第二次世界大戦中のロンドン郊外で障碍を持ったスズメの雛を拾い、7年あまり子供のように育て、最後を看とった老婦人の記録です。原題は「Sold for Farthing」文藝春秋社刊。自然淘汰で巣から親鳥に蹴落とされた雛に偶然出会った。足と羽に障碍がある。鳥類に多く見られる学習行動、”刷り込み”で老婦人を親と思い、仲間と思い、その温かい交流が描かれています。すべての獣や鳥たちには知性が潜んでいて、人間から与えられる愛情や友情の絆の強さによって、差はあるにせよそれを伸ばしていけると書いています。スズメの老衰と戦う姿は人間と同じで、日常生活に次第に困難を生じ、婦人が手伝わなければならなかった事など、彼女の深い愛情と観察の鋭さに感心します。著者クレア・キップスはプロのピアニストですが、文学にも造詣が深く、引き合いにいろいろな文学の一遍を紹介している事などとても興味深く読んだ。驚いた事に、クレア・キップスが住んでいた、そして雛を拾ったロンドン郊外が何とケント州ブロムりーなのです。ブロムリーはロンドンから電車で30分、一昨年、娘一家が住んでいた所です。緑が多く森もあり、”ナイチンゲール・レーン”と言う通りもあり、ブラックバードやロビン、インコの群れなどたくさんの鳥の鳴き声が響き、楽園の趣でした。この地でこのような物語があったとは、ノスタルジーを感じ胸が痛くなります。