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2006年作、制作と監督はS.Leo Chiang。ハワイ国際フィルム・フィスティバル公式出品作、L.A.アジアン・パシフィック・フィルムフェスティバルの観客賞受賞作品。
ビル・タピアは1908年ハワイ生まれのウクレレ演奏家で、特に晩年から103歳で亡くなるまでの期間に世界最高齢プロミュージシャンとして世界的に存在を知られるようになった。ジャズギター・イディオムを用いた巧みなテナー・ウクレレ演奏と、とぼけたユーモラスな味わいのヴォーカルが相まって独特の緩くやさしい世界観を持ったスヰング・ウクレレ音楽を創造した。何枚かアルバムがCDでリリースされているがいずれも素晴らしい内容で甲乙つけがたい。
さて本作はビル翁が94歳の時に撮影された生涯唯一の映像作品でありながら、ややビターな味わいを伴う。それはなぜかといえば、ビル本人が生前この内容にハッピーではなかった事が何度も言及されていたからだ。本作のストーリーの核をなすのは、ビルを時にアシスタントとして、時に孫娘のように、あるいは親しい友達として接する26歳の白人女性との関係を軸に語られる。映像ではビルが年甲斐もなくこの女性に恋心を抱いてしまい、それを察知した女性が悩み苦しむ・・・という展開になっている。しかし、のちにビル翁曰く、この女性に恋愛感情を抱いた事実など一度もなかったという。そういわれて見ると、作為的にそのように見せようとする制作者の演出が見え隠れしてしまう。作品としてはそのほうがストーリー性があって面白いだろうが、果たして制作者の真意や如何に。
しかし、ビル・タピアという稀代のスヰング・スタイル・ウクレレの巨人を捉えた貴重な映像作品には違いない。事実はどうであれ、翁が遺した音楽はどこまでやさしく、ユーモラスで、純粋である。
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パッケージ表のステッカーから判るように、拙宅の個体はノースカロライナ州イーロン大学図書館からの放出品でした。