建築・環境計画研究室 (山田あすか)

東京電機大学未来科学部建築学科

「福祉起点型共生コミュニティ」の類型整理に基づく多様な事例の実態と課題

2023-07-20 17:13:07 | 書架(高齢者関係)

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地域施設計画研究40 20227月日本建築学会
建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会

Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.40, Jul., 2022

 

・・以下検索用文字列…

「福祉起点型共生コミュニティ」の類型整理に基づく多様な事例の実態と課題 ORGANIZING SITUATION AND PLOBLEM OF VARIOUS CASES BY CLASSFYING AND ORGANIZING WELFARE ORIGINED SYMBIOTIC COMMUNITTY Keywords: Keywords : WELFARE ORIGINED SYMBIOTIC COMMUNITTY, Wel fare facility, Local migration, Co-occurrence network 福祉起点型共生コミュニティ,福祉施設,地方移住,共起ネットワーク 金子亜里砂地域内での自助・共助の仕組 みなどを活用しつつ,高齢者が適切な支援を受けなが ら地域で生活し続けられる仕組みの構築が目指されて いる。厚生労働省は地域包括ケアシステム,国土交通 省は自治体と連携して高齢者や障碍者,子育て世帯等 の住宅確保要配慮者への住宅や住宅斡旋の整備を行っ ている。他方,都市圏への人口集中と地方の過疎化と いう人口偏在も大きな社会問題であり,その解決方法 として,内閣府は地方や郊外など比較的人口密度の低 い地域へのセミリタイヤ〜リタイヤ世代の移住を促す 動きもある。同時に,就労世代の移住や二拠点居住な ども注目される。移住者によって地域に雇用や経済の 動きなどの活性化が期待されており,地方創生の一環 としてCCRC やスマートウェルネスシティ,セカンド ハウス促進など多様な取り組み例がある。これらはそ れぞれ異なる事業であるが,その背景にある課題は共 通していることから,地域性や居住者像に合わせた選 択肢として再整理することが可能だと考える。 1.2 本研究の位置づけと既往研究について  現在までに,高齢者等の住宅整備という観点では サービス付き高齢者向け住宅の検討会等が行われてお り,西川氏はこの検討会での報告書から“ サ高住に生 活する高齢者の生活全般を考える「街」という視点が 重要であり,単体としての高齢者向け住宅の整備だ けでは高齢者の生きる力にはならない” と述べ,サー ビス付き高齢者向け住宅に住む高齢者と地域コミュ ニティの関わりについて事例を用いて課題の整理を 行っている。同時にストック活用についての課題にも 触れており,活用の在り方を地域コミュニティの形成 の観点から人的な要素を加えた手法の整備が必要だと 述べている1)。また,地方創生について経済学から医 療・福祉まで複数の視点からの論では,松田氏が米国 CCRC を元に日本でのあり方をビジネスの視点を含め て論じたものや2),園田氏による東京圏や都市部での 地域包括ケアの在り方や高齢者住宅の整備における課 題等をまとめ,今後の高齢者支援の仕組みについて言 及したものがある3)。これらは政策単体の仕組みや建 築を整理しており,これに加えて政策から建築までを 結ぶまとめ資料はより有用な知見となると考えた。 1.3 研究の目的  本研究では,これらの行政から福祉施設までの多様 な取り組みを「福祉起点型共生コミュニティ(図1注1))」 と総称する。多様な取り組みの有り様を,地域に点在 する資源の活用方法と,福祉施設の支援状況の両面か ら活用できるよう取りまとめ,後続の取り組みに資する知見として整理することを本稿の目的とする。その ため,本研究では各行政の掲げる地方創生の政策や取 り組みのうち,「生涯活躍のまち」先行モデル事業時 期において取り組まれた,地域のコミュニティの維持 や持続可能な地域づくりの施策や施設を対象として整 理・分類を行う。これら先行事例はモデルとして紹介 され,その後に続く事例のひな形となったためである。 2.調査概要  調査対象は内閣府が主導する地方創生のうち,地域 のコミュニティ維持を目的とした「生涯活躍のまち構 想に関する手引き(以下,手引き)」とその先行自治体 となっている42 地域の総合戦略の他,内閣府,厚生 労働省,国土交通省が補助金対象や先行事例として紹 介する福祉・医療施設142 のうち,実際に訪問可能で あるなどの条件で50 件を選定した(表1)注2)。まず 調査1として,手引きと各総合戦略の内容,50 施設の 運営方法や理念等を把握する。次に調査2では,調査 1で使用した対象施設のテキストを使用し,「使用資源 →支援・整備目的」となるような共起ネットワークを 作成して共起関係を明らかにし,50 施設について整理・ 類型化を行う。最後に調査1で抽出したキーワードと 調査2で行った資源と支援・整備目的による類型,対 象施設へ運営様態や地域福祉の現状,今後の課題につ いてのヒアリング調査を行った(表1)。 3. KH_coder による単語の共起分析 3.1 調査対象と共起ネットワークの作成  調査1ではKH_coder による単語の共起分析を行う。 初めに調査準備として手引き,各地域の総合戦略の内 容,50 施設の運営方法や理念等を「基本的な考え方」, 「総合計画との関係」,「施策の目標と基本方針」の3 2/10 Table.1 Summary of study 各政策の内容を把握し,類型化の基準となるキーワードを作成する。

対象とする医療福祉施設50 施設について整理・類型化を行う。 「使用資源→支援・整備目的」となるような共起ネットワークを作成する。 各調査対象の政策内容や内閣府・厚生労働省・国土交通省が補助対象や 先行事例として紹介している施設の運営内容について把握し,政策や施設 のホームページの文章から類型化のための基本となるキーワードを KH_coder にて作成する。 調査1 で使用したテキストから,「使用資源→支援・整備目的」となる 文章を抽出し共起ネットワークを作成する。さらに,中心理念とサービス, 建築種別へのつながりを整理し,類型化を行う。 調査1,2の結果とヒアリング調査をもとに,事例を介して類型化を行う。福祉起点型共生コミュニティ」の概念図

その内,1 単語の固有名詞が複数の語と して抽出されている場合は正しく抽出されるよう指定 する。また,抽出の際は組織名や地名などの共起が抽 出されないようにあらかじめ設定した。これらのデー タをもとに,頻出語句上位75 語に対して施策につい ては共起回数100,施設に対しては60 として出力した。 3,2 キーワードの抽出とその特徴  作成した共起ネットワークからそれぞれの特徴を並 べると,いずれも地域という単語が中心となり他の単 語が出現している(図2)。手引きの共起ネットワー クの特徴をみると,地域という言葉の他に生活や医療・ 介護に関係する言葉が頻出した。この他にも「市町村」 の近くに「計画」や「作成」があり,各地方自治体が 事業を主体的に推進する文脈構成が伺える。またこれ らの対象として,手引き内には子供や高齢者について も言及があるが,最も共起が多く出現したのは中高年 で,これらの年齢層を対象に社会参加や健康的な生活 の整備を進める内容であると分かる。42 地域について も同様に特徴を見ると,地域という単語を中心に子育 て,医療,産業という3 つの大枠に分かれている。子 育てでは「結婚」「出産」「子供」,これと離れた医療関 連で「健康」が抽出され,高齢者を対象にこれら施策 が記述されている。最後に産業では「雇用の創出や観 光,企業への支援」といった共起が作られており,対 策として盛り込まれていることが分かる。50 施設でも, 前の2 事例と同様に地域について強い共起関係が読み 取れる。これは地域包括ケアシステム等の推進が行政 や施設の考え方の中心にあるためと考えられる。 4.活用する資源とその目的のネットワーク 4.1 活用する資源と目的のネットワークの全貌  調査2として,内閣府,厚生労働省,国土交通省等 の各行政庁が地方創生のモデルとして先行交付金対象 とした福祉施設や住宅施策の取り組み50 件について, ホームページ上のテキストから施設理念や事業内容を 取り出し,施設の整備目的とその支援方法の共起ネッ トワークを作成した(図3)。「住み慣れた地域で暮ら せる」「誰もが安心して暮らせる」「多様な交流を促す」 がネットワークの中心となり,自立支援や混在による 活動の機会がサブ的中心をなす。それらを医療・介護 の連携や助言・相談,食関係の支援,他世代住宅,福 祉の多機能化が資源として支える構造である。 4.2 特徴的な活用資源と支援の関わり    図3から,整備の目的と資源の共起回数が10 回以 3/10 図2 KH-coder による生涯活躍のまち構想等のテキスト分析

交流を促すための食の支援は活用資源や手法が多 岐にわたり,また身近であることから様々な地域で展 開しやすいのではないかと考えられる。一方で,子育 て世帯への支援は共起する資源の数や目的が少なく, 移住支援については総合戦略等で促進され様々な活動 が行われつつあるものの,移住者は簡単に増えず,な お支援すべき課題として取り上げられている。   取組の目的を達成するために,どのような資源の活 用や施設整備と対応しているかを図6に整理し,大き く6つの手法に分類した。子育て世帯への支援として, 多機能福祉機能施設,誰もが安心して暮らせるための 団地改修とサービス拠点併設,等である。なお,1つ の取り組み例が複数の類型に合致する場合がある。

訪問看護(14) リハビリ(10) 多世代住宅(13) 食による支援(13) ボランティア活動(11) 複数の福祉施設の併設(13) デイサービス(10) 食堂・喫茶店・レストラン(12) 農園(10) 医療・介護の連携(24) 相談,助言の場(22) 活用・整備する資源 日常生活の支援(17) 健康に過ごす(23) 地域で活動し,地域で暮らす(23) 住み慣れた地域で暮らし続ける(49) 誰もが安心して暮らせる(59) 子育て世帯への支援(23) みんなで楽しめる場(10) 高齢者・障碍者の就労(10) 多様な交流を促す(48) 自立して生活する(32) あらゆる人が集まり,活動できる場(25) 活用・整備する目的 図4 整備目的と資源の共起回数 共起回数 1 ~ 2 3 ~ 5 6 ~ 10 11 ~ 凡例 () 内の数字は,文章内の出現回数を表す 線の太さは共起の回数を示す 出現回数上位10 個による 5.取組の目的- 手法の類型による特徴的事例  4.2で整理した手法6類型について,特徴を表す 典型的な例であり,かつ複数の事例集で参照されモデ ル性が高いと考えられる該当例を1事例ピックアップ し,施設概要を表2〜4に示して以下に説明する。様々 な取り組みのいずれにも必ず地域住民が利用できる場 所があり,施設やサービスの利用者と地域住民の交流 や地域との関係づくりが企図されている。なお節タイ トルとした類型名に付した()内は該当事例数を示す。 5.1 複数の福祉施設の併設(12)_ 子育て世帯へ の支援を充実させた事例  複数の施設を併設して子育て事業で地域に貢献し, 子供から高齢者,障害者も共に地域で暮らすための幅 広い居場所づくりや住宅整備を行う事例である。  駅から徒歩15 分程度の距離にある築12 年のUR 団 地と隣接した複数の福祉施設が併設した事業所であ る。2,3階建てと低層の生活棟と福祉棟に分かれてお り,二つの棟をカフェと団地の公園が繋ぐ。道路向い には保育園と幼稚園があり,団地内の広場以外にもコ ミュニティセンターと公園が併設され,子供が安心し て遊べる。小学校も徒歩10 分圏内にある。  地域の暮らしを支える生活棟の2階には多様な活動 のための地域活動スペースとして,子供カフェや地域 交流教室,料理教室や講座,子育て相談等などの活動 図4 整備目的と資源の共起関係(抜き書き) 図5 共起ネットワークから見た特徴的な活用資源と支援の関わり − 183 − 6/10 を通して幅広い支援を行う。事業の一環として一時保 育事業や,日常生活や身近でこまごました支援まで相 談できる相談事業を併設し,様々な人が利用する。1 階部分には日用品や食材等の小売店のほか,配食サー ビスを兼ねた総菜・弁当屋,福祉用具を専門に扱う福 祉用具事業や,広場に面したカフェが入っている。  二棟をつなぐ広場では年4回のマルシェ(市場)や 子供の遊び場企画,夏至のキャンドルナイトイベント 理念

community.  「サポートセンター構想」のもとに,車いす生活に対 応できるバリアフリーの住環境と,24 時間連続する看 護・介護・入浴・食事サービスなどの入居施設と同様 のサービスを住み慣れた住まいや今までの暮らしの中 で受けられるシステムと,要介護者・介護支援者であ る家族を支える仕組みをつくっている。高齢者自身の 「出来る限り現在の生活を継続したい」というニーズに 応えるため,要支援高齢者と在宅介護者の双方を支え る仕組みとしてアメリカのPACA(高齢者包括的ケア プログラム)と類似したケアシステムをサポートセン ターとして提供する。「福祉サービスはいつも使う人た ちの目の前にあり,使ってよかったと思えるサービス であるべき」という考え方から,2中学校区に1ヵ所 の小規模で多機能なサービスを分散配置している。  点在する複数の施設のうち,補助金対象になった施 設について事例として紹介する。周辺は閑静な住宅街 で,用水路と川に挟まれた車通りの少ない道に面して いる。併設施設は地域密着型老人福祉施設(定員20 名) の他,小規模多機能型居宅介護(定員25 名),認知症 対応型共同生活介護(定員9名)と,市補助事業であ る在宅支援型住宅(10 室)等の入居施設からなる。在 宅を支援する小規模多機能型居宅介護や,地域に開放 されたキッズスペースや地域交流スペース,カフェテ ラスなどが併設されている。この内,在宅支援型住宅 は住居の提供・安否確認・相談援助のみで,基本的に 自立した居住者が対象である。在宅生活が難しい場合 は,隣接した小規模多機能型居宅介護を利用して地域 継続居住を支える。外来者の訪問に制約や条件はない。 小規模多機能型居宅介護と地域密着型老人福祉施設は 同一建物内にあり,それらをつなげる地域交流スペー スではコーヒーが無料で提供され,近隣住民や利用者 が自由に出入りする。近所の小学校の子供なども放課 後にキッズスペースを利用しており,多様な世代の住 民が集まる地域交流の拠点として機能している。 5.4 就労支援(6)_ 地域に開かれた障碍者就労事 業所の事例  児童デイサービスと児童居宅介護事業(ホームヘル プサービス)から始まった事業で,2006 年に旧保育 所の建物を改修して事業所を移転して障碍児の放課後 デイサービスを開始した。障碍者のサービスを中心に 障碍者の就労支援と年齢や障碍の有無を問わず福祉 サービスを提供する。就労の目的に,地域住民とふれ あいながら自分らしく成長し,地域での自立的な生活 を支援する場所というテーマを掲げている。活動拠点 となるレストラン(コミュニティカフェ)やボラン ティアセンターが併設された共生型地域オープンサロ 8/10 表4 支援と支援拠点の類型整理ごとの事例(3) − 186 − ン「ガーデン」は障碍者の就労活動の拠点,地域住民 のサロンである。ここでは障碍を持つ人が主体となっ て喫茶店と駄菓子屋を運営し,コーヒーや手作りのお 菓子等を提供し地域住民とも関わる。駄菓子屋は障碍 者就労と高齢者のボランティア活動の場で,子供に昔 ながらの遊びを教えるなど世代間交流を担う。コミュ ニティカフェでは就労支援と交流を兼ねて障碍者と地 域住民が朝食・昼食の注文取りから調理,配膳を行う ボランティア活動を行っている。これらは,福祉活動 に対する理解や協力体制を育て,趣味や交流の幅を広 げらる地域福祉の一助となっている。  また,地域住民が福祉の一端を担う有償ボランティ ア「パーソナルアシスタントサービス」では,大学生 から団塊世代までの地域住民が1時間500 円で公的な 福祉サービスでは提供できない通勤支援や犬の散歩, 買い物支援などを提供する。このボランティアを行う 際には,ボランティアと利用者の安全のため大学教員 や福祉関係者が講師を務める,ヘルパー3級程度のオ リジナルカリキュラムを受講することとなっている。 5.5 交流場所整備(35)_ 地域内外の多様な人々が 集う施設群の事例  町が入手したが人口減少や経済の衰退によって10 年以上放置されていた駅前の土地の再生に端を発する 事業。駅を挟んだ反対側は住宅街。町民は基本的に車 での移動で,電車は2時間に1本程度であり,交通の 便が良い場所ではない。従来の公共事業のように単純 に場所をつくっても地域の活性化につながらないこと が明らかであったので,地域での生活を基本に必要な 中身を考え,そこから空間を考えるアプローチを採っ た。また,不動産的価値を考え,税収や賃料等を決め るファイナンス思考に基づく事業性が注目された。類 似の整備事業には国からの補助金で建設費は賄えられ るが,その後の持続的な経営が続かないケースが多々 ある。本事業では民間主導で,補助金を前提とせず, それぞれが利益を上げて事業の継続的運営を可能にし ている。その他にも建物ごとに株式会社として独立さ せ,1ヵ所の施設経営難が連鎖しない仕組みとした。  小児科・保育室,発達相談支援,子育て支援センター, 高校受験を支援する塾,図書館,スタジオやキッチン, アトリエ,バレーボールができるアリーナ(体育館), 研修施設があり,町内外の利用を呼びこみ多様な人々 の交流拠点となっている。地域交流拠点として活用さ れる図書館では農業などの産業支援をはじめ,地域住 民の役に立つ情報を発信しているほか,地域に根差し た多様な企画展やイベント等が開催されている。さら に町役場が併設され有事の際には防災拠点として機能 する他,宿泊施設やエコハウスの機能を体験できるモ デルハウス,それらの設備を使った住宅群,日常的に 必要な店舗や飲食店などが敷地内併設されており,地 域でのものづくりを生み出す産業ではなく,「住むこと を楽しむ」ための機能をまとめた拠点になっている。  地域住民に必要な支援や設備を中心に,自然と人が 集まり活動,交流を通して地域継続居住を支援し地域 の持続に寄与する社会資源となる施設である。 5.6 多世代住宅やシェアハウスなど住宅整備(30) _ 互いに助け合うシェアハウスの事例  4路線が乗り入れるターミナル駅の駅前で市内でも 最も活気ある場所に立地し,周辺には生活利便施設が 多く立ち並ぶ。緩和ケアを中心とした有床診療所の運 営者が大家となり,隣接して立地する。運営者は,高 齢者の孤立化や入院期間の短縮化,核家族化で介護が 困難な社会環境になりつつあること,障碍者の社会参 加の場が少ないこと等を問題だと捉え,従来の福祉施 設にある入居対象を定めた住居ではなく多様な住人が お互いに助け合える住宅づくりを行った。1階部分に 児童発達支援事業所と,美容院,ネイルサロン,クリー ニング等のテナントが入り,2階にシェアハウス,3 階から6階に賃貸マンションが配置されている。シェ アハウスの共用キッチンでは住民の交流イベントが開 催されるほか,有志ボランティアが孤食や欠食の子供 を支援する子ども食堂が定期的に開催されている。  「互いに協力し,相互に助け合う」という理念が掲 げられ,学生から夫婦世帯,一人暮らしの社会人や高 齢者など幅広い世代,ライフスタイルの住人が集まっ て暮らせるように住戸が配置されている。住宅を管理 する事務局では日常的な困りごとの相談から,介護の 相談まで幅広く対応する他,大家が運営する診療所と 連携して介護が必要になってもケアを受けながら暮ら し続けられるよう連携している。ケアマネージャーと 連携し,介護保険サービスの手続きなど医療・介護の 両面からサポートを行う。入居している学生には,高 齢者の買い物やゴミ出し等の日常生活を手伝いとバー ターでの家賃補助など,それぞれが必要とする支援に 合わせた仕組みがある。地域との連携として,1階に − 187 − 9/10 10/10 併設されているカフェではイベントのほか,児童発達 支援事業所を利用する子供と,入居者の交流,NPO 団 体を介した地域の子供と入居高齢者の交流など多様な 関わりが生まれている。また,建物内の一角を利用し てアーティストの作品展示など地域との関わりを支援 するイベント等も積極的に行われている。  福祉だけでなく,日常的な関わりからお互いに関係 を築くことで人づくり・まちづくりを支援している。 また今後の展開として,里親が子供たちを育てる社会 的養護「小規模住居型児童養育事業」を予定している。 6.まとめと課題  現在までに様々な方法で地域の資源活用が行われ, 支援が行われていることが改めて明らかになった。こ れを,図3(キーワードの共起の関係)を元に表に整 理した全体像を表5 に示す。「カフェ・レストラン」や「施 設併設の交流スペース」での「交流(①:0.32,0.38)」 を含む「交流②」は最も多様な資源の活用との組み合 わせで記述される。同時に「施設併設の交流スペース ③」は多様な支援内容(目的)との関係で記述される。 居場所やイベントとの関係も特徴的である④。「訪問/ 通所/入所型福祉サービス」での「日常生活の支援(⑤: 0.28,0.22,0.30)」を含む「自立した生活⑥」も多 数のキーワードとともに記述され,現在の国の方針で ある在宅支援や社会保障費の削減に呼応した支援内容 への言及が含まれる。今後も地域特性に合わせた拠点 等の整備が必要であり,本稿で整理した,団地や空き 家等の資源活用や福祉事業の多機能化は大まかな方向 性として共通していると考えられる。また,6類型と その事例は取り組みモデルとして全貌理解へのガイド ラインとなる。今後は活用できる資源の確保やその管 理,整備までの過程,組織づくりについてのモデルと 併せた検討が必要だと考える。 注釈 注1)この図は,まち・ひと・しごと総合戦略,地域包括ケアシ ステム,住宅セーフティネットの理念に含まれるキーワードを 包括的に整理したもので,このように異なる政策も相互に関係 して地域やその住環境の維持に寄与することが期待される。 注2)厚生労働省地域共生拠点づくりの手引き(セーフティネッ ト支援対策等事業費補助金,H24),老人保健事業推進費等補 助金(H24),地域包括ケアシステム構築へ向けた取り組み事 例,国土交通省スマートウェルネス住宅等推進事業,小さな拠 点づくりガイドブック(H25,27),内閣府日本版CCRC 関連 の構想・取組を整理するに当たって参考とした事例,地方創生 交付金,地方創生先行型交付金,地方創生拠点整備交付金,地 方創生推進交付金,地方創生加速化交付金(H27 〜H29),「生 涯活躍のまち」に関する取組事例集,高齢者住宅経営者連絡協 議会リビングオブザイヤー(2014 〜2016),日本医療福祉建 築協会建築賞(2017 年4 月時点まで)を参照し,取り組み事 例等への掲載や補助金事業として複数回選定されている,図1 に整理した複合的モデルに合致した取り組み内容や建築とし ての特徴があること,を条件に訪問調査が可能な50 件を選定 参考文献 1)西川英治:サービス付き高齢者向け住宅の先端事例から見え てきた課題 −「単体」から「街」へ,特集「サービス付き高 齢者向け住宅の意義と課題−豊かな高齢者居住のために何がで きるか」,都市住宅学,2016SPRING,pp.58-63 2)松田智生:日本版CCRC の可能性〜地方創生を支える組合 せ型ビジネス,特集「地方創生」,日本不動産学会 第29 巻 第2 号・2015.9,pp.80-87 3)園田眞理子:超高齢化に直面する東京圏における住まい方と 医療・介護・福祉のあり方,特集「地方創生」,日本不動産学会, 第29 巻第2 号・住宅利便施設福祉事業医療 医療施設 福祉施設 公共施設 見守り 交流 ボランティア 相談・助言 悩みの共有 情報の共有 日常生活の支援 配食サービス 就労の場づくり 遊べる環境 社会貢献 居場所づくり イベントの場 観光資源 一時滞在施設 移住 住居の提供 支援者の負担 を軽減する 多世代交流 転用交流自立した生活生きがい地域の活性化 活用する資源 施設種別活用方法立地など 活用する資源(縦軸)と支援内容(横軸)の共起 支援内容 関係をシンプルに集計したもので,分析対象とし た50施設において,活用する資源と支援内容の 組み合わせが含まれる割合を示す。ゆえにすべて の項が1/50=0.02の倍数となる。 ① ② ③ ⑤ ④ ⑥ 表5 活用資源と,それに対する支援内容の関係

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