小規模生活単位型高齢者移住施設における滞在場所の多様性に関する考察
日本建築学会計画系論文集 第78巻 第687号p.979-987.2013年5月
橘 弘志
- はじめに
今日ではユニット型施設を対象とした研究は多く行われさまざまな知見が得られている。しかし今後入居者の重度化がますます進行することが予測され,生活が単調になりやすいなどの問題がありそのような状況にユニット型施設がどう対応していくのかが重要な課題となっている。そのことをふまえ,本研究では生活ユニットのつくりと入居者の生活との関わりを分析することにより,今後ますます重度化する入居者の生活の質を高めるための空間の在り方について知見を得ようとするものである。
2.調査概要
調査対象
A施設:平屋建てのユニット型特養(既住の建築的知見を活かして設計された比較的新しい事例)
B施設:ユニットケアにモデル施設となった特養(ユニット型特養の制度化以前からいち早く取り組んできた先駆的事例)
C施設:2ユニットからなるGH(小規模ながら多様な空間構成を有するGH)
調査は,平日の7時~19時の間,15分おきに各入居者およびスタッフの滞在場所をプロットし,それぞれの行為の様子を記入した。
3.調査結果・まとめ
(1)3施設における空間の滞在様態の違い
A施設
共用空間における滞在場所の数が最も少なく,軽度入居者では複数の場所で多様な行為が見られたが,重度入居者にとってはリビングに滞在場所が限定されるなど,質的にも選択肢が乏しい状況なっている。
B施設
軽度・重度ともにユニット内外に複数の滞在場所が形成されていた。
C施設
最も共用空間での滞在が長く,滞在場所の量・質ともに充実していた。
(2)滞在様態が入級者の生活へ及ぼす影響
A施設
重度化ととみ生活が画一化・単調化する傾向がみられた。
B施設
重度化するにつれ単調になる傾向はあるが,共用空間を中心とした生活となっており,滞在場所において他の入居者との接点は維持されていた。
C施設
軽度から重度にいたるまで在室率や移動回数などにばらつきが大きく,生活の個別性が認められた。
(3)多様な居方を促す場所
各施設の居方の場面を抽質した結果,ユニット内のメインの共同生活室だけに生活が集中するのではなく,メイン以外の場所や周辺的参加を促す場所,メインの場所の分節化,多様なコントロール可能な仕組み,ユニット外への生活の広がりなどによって,より多様な居方の場面をもたらしうることを指摘した。
(4)滞在場所の選択性と環境の許容性
選択性のある環境は,軽度から重度まで幅広い人を受け入れることのできる許容性の高い環境と言える。それは属性の異なる多様な人同士の共存を可能にし,特定の人同士に限られないより幅広い社会的関わりをもたらしうると考えられる。
(小林千紗奈)
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