アッカンベー その5
あれからhimeは、少しだけお友達ができた。
好きな花のお話とか、食べ物のお話とか、髪型のお話とか、どうでもいいことなんだけれど、そんなお話をしているとhimeは、自分が「姫」ではなくなったようで、楽しかったのだ。
-受信-「hime、あなたはお城に住んでいるということだけれど、お城でどんなお仕事をしているんですか。私は町外れに住んでいるので、お城には一度も入ったことがありません。お城はさぞかし、光り輝くものでいっぱいなんでしょうね。」
-受信-「hime、あなたの住んでいるお城に、王様一家がいらっしゃいますが、王様たちはどんな生活をしているんでしょうか。うちの母は、今日も朝のパートと昼のパートと夜のパートに出かけていきました。himeを雇っている王様や、姫様は働いているんでしょうか」
「働く」 姫はこれまでその意味を「過ごす」ということと同じだと思っていた。「お金」というものも「引換カード」のようなものだと思っていたし、「蓄える」ということも、蔵にある物の位置を変える程度にしか思っていなかった。世の中の人々は、このカードによって、忙しく働かなければならないらしい。強いカードをたくさん集めると、「バトル」に勝てるらしく、人生のほとんどの時間を費やしてこれを収集するらしい、ということを知った。
また、「収集」によりバトルを行える人は余裕のある人で、過半数の人は、毎日の食べ物に交換するだけで、カードをくるくると交換しているだけだということも知った。
姫は久しぶりに、「姫」の名で、akanにメールを打ってみた。姫が携帯を使うようになって、akanはぷっつりと現れなくなっていたのだ。
「akanさん。ご無沙汰をしています。姫です。あなたのおかげでいろいろな人とお友達になれました。本当にありがとう。城下の人たちが、毎日の生活に走り回っているということもわかりました。私が、そういうカードを持っていないのに、ゆっくりと生活できていることも知りました。私は恥ずかしくなりました。働いていないのに、私はたくさんの物を持ち、使い、暮らしています。そんな、無駄使い者のわたしを、akanは軽蔑して、アッカンベーをしたんでしょうか。教えてください。私は私が姫であることを恥ずべきなんでしょうか。」 -送信ー
-返信-「久しぶりですね、姫。私は、働かず贅沢な生活をしているのに、ほこらしやかに暮らしている姫を軽蔑してアッカンベーをしていたのではありません。むしろ、その逆です。なんてうらやましいんでしょう、って思っています。働かず、花や、山を見て暮らすのは人の理想の生活です。そんな自分に疑問も恥も持たず生きているのは、万人の憧れの生活です。だから、人はそれを手に入れようとより強いカードを手に入れようとあくせくし、その中で自分をなくしたり、自分を磨いたりして人生を終わっていく。姫はそれを持っていた。だから、私は悔しくってアッカンベーをしたんですよ。」
姫は、褒められているのか、けなされているのかわからなくなってしまった。
私の生活は、自分では気がつかなかったけれど、「万人の憧れ」であったらしい。できることなら、人は働かず、贅沢な生活をしたいものらしい。しかし、私は何の苦もなくそれを持っていた。「姫」というカードには、本当の私の絵が描いてあるのだろうか。「姫」という文字がかいてあるだけで、それは「私」ではないのではないだろうか。
と、姫が哲学的な思考に頭を悩ませていると、城のそこかしこからざわめきが響いてきた。
そうして、ジイが、ここ何年も見たことがないような全速力で、姫のもとへとやってきた。
「姫、大事でございます。皇帝様が王様を廃位なさるとの勅令をお出しになりました。」
え、廃位?それってクビってこと?お父様が王位からリストラされたってこと? つづく
あれからhimeは、少しだけお友達ができた。
好きな花のお話とか、食べ物のお話とか、髪型のお話とか、どうでもいいことなんだけれど、そんなお話をしているとhimeは、自分が「姫」ではなくなったようで、楽しかったのだ。
-受信-「hime、あなたはお城に住んでいるということだけれど、お城でどんなお仕事をしているんですか。私は町外れに住んでいるので、お城には一度も入ったことがありません。お城はさぞかし、光り輝くものでいっぱいなんでしょうね。」
-受信-「hime、あなたの住んでいるお城に、王様一家がいらっしゃいますが、王様たちはどんな生活をしているんでしょうか。うちの母は、今日も朝のパートと昼のパートと夜のパートに出かけていきました。himeを雇っている王様や、姫様は働いているんでしょうか」
「働く」 姫はこれまでその意味を「過ごす」ということと同じだと思っていた。「お金」というものも「引換カード」のようなものだと思っていたし、「蓄える」ということも、蔵にある物の位置を変える程度にしか思っていなかった。世の中の人々は、このカードによって、忙しく働かなければならないらしい。強いカードをたくさん集めると、「バトル」に勝てるらしく、人生のほとんどの時間を費やしてこれを収集するらしい、ということを知った。
また、「収集」によりバトルを行える人は余裕のある人で、過半数の人は、毎日の食べ物に交換するだけで、カードをくるくると交換しているだけだということも知った。
姫は久しぶりに、「姫」の名で、akanにメールを打ってみた。姫が携帯を使うようになって、akanはぷっつりと現れなくなっていたのだ。
「akanさん。ご無沙汰をしています。姫です。あなたのおかげでいろいろな人とお友達になれました。本当にありがとう。城下の人たちが、毎日の生活に走り回っているということもわかりました。私が、そういうカードを持っていないのに、ゆっくりと生活できていることも知りました。私は恥ずかしくなりました。働いていないのに、私はたくさんの物を持ち、使い、暮らしています。そんな、無駄使い者のわたしを、akanは軽蔑して、アッカンベーをしたんでしょうか。教えてください。私は私が姫であることを恥ずべきなんでしょうか。」 -送信ー
-返信-「久しぶりですね、姫。私は、働かず贅沢な生活をしているのに、ほこらしやかに暮らしている姫を軽蔑してアッカンベーをしていたのではありません。むしろ、その逆です。なんてうらやましいんでしょう、って思っています。働かず、花や、山を見て暮らすのは人の理想の生活です。そんな自分に疑問も恥も持たず生きているのは、万人の憧れの生活です。だから、人はそれを手に入れようとより強いカードを手に入れようとあくせくし、その中で自分をなくしたり、自分を磨いたりして人生を終わっていく。姫はそれを持っていた。だから、私は悔しくってアッカンベーをしたんですよ。」
姫は、褒められているのか、けなされているのかわからなくなってしまった。
私の生活は、自分では気がつかなかったけれど、「万人の憧れ」であったらしい。できることなら、人は働かず、贅沢な生活をしたいものらしい。しかし、私は何の苦もなくそれを持っていた。「姫」というカードには、本当の私の絵が描いてあるのだろうか。「姫」という文字がかいてあるだけで、それは「私」ではないのではないだろうか。
と、姫が哲学的な思考に頭を悩ませていると、城のそこかしこからざわめきが響いてきた。
そうして、ジイが、ここ何年も見たことがないような全速力で、姫のもとへとやってきた。
「姫、大事でございます。皇帝様が王様を廃位なさるとの勅令をお出しになりました。」
え、廃位?それってクビってこと?お父様が王位からリストラされたってこと? つづく