島津 翔様記事抜粋<
2025年1月27日の米国市場は「DeepSeekショック」に揺れた。中国のAI(人工知能)開発企業、DeepSeek(ディープシーク)が、低コストで高い性能を持つAIモデルの提供を開始したのがきっかけだ。市場は、AI向け半導体で一強が続く米NVIDIA(エヌビディア)製GPU(画像処理半導体)の依存度が下がると見て、AI半導体関連株が一斉に売られた。一方、テック企業担当のアナリストからは「低コストは『誤解』だ」との意見も出ている。ディープシークはAI学習にパラダイムチェンジを起こすのか。
エヌビディアは時価総額91兆円が蒸発
半導体株などのAI関連銘柄は大幅安となった。エヌビディアは一時17%下落。時価総額にして約5900億ドル(約91兆円)が吹き飛んだ。米ブルームバーグはこれを個別企業の1日の時価総額下落幅として史上最大額だと報じている。
米Broadcom(ブロードコム)は同17%、ナスダックに上場している英Arm holdings(アーム・ホールディングス)は同10%、それぞれ下落した。半導体だけでなく、米Google(グーグル)の親会社である米Alphabet(アルファベット)が同4%、米Microsoft(マイクロソフト)も同2%安となり、クラウドなどのAIインフラを提供する企業にも影響が及んだ。
ディープシークは2023年に創業した中国のAI開発企業。AIモデルを開発する他、自社開発のモデルを利用した社名と同名のAIチャットボットを提供している。同チャットボットのアプリは1月27日時点で米国のiPhone向け無料アプリランキングでChatGPTを抑えて1位になっている。アプリは無料で利用できる。
ディープシークが2024年12月に公開した主力モデル「DeepSeek-V3」と、V3をベースに性能を向上させて2025年1月に公開した「DeepSeek-R1」が注目を集め、かつ、米金融市場を揺るがした理由は、その性能と学習コストにある。
ディープシークはV3について「米OpenAI(オープンAI)のAIモデル『GPT-4o』と同等の性能を持ちながら、学習コストがわずか560万ドルだった」としている。
オープンAIはGPT-4oの学習コストを明らかにしていない。ただ競合企業である米Anthropic(アンソロピック)のダリオ・アモデイCEO(最高経営責任者)は2024年7月に登壇したイベントで、現行モデルの学習に1億ドルを要しており、次世代モデルの学習費用は「10億ドルになる」とコメントしている。ディープシークのモデルは、これらに比べると文字通り桁違いのコストで開発したことになる。
しかもディープシークはV3の学習に、エヌビディアの主力GPU「H100」ではなく性能を落として中国向けに輸出したGPU「H800」を利用したとしている。
AIモデルの開発に当たっては、学習に利用するデータの量と計算量、モデルのパラメーター数の3つが大きくなればなるほど性能が向上するというスケーリング則が信じられてきた。オープンAIが公開した論文で示したものだ。実際、ChatGPT以降のAIブームおいて、オープンAIやグーグルなどは、その規模の競争を続けてきた。
エヌビディアのGPUに争奪戦が生じ、クラウド大手がこぞってデータセンターに巨額投資してきたのも、規模の競争の文脈にある。米投資銀行William Blair(ウィリアム・ブレア)のアナリスト、セバスチャン・ナジ氏は「(ディープシークの)ニュースは、米国のハイパースケーラー企業がAIモデルの学習に数十億ドルを投じている現状を揺るがすものであり、ハードウエアの供給網(サプライチェーン)全体やAIエコシステムに波及効果を及ぼす可能性がある」と指摘する。ディープシークのAIモデルは、規模の競争に「待った」を投げかけたわけだ。
ただし、V3やR1の登場が、加熱するAI半導体投資を終焉に導くとの結論は短絡的に過ぎる。アナリストや専門家からは「株価暴落は過剰な反応だ」との声が上がる。
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