マンションの谷間にも・・・

マンションの谷間にも、それなりの風が吹いている。そして、
「毒グモ女、赤いマニュキュアの」
と女は若い女の母数人に目配りしていった。華奢な胸に向かって、男はふと蜘蛛の息を吐きかける。現に唇のあたりがむずがゆく感じている。
その女が赤面したと思うと、しかし蜘蛛騒動の結末を男はベンチで見守ることにしながらいる。午後の微風が気分よくしてくれる。
「今夜あたりそのクモに、パパが刺されちゃたいへん」
「出向先で」
「もっと難しくいえば、無用のパパが毒グモに刺され」
「待って！」
「波風立てるのはよくないわ」
「私絶対、絶対もうここにこないからねっ、帰るわ」
もめごとの波風を女らの間に立てた張本人が去った。

（つづく）