ターボ・モーターの"そんなボクです..."

ギターを弾いて歌う...そしてボクはロックンロールを今日も転がす。
ターボ・モーターの気まぐれダイアリー

Driving Nowhere...

2010年06月02日 | Weblog
祇園でのライブの帰り、京都駅が遠くに見えた...

1992年の冬の初め...ボクは密かに待っていた。
ポール・ウェラーが来日するのを。そして、そのライブにクラスメートの女の子と一緒に行くことを。
だけど、彼はいつまで経っても日本には来なかった。

「That's Entertainment」 (Live) / Paul Weller Movement
http://www.youtube.com/watch?v=CV2BBhSdJcE

クラスメートなので、毎日のように会っているのだが、どうやらボクは彼女のことをあの地下鉄のホームで別れた夜から好きになってしまっているみたいだった。

「ふとした表情や仕草、声までもが、いちいち可愛いと思うようになってしまったら...それは間違いなく恋だ」
そんなことを詩人ゲーテは言って...なかったけど。

冬の一日はとても短い...翌年の卒業へ向けての課題などに取り組んで、日々に追われるうちに、やがて2学期は終わり、冬休みがやってきた。

クリスマスが過ぎた頃だっただろうか?
ボクは、意を決して彼女を誘うことにした。
ポール・ウェラーの次に、ボクが望みを託したのは、あの最高のロックバンド「THE BEATLES」!

ちょうど年明けにファンクラブ主催の映画上映会があった。ビデオ化がされていない「LET IT BE」が見れるらしい。
果たしてボクは彼女と一緒に観に行けるのだろうか?

まぁいい、すべては「なすがままに...」だ。

そしてボクは彼女の家に電話をかけることにした。よくあるオッサンの回想録のようで大変恐縮だけど、当時はケータイ電話なんて無かったんだ。

ハロー、平成の世に生まれた迷える若者たちよ!
「ポケベル」って知ってるかい?

電話を前に、震える指で彼女の家のテレフォンナンバーの最後のダイヤルをプッシュする...
コイツはなかなかの難事業だ。ボクは何度となく試みては失敗したが、ついに心を決めた。

そう、すべては、「なすがままに...」なのだから。

「Let It Be」/ The Beatles
http://www.youtube.com/watch?v=j9SgDoypXcI

電話に出たのは、彼女のお母さんだったが、なんとか彼女に電話を取り次いでもらうことができた。

受話器から聴こえてくる彼女の声は、とびきりスィートだった。何を話したのだろうか?
ドキドキしながらビートルズの映画に誘ったこと意外は、何にも覚えていない...
肝心の誘いの返事。彼女は「うん、いいわよ。楽しみにしてる。」とOKしてくれた。

電話を切って、受話器を置いた。
2ヶ月ほど前に20歳になっていたボクは、世間で言うところの「大人」になって、初めての「奇声」を上げた。

彼女と映画の約束をした日は、年が明け正月が過ぎ、ちょうど3学期の始業式の日だった。
夕方に難波駅の改札出口で待ち合わせ。少し遅れて彼女がやってきた。
電車を乗り換えながら、会場の京都駅のアヴァンティへ。彼女のリクエストで、かなり前の席にボクらは座った。

最初にビートルズのプロデューサーだったジョージ・マーティンがアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のレコーディングの様子を説明するという内容のフィルムを見た。

映画の途中、かなりマニアックな内容に過剰気味に反応し、いきなり大笑いする男が後ろの方の座席にいた。

「ビ、ビートル・マニアだ!」ボクは確信した...

ボクと彼女は同時に振り返り男の方を見た。そしてお互いビックリした顔をした後で同時に苦笑した。

その後、当時発見されたという「ヘルプ!」「ハローグッバイ」のプロモ・フイルムなんかがいくつか流れ、「LET IT BE」が始まった。レコーディングの模様から、あのルーフトップ・コンサートへ。

街に響くビートルズのサウンドに、路上からアップル社の屋上を見上げる人たち...
警察官たちがやって来た...

やがて「Don’t Let Me Down」が始まった。スクリーンに映るバカでかいジョン・レノンが叫んでいる...

「Don't Let Me Down」/ The Beatles
http://www.youtube.com/watch?v=fZj_bCNVvGw

ふと気がつくと、ボクのとなりで彼女はそっとうつむきながら、静かに泣いていた。

映画が終わった。会場を出て、またおしゃべりしながらボクらは京都駅のホームへ向かった。

彼女と別れてからの長い帰り道...ボクは彼女の涙の理由を考えていた...