先に述べたように一度作り上げた社会は構造的に再生産されるために個人の思い通りの変化は容易に望めない。それが例え心身の生物的限界に関わらず,強制的に依存させてしまう構造が存立していると分っていてもである。無理なダイエットが原因とみられる拒食症や過食症,いじめや自殺,滋養強壮剤で働き続けることが正義とされている社会での過労死などはその例として挙げられる。このような現代社会の価値観の押しつけは,社会や教育の“オブセッシブ・コンパルシブな”態度であり,シェフという学者が言う所の“嗜癖システム”そのものである。嗜癖システムとは,オブセッション(脅迫観念)を知らず知らずのうちに染み込ませ,ある種の考えに取り憑かせてしまうシステムのことである。このように,人間本性に関する信条体系がある人々の集団に支持され,それが人々の生き方にまでなっている場合,それは普通「イデオロギー」と呼ばれ,個人的・社会的にわれわれが何をすべきかを考える上で影響を与えているのである。このような社会的に培われる道徳や倫理は信念となって個人の価値基準になっているのである。以下これを社会的信念と呼ぶことにする。社会から刷り込まれる信念は、人間の生物的限界をも凌駕し、健康を蝕む。