唐突な危険に、私は走っていた。周りの崖からは大粒の石や土がばらばらと降りかかり、土煙の中で景色がかすんだり見えたりしていた。左下には急流が流れ、周りの人は大声で何か叫びながら、とにかく逃げていた。まだ、地面は揺れを繰り返していた。石を飛ばす崖も、眼下の急流もおさまらぬ揺れが造り出したものであるのかもしれない。見も知らぬ人々が、とにかくここから逃げろと叫んでいる。でも、土埃でかすんで、いったいどこが安全な場所なのか、わからない。人が走る方へ、少しでも地面に近い所へ走り下りていこうとするが、よろけてまっすぐ進めない。隣の人が私の手を握り、かすんだ大気から引っ張り出すようにしてくれた。その人は知っている人のようでもあり、私を助けてくれる理由もない人のようでもある。日が暮れたのかあたりは暗くなってきた。やっと平らな場所に立っていた。多くの人ががやがやと草の上に座り込んで何かを話しているが、聞き取れない。手を引いてくれた人と手をつないだまま暗くなった空を見ると、宇宙ステーションが灯りをつけて空にとどまっていた。昔、こんなアメリカ映画を観たな、と思った。夜気はしっとりと冷たく、明るく空に浮かぶものから逃げるべきであろうが、見上げたまま見入ってしまい、しばし足が動かない。逃げねば、もっと遠くへ逃げねば。どこまで逃げねばならないのか、何から逃げねばならないのかわからないまま、とにかく私は違う場所に行かねばならないとおもっていた。服は土埃をかぶり、かさぶたのように乾いて固く体を覆っていた。どこともわからぬ夜の草原にいたことは覚えているが、そこから先は思い出せない。
ぼんやり目を覚ますと、白い布団の中にいた。さっきまでの重い上着でなく、柔らかく白い部屋着を着て布団をまとっているようだ。「うちにいるの?」「うちにいるの」って言葉がこんなにいい響きの言葉だったことにじんとしてしまった。「うちにいるの?」声に出してみると、隣には人がいて、ゆっくりと強く私を抱きしめた。うちにいるのかもしれない。わたしはうちにいるのかもしれない。隣の人はまた、柔らかく私を抱きしめた。甘美な抱擁だった。あまりにもすべてを投げ出せるような抱擁だったので、私は思わず隣の人を押しのけてしまった。こんな時も私は抱きしめる人をはねのけるのだなと思いながら。
そんな、エロティックな夢を誕生日の夜に見た。
隣の人を押しのけたところで目が覚めたけれど、しばらくどきどきして呆然として動けなかった。もう長いこと生きてきてそんなことはもう信じなくなっていたのに、何にも信じていないのに、昼になっても甘い思いが押し寄せる。
ぼんやり目を覚ますと、白い布団の中にいた。さっきまでの重い上着でなく、柔らかく白い部屋着を着て布団をまとっているようだ。「うちにいるの?」「うちにいるの」って言葉がこんなにいい響きの言葉だったことにじんとしてしまった。「うちにいるの?」声に出してみると、隣には人がいて、ゆっくりと強く私を抱きしめた。うちにいるのかもしれない。わたしはうちにいるのかもしれない。隣の人はまた、柔らかく私を抱きしめた。甘美な抱擁だった。あまりにもすべてを投げ出せるような抱擁だったので、私は思わず隣の人を押しのけてしまった。こんな時も私は抱きしめる人をはねのけるのだなと思いながら。
そんな、エロティックな夢を誕生日の夜に見た。
隣の人を押しのけたところで目が覚めたけれど、しばらくどきどきして呆然として動けなかった。もう長いこと生きてきてそんなことはもう信じなくなっていたのに、何にも信じていないのに、昼になっても甘い思いが押し寄せる。