プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◆ 東東洋展

2005年12月18日 | ◆美しいもの。
タイプミスにしか見えないかもしれないが、「あずま・とうよう」という画家のエキシビ。
記事の初っ端にしてはだいぶ地味だが……。
江戸時代の画家。当然日本画。


特別展のあおり文句が「ほのぼの絵画の世界」というので、最初から先入観があったのかもしれない。
しかし、絵を見て、あれだけ笑ったのも久しぶりだ。別に戯画ではないのだが……
何かね。醸し出すものがね。とぼけてるんですよね。

エキシビは、だいたい時代順にならんでいるのだが、最初の方は別におかしくない。
一番最初の展示物「草虫図巻」は非常に写実的でびっくりした。バッタとか、ハエとか、ハチとか。
たた写実的なだけではなく、わずかな温かみも感じた。虫が喋りだしそう。
植物は多少、教科書的な方向に引きずられているかと思ったけれど。写実的で端整。

が、修行時代を過ぎて、真骨頂を現すようになると、端整という言葉が途端に似合わなくなる。
いや、ごく一般的な山水画「煙霞山水図」を見て、吹き出すなんて思いませんでした。
どこがツボだったかというと、山のかたち。東洋が描く山のかたちが、すごく単純に四角くて、
なんだかぼーっとしているというか、のんびりした立たされ坊主みたい。

絵を見ていくと、素朴、稚気という言葉がちらちらする。
線がかわいい。シャープさなんかない。太くて大らかな輪郭線。淡い墨の色、彩色。
動物の絵なんか、それだけで絵本のようですよ。

物によっては隙だらけ、という感じでもあった。「花鳥押絵貼屏風」のハクモクレンなんか、
ぱっと見に素人っぽく感じるほど。ステンドグラスの下絵になりそう。
あ、あと「松に鶴亀図屏風」にも笑ったなー。アンタ、亀描きすぎやないか!
六曲一双の、あまり大きくない屏風、そこに亀が200匹。(←正確じゃないけど、ざっと数えた)
大きいのから小さいのまで、よう描いたなあ。しかも、それが全くのんびりと描かれている。
ドラマチックとかそういう方向には全く行かない。「あ、まだ描ける、ここにも描ける」
……と楽しく埋めていったとしか思えない。
描くかね。普通。こんなに。


ずーっとニヤニヤしながら見て回っていたので、けっこうアヤシイ観覧者だったに違いない。


一番好きだったのは「雨雪山水図屏風」……しかし実はこれ、同じ画題で二人の画家の作品が
並んでいて、どちらが好きだったかというと、東東洋ではない方。呉春という人の作品だった。
二人はお友達だったらしいですね。

どちらも「雨」の方はあまり好きではなかった。「雪」が良かった。
呉春の方は構図に惹かれた。描かれた家も、風景も、破格?と感じるくらいあっさりしているのだが、
妙な臨場感を感じた。そのまま絵に入って行けそうな。
物が屏風だということを考えればあまり良くない感想かもしれないけれど、
まっすぐな画面で見たいと思った。屏風だとくねくね曲がっているから、だいぶ印象が違うでしょう。
でも作品としては、くねくねした状態で十全じゃなければいけないんですけどね。

東洋の方も、やはり構図が気に入っている。しかしこちらは、普通に工夫が感じられる。
雪がきれいですね。家の連なりにリズムがあるし。
でも、家の窓のところに描かれた人物……。あの唐突感は一体何なんだ。
例えて言えば、風景写真にアニメ絵を貼り付けたような唐突感。ここでもまた、笑った。


人物はあまり好きなのがなかったかなー。自分の好みが元々人物画に向かわないというのもあるけれど。
ああ、でも「立ち雛図」の人形の顔は良かった。あの笑顔は滅多にお目にかかれるものじゃありません。
欠片も邪気のない、純粋な笑顔。

それから「羅人物図屏風」というのも面白かった。
これはひたすら人物のみ。説明をメモしてくるのを忘れてしまったけど、
図柄は、とにかく奉納舞の場面だと思う。踊り手四人を一組にして、12組くらいかなあ。
切りとって貼ったように配置している。場面ではなく、デザインとしての屏風。
他の絵とは全く画風が違って、色は目を瞠るほど鮮やかで、衣装の意匠も省略することなく
ぴっちりと描いている。年代的には最初の方だったはずだから、画風が「ほのぼの系」に
移行する前だと思ったんだけど。どうだったろう。
こういう、描きこまれた絵を見ると、ようやく「ああ、プロの絵師だったか……」と思うが。


東東洋。いい意味で素人っぽさがあるかなー。「上手く描こう」とは思っていないように感じた。
では彼は何を狙って描いたのか。
……やっぱり「可愛く描こう」ですかねえ。
だってみんな、可愛かったんだもの。江戸時代の日本画だから、一見地味だけれど
可愛げのある作品でした。ポストカードの類が売っていなかったのが惜しい。


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