J-POPには疎いので訃報に接するまで、誰だかわからなかった。
いちばん聞き慣れたのは、あの「翼をください」だろうか。「愛をください」のオリジナルであった「ZOO」を歌ったのが彼女だというのも、今さらながら知った。
十代で芸能界デヴューするも、二十二歳で引退。以後は地道なロックシンガーとして活躍するが、カリスマ的な人気を集める。その人気はあの中性的な風貌にあったのだろう。
女優やモデルとしても活躍。ラジオのパーソナリティも務める。
以上は客観的な情報を集めただけで、個人的に彼女の人柄に触れていたわけではないので、親しみをもっては悼むことができない。失礼ながら聞き惚れるほど、歌がうまいわけでもない。
だが、三十八歳という若さでの死や、乳房を切除したのにまさかの癌の転移・再発ということ、そしてひとりで育てていた幼い娘さんのことを思うと、いたたまれない気持ちがいっぱいだ。そしてまた、辛い幼少期のことを知るに及んでは。
若い頃はt.A.T.u.のユーリャ(ボーイッシュな方)に似てるかと思ったら、ロシア人とのハーフ。純血民族意識の強い日本では、イサム・ノグチとおなじように、自分のアイデンティティを揺さぶられるような、体験をしてきたのだと思う。
こういう人こそ、幸せな人生を歩んでほしいと思ったのに。ロシア人である彼女の母も、十年近く前に同じ病気で失ったという。
おなじように闘病生活を送る人やシングルマザーにとっては、希望の星みたいな人だったろう。メディアに顔出しを控えていたけれど、ファンにとっては失ってはならない女性だったと、しみじみ思われる。
ご冥福をお祈りしたい。
それにしても、長寿社会と言われる日本で、最近になって若い世代の女性の死が相次いでいるのは、なんともいえない寂しさがつのる。
乳がんの発症は三十代後半から多発するらしいが、川村カオリさんの発病は三十三歳だった。まだ、遠い先とはいえないのかも。