刑事訴訟法322条1項により供述調書を請求する以外に、事案によっては、より効果的な立証という観点から、同項に基づいて、被疑者供述を録音・録画した記録媒体を実質証拠として請求することを検討する。事案の内容、証拠関係、被疑者供述の内容等によっては、当初から記録媒体を同項に基づいて実質証拠として請求することを目的として録音・録画を行っても差し支えない。」

何を言っているかというと、犯罪事実を立証するために、取調室でのやり取りを録音・録画しましょうと、全国の検察官にお触れを出したのです。

  えっ!えっ!えっ!

検察庁の録音・録画の運用は、「公判廷に顕出される被疑者供述が、適正な取調べを通じて収集された任意性・信用性のあるものであることが明らかとなるような制度」であって、

「捜査機関による恣意的な録音・録画ではない」と、最高検の上野委員が村木さんに答えたのはどうなったの?

忘れた? 無視? 村木さんや周防さんを騙して賛成させた?

下の根も乾かぬうちに… 二枚舌…

    

そして、ゴールデンウィーク明けの今日、私が担当する裁判員裁判の2件の公判前整理手続(準備手続)がありました。

どちらの事件でも、検察官が、捜査段階の担当刑事を証人として申請する予定だそうです。

ひとつは被告人がどんな供述をしていたかを立証するため、もう一つは供述調書の任意性を立証するため。

録音録画はもちろんなくて、当時の備忘録・メモ・捜査報告書もないようで、相変わらずの捜査官の証言によって密室での取調べ内容を立証しようと・・・・

特別部会に参加していた検察官や裁判官でさえも、こんな審理は時代遅れ、もはや捜査官の証言では任意性は立証できないと切って捨てていたようなのですが、

京都地裁では、特別部会で否定された旧時代の刑事司法が相変わらず続いています。

   

まあ、いずれ任意性立証のための警察官の証人尋問なんてすることはなくなっちゃうのでしょうから、最後の記念にお付き合いしましょう。

  

*捜査官の証人尋問については、結局、被告人との水掛け論にしかならないという批判を受けて、平成17年に刑事訴訟規則が改正され、同規則第198条の4で「検察官は、被告人または被告人以外の者の供述に関し、その取調べの状況を立証しようとするときは、できる限り、取調べの状況を記録した書面その他の取調べ状況に関する資料を用いるなどして、迅速かつ的確な立証に努めなければならない。」とされました。

特別部会の結論を待つまでもなく、捜査官の証言だけではダメという規則ができているのに、未だに、捜査官を法廷に呼んでくるという旧式な立証しかされていないのが実情です。

  

*周防さんの本に引用されている、最高裁事務総局刑事局長の今崎委員の発言

「証拠構造上、被害者の供述が鍵となるような事件におきまして任意性が争われた場合には、個々の裁判においては、従来のような取調べ官の証人尋問を中心とした証拠調べではなく、恐らく最も優越した証拠である録音・録画の記録媒体を中心とした証拠調べ、これが行われていくことになるものと思われます。その結果、最終的には、これはもとより個々の裁判ごとの、事案ごとの判断になりますが、録音・録画がない場合には、その取調べで得られた供述の証拠能力に関し、証拠調べを請求する側に現在よりも重い立証上の責任が負わされるという運用になっていくのだろうと思います。この点は、録音・録画義務が課されない事件についても、被疑者の供述が鍵となる事件においては、リスクの意味合いという意味では同様のことが言えるのではないかというふうに考えております。」

要するに、録音録画がない場合に、捜査官を尋問して任意性ありと立証できたなどということは許されなくなりますよということでしょう。

早く国会で法律が成立して、この今崎委員の発言のような時代がくることを期待します。

 

 

     

  

   

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

  

 


ブラックジャックによろしく 

2015-01-14 19:11:34 | 本と雑誌

   

年末年始も、警察身柄を抱えて京都を離れることができなかったため、マンガでもまとめ読みしようとネットで電子書籍を検索していたら、

全巻無料 というのを見つけてさっそく読み始めました。

(2012年9月に作者が、本書を著作権フリーにしたために、あちこちの正規の電子書籍ストアで全巻無料配信されているようです。著作権について詳しくはこちら。 )

私がダウンロードしたのは、BookLiveという電子書籍ストアです。

   

「ブラックジャックによろしく」

有名な人気マンガですし、ドラマ?映画?にもなっているので、読んだという方、さらにファンの方も多いのでは。

私もタイトルは知っていましたが、初めて読みました。

とはいっても、あっという間に正月休みは終わって、まだ8巻くらいをうろうろしています。

   

日本の医療制度の問題点をいろいろと指摘したり、医者と患者の関係について悩み深かったり、

本当の医療現場の人からすると、こんなの違うよ~!というところもいろいろあるのでしょうが、部外者には結構勉強になります。

    

 

医者と患者の距離感が大切だとか、患者に感情移入しちゃいけないとか・・・・、先輩の医師から主人公の研修医はアドバイスを受けますが、

どうしても患者に肩入れしてしまって、でも答えはなくって、そのことで主人公の研修医は自分が悩み苦しむだけでなく、患者も悩み苦しみます。

そして、結局、正解はないまま、悩み続けることが医者としての仕事…と、

この漫画を読んでいると、勉強になるというよりも、身につまされて、だんだんつらくなってきてしまいました。

   

      

弁護士と依頼者の関係にも共通するものがあります。

私も弁護士になって1,2年目のころは、依頼者に感情移入し過ぎて潰れそうになることが良くありました。

今でも、シビアな刑事事件などでは、時に感情移入し過ぎてきつくなる事件があります。

できるだけ距離感を保つように心がけるようになりましたが、むしろ初心を忘れて事件馴れしてしまったのかもしれません。

反省です。

   

   

マンガの中に何かヒントが見つかることを願って、とりあえず最終巻まで頑張って読破してみます。

もっとも、仕事が本格的にスタートしてしまったので、なかなか読む時間が作れません 

  

それにしても、こんな力作が無料(著作権フリー)で読めるなんて。

作者の伝えたい思いがそれだけ強いということですかね。

無料です。ぜひ、みなさんも読んでみて下さい。

 

 

 


教誨師 堀川惠子 講談社2014年

2014-10-06 14:54:49 | 本と雑誌

「教誨師」の紹介です。

本書は、14歳の夏にヒロシマで被爆した教誨師渡邉普相さんから、作者に託された遺言ともいえる作品です。

 

死刑確定囚は希望すれば宗教家による教誨を受けることができます。

しかし、その教誨でどのようなことが行われているのか、死刑確定囚がどのような話をしたのかは秘密であり、具体的な内容が教誨室の外に出ることは通常はありません。

教誨師は死刑の執行に立ち会います。しかし、誰がどのように執行されていったのかは秘密であり、執行の様子が執行室の外に出ることはありません。

渡邉さんはその死後にのみ公にすること条件にその秘密を作者に告白します。

堀川さんに対して、死刑確定囚の様子、死刑執行の様子が具体的に生々しく語られます。

渡邉さんは、若くして教誨師となり、死刑により命を奪うことを宣告された人々と向き合います。
浄土真宗の教え「悪人正機」の教えを伝えることで、死刑を執行される人々に「救い」を与えようと熱意を燃やします。
しかし、渡邊さんは自らの職務に懊悩し、やがてアルコールに溺れ、アル中で入院まですることとなります。
その事実を死刑確定囚たちにさらけ出して初めて渡邉さんは気付きます、自分の教誨は一方通行だった、大上段に構え、何かを伝えなくてはと焦ってばかりいたと、
教義を教え込むことよりも、ほんのひと時でもほっと出る時間、考えることのできる「空間」を作ることこそが大切なのだと。

事実を知らなければ、私たちは死刑について意見を持つことなどできません。
本書を通じて伝えられた事実は、死刑の問題を考える上で極めて重要です。
死刑確定囚のこと、死刑執行のこと、執行する人たちのこと、ぜひ、本書を読んで知っていただきたいと思います。

渡邊さんの告白を、本書にまとめ上げた作者の筆力にも感嘆せざるを得ません。

渡邉さんは、龍谷大学で学生生活を送っていたそうですが、当時の下宿は、どうやら私の実家のすぐ近くのようです。

まだ、私が生まれる前のころの実家近くの様子が伝わってきました。

 


私は負けない 村木厚子著 (本のご紹介)

2014-01-08 11:24:14 | 本と雑誌

Dsc00343_2

 

本の紹介です。

厚労省の「郵便不正事件」を覚えておられますでしょうか?

 

障害者団体に適用される郵便割引制度を利用するために厚労省が発行する証明書を偽造して、不正に郵便料金を免れさせたとして、大阪地検特捜部が独自捜査を行い、実行犯の厚労省係長、指示をした局長(事件当時課長)を起訴したという事件です。

実行した係長は証明書の偽造を認めており、局長が偽造を指示したか否かが争われました。

裁判では、検察による強引な取調べがあったとされ、係長の供述調書をはじめ、多くの供述調書が証拠から排除され、局長は無罪となりました。

その裁判の過程で、大阪地検特捜部が、フロッピーディスクに保存されていた偽造証明書の文書データの最終更新日時を改ざんしていたいう事実も発覚し、大阪地検特捜部の複数の検察官が起訴され、有罪判決を受けました。

 

その局長が、本書の著書である村木厚子さん(現在は事務次官)です。

 

この本では、村木さんが事件を知ってから、逮捕勾留され、裁判で無罪判決を受け、さらに、この事件を契機に始まった刑事司法改革について書かれています。

 

村木さんは、偽造証明書には全く関わっていない、無実の人でした。

しかし、無実の村木さんでも、

「多くの幸運のおかげで、私は、虚偽の自白に追い込まれることなく否認を貫き、裁判を闘いきることができたのです。別の言い方をすれば、こうした多くの幸運が重ならないと、いったん逮捕され、起訴されれば無罪をとることは難しいのです。」

と述べられています。

この本の中では、

捜査機関がどのようにして虚偽自白に追い込んでいくのか、

 

捜査機関はどうしてそんなことまでするのか、

 

その時、被疑者・被告人となった人(村木さん)がどんな心情でいたのか、

ということが克明に、とてもわかりやすく書かれています。

 

 そして、冤罪を生み出してしまう警察官・検察官の心理とそれを防ぐための仕組みとして、全面的録音録画(可視化)と全面的証拠開示の必要性、人質司法の問題、一度走り始めた検察官が引き返すことのできる制度の重要性を訴えられています。

 

 当事者となった人でなければ書けない、とても迫力のある、説得力のある内容です。

 

 村木さんは、現在、「郵便不正事件」を契機として設置された法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の委員も務められています。

 当初は、「郵便不正事件」のような冤罪を生み出さないための司法改革をめざしていたはずの特別部会が、いつの間にか、可視化などの改革は骨抜きにされてしまい、盗聴などの捜査権限を強化する方策がどんどんと盛り込まれていっています。

こうした状況にも村木さんは、「がっかりした」と述べられています。

 

この本を出した理由について、村木さんは次のように書かれています。

「法制審の議論は、法律の専門家でない私たちにとっては専門的で分かりにくいものです。しかし、誤認逮捕も虚偽の自白も決して他人事ではありません。私たち誰もの身に降りかかるかもしれないことなのです。大きな課題を抱えている刑事司法の改革に、多くの方に関心を持ってほしい。」

 

「郵便不正事件を振り返り、いったい何が起きたのか、取り調べや勾留、裁判がどういうものだったのか、皆さんに広く知ってもらおうとこの本を出すことを思い立ちました。」

 

村木さんの身に降りかかった出来事は、

「郵便不正事件」だったから起こったことではありません。

大阪地検特捜部だったから起こったことでもありません。

担当検事がおかしい検事だったから起こったことでもありません。

多くの刑事事件で日常的に行われている出来事です。

村木さんのように冤罪を押し付けられる人はいくらでもいます。

でも、村木さんのように多くの幸運に恵まれる人は極めてまれです。

 

ぜひ、多くの人にこの本を読んでいただき、日本の刑事司法の実情を知ってもらいたいと思います。  

 

 

あれ!村木さんの本の後ろに、何か別の本が写り込んでしまった!!

うっかりしていました。

まあ、写真を撮り直すのも面倒なので、もうこのままにしておきましょう。

 

Photo