産業革命以降、現代社会において欲望は肥大化を続け,大量生産・大量消費によって「豊かな」生活が爛熟しているように見える。しかし,実際のところは経済優先の競争社会の中で釈然としない不満足感が広まりつつあり,環境問題,犯罪の凶悪化など,漠然とした不安感に苛まされている。また,現代の日本では誰もが物質的な豊かさを手に入れ,一億総中流階級とも言われていた時代から構造的な不況が続き、物質的には豊かであるが極めて精神的に空虚なライフスタイルが蔓延しているようにも見うけられる。また,経済が悪化したために以前の中流階級はその階級からの転落という危機感を感じ,ますます仕事に必至になるという社会現象を起こしており、就職難も加わって所得への執着はますます強くなっていく気配を感じられる。見かけの豊かさの中で溺れていく人々の様子が浮かび上がる。
我が国の豊かさの追求,それは戦中・戦後の耐乏と欠乏の時代を潜り抜けてきた大多数の日本人にとって共通の目標であった。1955年頃に始動し,60年以降本格化する経済の高度成長は,他の先進国と呼ばれる国家と同様に「社会と個人」というテーマを大衆的規模で現実のものとさせた。そして近年,経済的に支えられた「豊かさ」の裏側には,社会がもたらすといわれる様々な問題が顕在化している。文明病とも呼ばれる成人病,躁鬱病や自律神経失調症の心因性慢性疾患などの様々な現代病理と称される問題がその例といえるでしょう。みなさんはいかがお考えでしょう。