2016年大河『真田丸』30話「黄昏」のネタバレ感想のようなものまとめ。
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私は誰?あなたは誰?彼は誰?
※海の底の都がざわざわします、ご注意ください
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■倒壊、伏見城
地震により倒壊した伏見城。
城の北・木幡城に避難した秀吉たちの様子からスタートします。
秀吉たちが見たものは恐ろしい光景だったことでしょう。
築き上げたものが倒壊していく光景。
ただでさえ病を抱える秀吉が受けたショックは計り知れません。
その伏見城倒壊現場に、大坂から駆けつけたのは加藤清正。
2016年、加藤清正はせいしょこ様として心の支えとされました。
その清正が築いた熊本城は熊本・大分地震の復興の象徴になってもいます。
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(ブラタモリより)
この『地震加藤』の逸話は初めから入ることが決まっていたとのことですが、このときの清正の台詞が「よう頑張った!」でした。
第30回の撮影時期は不明ですが、せいしょこ様の励ましもまた意図的に挿入されたものと信じたいあたりです。
で、その木幡城。
昌幸が出城を築こうとしていた場所でした。
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三成の言葉に誇らしげに語る信繁。
しかし三成はあることを付け加えます。
「ただし戦うための城造りは取りやめだ」
今は少しでも早く秀吉の住まいを作ることが優先されること。
昌幸には城より堀の普請に回ってほしいこと。
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29回『異変』で伏見城普請にやる気を出した昌幸はこの件に少し落胆します。
しかし三成が「今最優先すべきは日常を取り戻すこと」と把握していたことは頼もしく感じます。
■崩壊、静かに
一旦大坂城に戻ってきた秀吉。
そこに飛び込んできたのは、イスパニア船さんふぇりぺ丸が土佐沖に漂着したという知らせでした。
秀吉が気にするのは積荷のこと。
「罪もないのに」と諌める信繁でしたが。
「罪があればよいのだな?」と、バテレン追放令を使おうと提案する秀吉。
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不敵に笑う秀吉。
国外退去だけでは手ぬるいと、更なる罰を付け加えました。
「耳を削ぎ…そうだな…鼻も削げ。引き回しの上磔じゃ」
片桐、三成、信繁に緊張が走ります。
否が応でも思い出すのは聚楽第落首事件。→20回『前兆』
多くのバテレンたちが言われのない罪で捕まりました。
細川屋敷ではフランシスコ吉蔵がガラシャに訴えます。
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「磔になるだけだから」
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ガラシャときりの制止を振り切り、吉蔵は細川屋敷を離れました。
■崩壊、激しく
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文禄5年(1596年)9月、明の使節団が和平交渉のために秀吉を訪れます。
が、そこにはひとつの行き違いがありました。
明が主張をしたのは、冊封体制の下、秀吉に日本国王の称号を与えるというもの。
そこに激怒した秀吉。
「我が国は明の属国ではない。言われずとも、わしはとっくに日の本の国王である」
怒った秀吉は、金印を投げ捨ててしまいます。
さらに明を攻めると立ち上がるのですが。
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尿を失禁をしてしまいます。
そばに控えていた信繁は、その失禁を拾がしてしまったとして取りつくろう秀吉。
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しかしどう見てもおかしい。
家康らは秀吉の変化を見逃せずにいます。
■決壊
再び明国へ向けて出兵することになった加藤清正が秀吉のもとを訪れます。
秀吉を目にする前に、現在の秀吉の状態を伝えておく信繁。
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「泣くなよ?泣くなよ?おまえ絶対泣くなよ」
「そんなことわかってるモン」
っていったわりに、
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顔に出まくって。
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号泣しちゃった加藤くまモン。
秀吉の尿失禁と同じように、清正もまた感情が漏れ出すのを耐えきれなかったのでしょう。
もしかしたら三成ももらい泣きをしていたかもしれません。
伏見城での勇猛果敢な姿と対照的な涙もろい清正の姿が印象的でした。
■利休はもういない
寝床から消えた秀吉。
探し回る三成、片桐、信繁。
庭の中央にいる秀吉を見つけた信繁。
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「茶室はどっちだ?なかなかたどりつけんのだ」
「利休がわしに話があるらしい」
殿下。
利休は、もういないんだよ。
罪悪感を抑えるために茶の道を究めた利休。→25回『別離』
その茶は、利休の業そのものと話していました。
利休の業は秀吉の業でもある。
秀吉が飲み込むことのできていない現実を、喉へ流してくれるお茶はもうない。
■そこからの眺め
秀吉の状態を鑑みて、三成は拾の元服の儀を決定します。
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「5歳での元服は武士としては例がないが、公家ならばよくあることだそうだ」
さっすが元悪佐府の治部殿、公家のことならお詳しい。
そうして名を豊臣秀頼を改めた拾。
別の日、天守閣。
信繁が秀吉を背負ってやってきました。
もう天守閣まで登る体力はないようです。
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「誰も見たことのない城を築きたかった。城の周りには大きな町を造る。驚くほどにぎやかで、騒がしくて、活気にあふれた日の本一の町」
思い通りになったのでは、と信繁は問います。
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「思いがかなったのは半分だけ。ゆくゆくは京から天子様をお迎えしようと思っておった」
「平清盛が成し遂げたことを、わしはとうとうできなんだ」
為義さん……あんた転生しても為義……
(※平清盛の話、『平清盛が成し遂げたこと』は福原遷都のこと)
その秀吉ができなかった遷都を託すのは豊臣秀頼。
秀頼を演じる中川大志さんは、『平清盛』で源頼朝の幼少期を演じていたという。
なにこのキャスティングと大河ドラマリンクの妙技。
源頼朝ができなかったことをできた秀吉は、平清盛ができたことをできなかった。(→18回『上洛』
平清盛と源頼朝、武士の世の作った2人。
その願いを継いだ豊臣秀吉が、さらにそれを継ぐ豊臣秀頼が、それを守る真田信繁が、
『武士』という存在を最高の高みへ持っていく。
もちろん三谷脚本の清盛オマージュもあるとは思いますが、『歴代大河ドラマファン』への敬意のようなものを感じました。
■満開
醍醐寺に桜が満開になるころ。秀吉が花見を催しました。
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女子たちに囲まれて上機嫌の秀吉。
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「やはり殿下には華やかな場所がよく似合う」
三成もまた笑みを浮かべます。
この人もまた清正と同じくらいの熱量で秀吉のことを慕っている。
幼い秀頼を連れた茶々が、秀吉にあるお願いをしました。
「若君が花咲じいが見たいそうですよ」
秀吉、ひとりで天守に登るのも介助が必要なのに。
茶々が知るはずもありません。
「老いた姿を拾に会わせたくない」とも言っていましたし、茶々自身も信じたくないんでしょう。
秀吉は寧らの制止も振り切って、木に登り始めます。
それはまるで、猿のようで。
羽柴藤吉郎だったころの無邪気な笑顔で。
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「枯れ木に花を咲かせましょう」
また『平清盛』の話になるのですが……
前述の「平清盛が成し遂げたこと」が描かれた回で、清盛の有名な逸話が描かれました。
『清盛の日招き』、沈むはずだった夕日が昇っていうくという話です。
夕日が昇るはずがないように、枯れ木に花が咲くはずがない。
でも平清盛のように奇跡を起こしたい。
どうか枯れ木に花が咲いてほしい。
笑顔の裏にそんなことを考えていたのでは?と深読みしてしまいます。
秀吉が1本の枝に足を乗せた瞬間。
秀吉は転落しました。
桜の枝が折れた。
腰の骨が折れた。
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心が、折れた。
そうして秀吉は寝たきりの身となるのでした。
■怯えの先にある死
そんな秀吉に起こる出来事と前後して、何人かが秀吉の老いを語ります。
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「殿下はいささか長く生き過ぎたのかもしれんな」と大谷吉継。
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「殿下は耄碌されたのやもしれんな」と徳川家康。
『耄碌』とは20回『前兆』寧が秀吉を叱咤した時の言葉です。
それを知るはずがない家康。
寧と家康が、同じ言葉で秀吉を揶揄するのが何とも皮肉的です。
■幸福な時間の中の死
沼田では、一人の男が旅立ちました。
沼田城をより難攻不落の城にする、と喝を入れに来た信幸。
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三十郎や内記もそれぞれ信繁やきりの身を案じている。
故郷って暖かい。
その中で、「長生きしたかいがあったというもんじゃ」と笑って話すのは矢沢頼綱。
健康で長生きする矢沢頼綱、病に侵されながら『長く生き過ぎた』秀吉。
残酷ながらもリアリティのある対比がえぐい。
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「生きているうちにまた戦に出られそうじゃのう!」
「まだまだおぬしらには負けん。この矢沢薩摩守頼綱。床の上で死ぬるわけにいかんわ!」
なのですが。
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「矢沢頼綱はその後一度も戦場に出ることなく、天寿をまっとうした。享年80」
あまりにあっさりした思いがけぬ旅立ち。
最低限の描写だからこそ、これまでの矢沢頼綱のまま亡くなったんだろうなと思います。
「おじいちゃんってば昨日までヤンチャしてたのに!」の勢いでピンピンコロリだったんだろうな。
何に怯えるでもない、勇猛果敢な死。
22話『裁定』にて、沼田城を守ろうとするあの姿が思い浮かびました。
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きっと、戦場に行くノリで三途の川を越えちゃったんでしょう。
夢の中でも沼田を守っていたんでしょう。
それが矢沢頼綱の大往生。
あゝYAZAWA…
ありがとうYAZAWA…
フォーエバーYAZAWA…
この人もまた着実に老いていきます。
真田昌幸。
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縁側で薫を抱き寄せる昌幸のもとに、2人の孫がやってきました。
仙千代(後の真田信吉、沼田の二代藩主)を連れてきたおこう。
百助(後の真田信政、沼田の四代藩主)を連れてきた稲。
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孫たちに囲まれる幸せな時間。
それは昌幸もまた老いたこと。
でもこんな笑顔ならそれは幸せな証拠。
秀吉自身の描写で描かれる老い。
大谷や家康が語る秀吉の老い。
それと対照的な矢沢頼綱の大往生と、昌幸の笑顔の中の老い。
様々な描写が「死や老いに対してどう生きるべきか」と突き付けてきます。
■忠なれば孝ならず
秀吉の失禁について信繁に問いただす信幸。
しかし信繁は真相を話そうとしません。
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「皆の前で小便を漏らしたというのは、まことに拾様だったのか?」
「もちろんです」
そんな信繁でしたが、苦しい胸中を春に打ち明けました。
それはかつて『この人のようになりたい』と思った2人の存在
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「その2人から同じことを言われた。『わしのようになるな』と」
「一人はお家のため、人の道を捨てた。一人はお家のため己の信念を曲げた。だから私はそうならぬよう心がけてきた」
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「秀吉様にお仕えした以上、豊臣家に背くは義に背くこと。おかげで今、息が出来ぬほど苦しい思いをしている。
義を貫くとはこれほど難しいものなのか」
『わしのようになるな』を忠実に守り続ける信繁は、豊臣を通して義を貫こうとしている。
しかしそれが真綿のように信繁の首を絞め続ける。
ところでこの信繁のロールモデルとなった2人。
前者は真田信尹です。
→8話「調略」
もう一人は上杉景勝。
→14話「大坂」
この2人、大坂の陣では徳川方として、信繁と敵対することになります。
残酷な脚本。
■上杉、会津転封
上杉の噂をしたら上杉主従がやってきた。
慶長3年(1598年)、正月。伏見城にて。
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御屋形様、会津に行けってよ!!
伊達を抑えるっていうていで、徳川を見張ってほしいってよ!!
御屋形様の表情は、あのときとは少し違っていました。
→15回「秀吉」
それはすべて秀頼のため、と土下座をする秀吉。
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お家のために信念を曲げた上杉景勝。
お家のためにプライドを捨てる豊臣秀吉。
それが信繁の目にどう映るのか。
信繁はともかく、この人はこんな感じでした。
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※会津にGO!って言われたときのセコム。
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※御屋形様が落ちた瞬間のセコム。
■小松姫への道のり
無事に男児(百助)を出産した稲は、信幸にあるものを渡します。
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「全て本多佐渡守様から私への密書でございます」
嫁ぐときに、徳川より真田の内情を探れと命を受けたこと。
そして信繁から太閤殿下の御容態を聞き出せと言っていること。
何故それを自分に打ち明けるのかが疑問に感じた信幸。
「私は源三郎さまの嫁、百助の母でございます」
信繁が真田でなくなっていくこの中で、稲は真田の女になったのか。
道を見つけ守るべきもの、すべきことを見つけた稲は『小松姫』となる。
■『そのとき』
稲の決意を目の前にした信幸は、改めて信繁に問います。
秀吉が息絶えたらまた世は揺れるであろう、と。
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「あまりに太閤殿下が大きすぎたからじゃ。それはお前が一番よく分かっておるはずだ」
秀吉亡き後、政権は石田三成が仕切るのか、それとも徳川が力を持ち石田三成を倒すことになるのか。
信幸と信繁の間に、関ヶ原を示唆する言葉が並びます。
「そのとき真田は誰につけばよいのか」
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兄の言葉に揺れる信繁。
■正しい道
義父に、苦しさと打ち明けた信繁。
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「己が正しいと思う道を行けばよい。それが真田左衛門佐の進むべき道じゃ」
自分が正しいと思う道。
それはまるで大坂の陣を象徴しているようで。
信繁は決意し、信幸に秀吉の容態を伝えました。
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「再びお元気になられてご自分の力で歩かれることはまずないかと」
それを聞いた信幸は、舅の忠勝のもとへ。
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「いかがいたした、婿殿」
「本日は極めて重大な知らせを持って、やって参りました」
信幸は正攻法を貫いていく。
何を守るために何をするべきかをきちんとわかっている。
稲、信幸が自身の歩むべき道を進むのを見て、信繁もまた自身の『義』を貫いていきます。
いつも穏やかな真田源次郎信繁がこれほどまでに苦悩するとは。
■吉野太夫
ところで影の薄い昌幸パッパは何をしているかと言いますと。
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「太閤殿下とわしとどっちがよい?」
まったくこのタヌキは。
しかもこの数日後。
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信幸・信繁の会話の内容を太夫にもらしてしまった直後。
まったくこのタヌキは(2回目)
その次の瞬間。
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一旦席を外すと太夫が襖を開けたとき。
冷酷に見下ろす出浦様の目。
殺意以外の感情がいっさい削ぎ落された目。
そして太夫の命を奪いました。
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「この女は忍びだ」
本物の吉野太夫は京の郭にいたといいます。
思えば28話『受難』にて、初めて昌幸と出浦様が太夫のもとを訪れたとき。
出浦様は太夫に厳しい視線を向けていました。
驚く昌幸に対し…
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「同類は目を見ればわかる」
あの時執拗なまでじっと『ニセ太夫』を見ていたこと。
「もしかして」と何かに感づいての視線だった。
ちなみに『ニセ太夫』は本多正信の密偵でした。
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そのニセ太夫は正信に、出浦殿は昌幸に。
それぞれがそれぞれの主に心から仕えている。
守るべく人や進むべき道を知っている。
道とは?信念とは?
何を守るために戦うのか?
今回多くの人物の戦う様・老い様が描かれますが、それはすべて『その日』につながるものなのでしょう。
■誰そ彼か
秀吉が形見分けをしたいと言い出しました。
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徳川には『遠浦帰帆絵』。
片桐には金子15枚。
三成には金子50枚と刀。
そして信繁には…
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「知らん」
あ。

これ主介護者が一番辛いパターンのやつだ。
あるある。
一番世話している長男の嫁が泥棒扱いされちゃうのあるある。
■あの日との再会
秀吉を寝かしつけたあと、夕暮れ時に考え込む信繁。
それは苦悩の姿でありました。
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兄に心動かされ、秀吉の容態の真相を伝えた。
これで後悔はないはず。
兄ならうまく動いてくれるはず。
だが秀吉が自分の存在を忘れている。
それがなぜここまでショックなのか。
短いシーン、『苦悩する青年・信繁』を見ていて胸が苦しくなりました。
そこへやってきたのは……
「真田安房守の息子だな」
あの日の秀吉。
このとき信繁は気が付いたんでしょう。
あの日、秀吉に魅了されたこと。
秀吉の話に合わせるように、否定することなく耳を傾ける。
ただ秀吉が転倒しないよう支えたまま、あの日のやりとりをリフレインします。
※『否定はせずに傾聴し、身の安全を確保して、落ち着かせる』ってのは限りなく正解に近い認知症患者さんへの対応。
あの日からだいぶ時間が流れた。
いろんなことがあった。
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「わしは利発な若者が大好きでな。おまえも一目で気に入った」
天下人は記憶が混乱している。
利発な青年は今苦悩している。
→14回「大坂」
あの日始まった「大坂/秀吉」は、まもなく終わろうとしている。
それでも変わらないものは、おそらく秀吉と信繁の『感情』なのでしょう。
でも秀吉は信繁のことを目にかけていて、信繁は秀吉を守ろうとしている。
道とは?信念とは?
何を守るために戦うのか?
叔父や上杉景勝のようになりたいと思った日々。
秀吉に一瞬で魅了された瞬間。
輝いていたあの日にはもう戻れない。
でもこの秀吉を守っていく。
秀吉が残したものを守っていく。
それが真田信繁の新たなロールモデルとなるのでしょう。
■回想、血縁
表へ出ようとする秀吉を止めて。
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「今日はもう床へお入りくださいませ。吉野太夫のところへはまた改めて参りましょう」
「どうか今夜はゆっくりお休み下さりませ。私がそばにおりますので」
寝顔を眺めながら信繁は話し続けます。
それは苦悩を脱した、穏やかな表情で。
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「明日お城の中を案内していただけるとうれしゅうございます」
「茶々様とかるたもやってみたいですし」
「寧様は芋をゆでていらっしゃると伺いました」
あの日、豊臣が壊れていく前のその日。
今、老いた秀吉は、羽柴秀吉にかえっている。
→15回「秀吉」
でも秀長も孫七郎もかか様ももういない。
寧様のお芋の味もわからない。
利休のお茶もない。
茶々とカルタとりをしても、よく聞こえないかもしれない。
座っていられないかもしれない。
あの15回のデスナレーションに驚いた日が懐かしい。
こんなに切なく思い出されるとは想像もしていなかった。
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穏やかに秀吉の寝顔を見つめる信繁のカットで、第30回「黄昏」は終わります。
■「秀頼のことをよろしく頼む」
思えば秀吉は何度も言っていました。
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清正へ「わしが死んだ後も拾のことよろしくな」
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阿茶へ「徳川殿に伝えてくれ。今後も秀頼のこと、くれぐれも頼む」
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景勝へ「秀頼を助けてやってくれ!」
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片桐に「秀頼のことよろしく頼むぞ」
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三成に「秀頼のこと、よろしく頼む」
これに対するアンサーが、あの天守閣での言葉なのかもしれません。
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「秀頼様がきっと成し遂げてくたさいます」
この言葉、『秀頼を守る』というより『秀吉の思いを守る』ように感じました。
■大坂入城の理由
「真田信繁はなぜ大坂城へ入城するのか」は、『真田丸』における大きなテーマのひとつです。
その答えの一つが今回で提示されたように思います。
秀吉を守りたいから。
同情、恐怖、憧れ、羨望。
様々な感情が入り混じった人間味のある真田信繁。
そういえば、信繁の人間性は序盤で描かれていました。
→2回「決断」
「お前のためではない。一族のためだ」と兄の信幸に叱咤された信繁。
(このとき「これから殺す相手の顔を見ると、生理的に殺すことできなくなってしまうのが人間っていう、人間性の追求なのかな」という感想を抱いたのですが)
大坂入城の理由もとってもシンプルで人間的なものなのかもしれない。
そこに守りたい「あの日」があるから。
しっかしこの伏線回収につぐ伏線回収……
まるで『平清盛』のようだ……。
■介護ドラマ
常々思っていたんです。
「医療ドラマはそれはそれで好きだけど、介護の話もドラマでやればいいのに。リアルな認知症の描写とか振り回される介護者とか、ちょっとお涙ちょうだいでもいいからさ。『感情が残ったまま見当識が失われる』っていう現実をしっかり描いてくれるドラマ作れや」
いやそれが、まさか大河ドラマで。
しかも豊臣秀吉が患者役でやられるとは想像もしてなかったですよ。
予告に登場した来週の秀吉。
顔全体が浮腫んでいます。
もしかしたら心不全併発で浮腫(+)なのかな。
これ自力で体位変換できなくて、仙骨部に褥瘡できてたらどうしよう。
この仰臥位の状態で、もしも『誰か』が秀吉を寝かせたまま、水分なしの唐菓子でもあげたらって考えたら恐ろしい。
むせるし誤嚥するし、つか下手すると窒息。
状態からして肺炎を起こす可能性は高いでしょう。
かといってペニシリンのある時代でもなく……
ペニシリン…?
ペニシリンといえば……
阿茶様が抑肝散でも取り出したら、阿茶様=南方仁説ワンチャンあるかもしれないぞ!(何の話
■次週『終焉』
さーて、次回の『真田丸』第31回「終焉」は…
・悪徳士業、家康くん
・治部殿、また脱ぐ
・ホンダムVS出浦様
・真田の狸、通常運転
以上4点でお送りいたしまーす
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出浦様クラスタの命が心配。
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げんじろうイーブイ説。
■おまけ、ここがいいねん。
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私は誰?あなたは誰?彼は誰?
※海の底の都がざわざわします、ご注意ください
関連リンク
1話「船出」~29話「異変」はこちら。
・【NHK大河ドラマ】 『真田丸』まとめのまとめ 【堺雅人&草刈正雄】
『ちかえもん』『コントレール』『映像の世紀』他、大河、Nスペ、BSプレミアムのまとめ。
・少々真面目で結構ゲスいテレビっ子の備忘録まとめ<NHK系>
朝ドラ「とと姉ちゃん」「てるてる家族」「あさが来た」「あまちゃん」こちら。
・朝ドラ感想記事のまとめ
民放ドラマ、映画などなどのまとめ
・テレビっ子の備忘録まとめ。<民放系>
■倒壊、伏見城
地震により倒壊した伏見城。
城の北・木幡城に避難した秀吉たちの様子からスタートします。
秀吉たちが見たものは恐ろしい光景だったことでしょう。
築き上げたものが倒壊していく光景。
ただでさえ病を抱える秀吉が受けたショックは計り知れません。
その伏見城倒壊現場に、大坂から駆けつけたのは加藤清正。
2016年、加藤清正はせいしょこ様として心の支えとされました。
その清正が築いた熊本城は熊本・大分地震の復興の象徴になってもいます。
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(ブラタモリより)
この『地震加藤』の逸話は初めから入ることが決まっていたとのことですが、このときの清正の台詞が「よう頑張った!」でした。
第30回の撮影時期は不明ですが、せいしょこ様の励ましもまた意図的に挿入されたものと信じたいあたりです。
で、その木幡城。
昌幸が出城を築こうとしていた場所でした。
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三成の言葉に誇らしげに語る信繁。
しかし三成はあることを付け加えます。
「ただし戦うための城造りは取りやめだ」
今は少しでも早く秀吉の住まいを作ることが優先されること。
昌幸には城より堀の普請に回ってほしいこと。
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29回『異変』で伏見城普請にやる気を出した昌幸はこの件に少し落胆します。
しかし三成が「今最優先すべきは日常を取り戻すこと」と把握していたことは頼もしく感じます。
■崩壊、静かに
一旦大坂城に戻ってきた秀吉。
そこに飛び込んできたのは、イスパニア船さんふぇりぺ丸が土佐沖に漂着したという知らせでした。
秀吉が気にするのは積荷のこと。
「罪もないのに」と諌める信繁でしたが。
「罪があればよいのだな?」と、バテレン追放令を使おうと提案する秀吉。
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不敵に笑う秀吉。
国外退去だけでは手ぬるいと、更なる罰を付け加えました。
「耳を削ぎ…そうだな…鼻も削げ。引き回しの上磔じゃ」
片桐、三成、信繁に緊張が走ります。
否が応でも思い出すのは聚楽第落首事件。→20回『前兆』
多くのバテレンたちが言われのない罪で捕まりました。
細川屋敷ではフランシスコ吉蔵がガラシャに訴えます。
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「磔になるだけだから」
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ガラシャときりの制止を振り切り、吉蔵は細川屋敷を離れました。
■崩壊、激しく
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文禄5年(1596年)9月、明の使節団が和平交渉のために秀吉を訪れます。
が、そこにはひとつの行き違いがありました。
明が主張をしたのは、冊封体制の下、秀吉に日本国王の称号を与えるというもの。
そこに激怒した秀吉。
「我が国は明の属国ではない。言われずとも、わしはとっくに日の本の国王である」
怒った秀吉は、金印を投げ捨ててしまいます。
さらに明を攻めると立ち上がるのですが。
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尿を失禁をしてしまいます。
そばに控えていた信繁は、その失禁を拾がしてしまったとして取りつくろう秀吉。
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しかしどう見てもおかしい。
家康らは秀吉の変化を見逃せずにいます。
■決壊
再び明国へ向けて出兵することになった加藤清正が秀吉のもとを訪れます。
秀吉を目にする前に、現在の秀吉の状態を伝えておく信繁。
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「泣くなよ?泣くなよ?おまえ絶対泣くなよ」
「そんなことわかってるモン」
っていったわりに、
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顔に出まくって。
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号泣しちゃった加藤くまモン。
秀吉の尿失禁と同じように、清正もまた感情が漏れ出すのを耐えきれなかったのでしょう。
もしかしたら三成ももらい泣きをしていたかもしれません。
伏見城での勇猛果敢な姿と対照的な涙もろい清正の姿が印象的でした。
■利休はもういない
寝床から消えた秀吉。
探し回る三成、片桐、信繁。
庭の中央にいる秀吉を見つけた信繁。
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「茶室はどっちだ?なかなかたどりつけんのだ」
「利休がわしに話があるらしい」
殿下。
利休は、もういないんだよ。
罪悪感を抑えるために茶の道を究めた利休。→25回『別離』
その茶は、利休の業そのものと話していました。
利休の業は秀吉の業でもある。
秀吉が飲み込むことのできていない現実を、喉へ流してくれるお茶はもうない。
■そこからの眺め
秀吉の状態を鑑みて、三成は拾の元服の儀を決定します。
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「5歳での元服は武士としては例がないが、公家ならばよくあることだそうだ」
さっすが元悪佐府の治部殿、公家のことならお詳しい。
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そうして名を豊臣秀頼を改めた拾。
別の日、天守閣。
信繁が秀吉を背負ってやってきました。
もう天守閣まで登る体力はないようです。
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「誰も見たことのない城を築きたかった。城の周りには大きな町を造る。驚くほどにぎやかで、騒がしくて、活気にあふれた日の本一の町」
思い通りになったのでは、と信繁は問います。
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「思いがかなったのは半分だけ。ゆくゆくは京から天子様をお迎えしようと思っておった」
「平清盛が成し遂げたことを、わしはとうとうできなんだ」
為義さん……あんた転生しても為義……
(※平清盛の話、『平清盛が成し遂げたこと』は福原遷都のこと)
その秀吉ができなかった遷都を託すのは豊臣秀頼。
秀頼を演じる中川大志さんは、『平清盛』で源頼朝の幼少期を演じていたという。
なにこのキャスティングと大河ドラマリンクの妙技。
源頼朝ができなかったことをできた秀吉は、平清盛ができたことをできなかった。(→18回『上洛』
平清盛と源頼朝、武士の世の作った2人。
その願いを継いだ豊臣秀吉が、さらにそれを継ぐ豊臣秀頼が、それを守る真田信繁が、
『武士』という存在を最高の高みへ持っていく。
もちろん三谷脚本の清盛オマージュもあるとは思いますが、『歴代大河ドラマファン』への敬意のようなものを感じました。
2016大河『 #真田丸 』の世界観や照明演出、画のコントラストが好きな方へ。2012大河『 #平清盛 』、多分気にいると思いますよ。ヤマコー三成、小日向秀吉、エンケン御屋形様、作兵衛ほか丸キャストの前世がありますぞ。 pic.twitter.com/VJcoB54e5c
— ゆずず (@yuzu0905) 2016年7月31日
■満開
醍醐寺に桜が満開になるころ。秀吉が花見を催しました。
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女子たちに囲まれて上機嫌の秀吉。
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「やはり殿下には華やかな場所がよく似合う」
三成もまた笑みを浮かべます。
この人もまた清正と同じくらいの熱量で秀吉のことを慕っている。
幼い秀頼を連れた茶々が、秀吉にあるお願いをしました。
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「若君が花咲じいが見たいそうですよ」
秀吉、ひとりで天守に登るのも介助が必要なのに。
茶々が知るはずもありません。
「老いた姿を拾に会わせたくない」とも言っていましたし、茶々自身も信じたくないんでしょう。
秀吉は寧らの制止も振り切って、木に登り始めます。
それはまるで、猿のようで。
羽柴藤吉郎だったころの無邪気な笑顔で。
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「枯れ木に花を咲かせましょう」
また『平清盛』の話になるのですが……
前述の「平清盛が成し遂げたこと」が描かれた回で、清盛の有名な逸話が描かれました。
『清盛の日招き』、沈むはずだった夕日が昇っていうくという話です。
夕日が昇るはずがないように、枯れ木に花が咲くはずがない。
でも平清盛のように奇跡を起こしたい。
どうか枯れ木に花が咲いてほしい。
笑顔の裏にそんなことを考えていたのでは?と深読みしてしまいます。
秀吉が1本の枝に足を乗せた瞬間。
秀吉は転落しました。
桜の枝が折れた。
腰の骨が折れた。
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心が、折れた。
そうして秀吉は寝たきりの身となるのでした。
■怯えの先にある死
そんな秀吉に起こる出来事と前後して、何人かが秀吉の老いを語ります。
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「殿下はいささか長く生き過ぎたのかもしれんな」と大谷吉継。
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「殿下は耄碌されたのやもしれんな」と徳川家康。
『耄碌』とは20回『前兆』寧が秀吉を叱咤した時の言葉です。
それを知るはずがない家康。
寧と家康が、同じ言葉で秀吉を揶揄するのが何とも皮肉的です。
■幸福な時間の中の死
沼田では、一人の男が旅立ちました。
沼田城をより難攻不落の城にする、と喝を入れに来た信幸。
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三十郎や内記もそれぞれ信繁やきりの身を案じている。
故郷って暖かい。
その中で、「長生きしたかいがあったというもんじゃ」と笑って話すのは矢沢頼綱。
健康で長生きする矢沢頼綱、病に侵されながら『長く生き過ぎた』秀吉。
残酷ながらもリアリティのある対比がえぐい。
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「生きているうちにまた戦に出られそうじゃのう!」
「まだまだおぬしらには負けん。この矢沢薩摩守頼綱。床の上で死ぬるわけにいかんわ!」
なのですが。
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「矢沢頼綱はその後一度も戦場に出ることなく、天寿をまっとうした。享年80」
あまりにあっさりした思いがけぬ旅立ち。
最低限の描写だからこそ、これまでの矢沢頼綱のまま亡くなったんだろうなと思います。
「おじいちゃんってば昨日までヤンチャしてたのに!」の勢いでピンピンコロリだったんだろうな。
何に怯えるでもない、勇猛果敢な死。
22話『裁定』にて、沼田城を守ろうとするあの姿が思い浮かびました。
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きっと、戦場に行くノリで三途の川を越えちゃったんでしょう。
夢の中でも沼田を守っていたんでしょう。
それが矢沢頼綱の大往生。
あゝYAZAWA…
ありがとうYAZAWA…
フォーエバーYAZAWA…
この人もまた着実に老いていきます。
真田昌幸。
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縁側で薫を抱き寄せる昌幸のもとに、2人の孫がやってきました。
仙千代(後の真田信吉、沼田の二代藩主)を連れてきたおこう。
百助(後の真田信政、沼田の四代藩主)を連れてきた稲。
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孫たちに囲まれる幸せな時間。
それは昌幸もまた老いたこと。
でもこんな笑顔ならそれは幸せな証拠。
秀吉自身の描写で描かれる老い。
大谷や家康が語る秀吉の老い。
それと対照的な矢沢頼綱の大往生と、昌幸の笑顔の中の老い。
様々な描写が「死や老いに対してどう生きるべきか」と突き付けてきます。
■忠なれば孝ならず
秀吉の失禁について信繁に問いただす信幸。
しかし信繁は真相を話そうとしません。
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「皆の前で小便を漏らしたというのは、まことに拾様だったのか?」
「もちろんです」
そんな信繁でしたが、苦しい胸中を春に打ち明けました。
それはかつて『この人のようになりたい』と思った2人の存在
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「その2人から同じことを言われた。『わしのようになるな』と」
「一人はお家のため、人の道を捨てた。一人はお家のため己の信念を曲げた。だから私はそうならぬよう心がけてきた」
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「秀吉様にお仕えした以上、豊臣家に背くは義に背くこと。おかげで今、息が出来ぬほど苦しい思いをしている。
義を貫くとはこれほど難しいものなのか」
『わしのようになるな』を忠実に守り続ける信繁は、豊臣を通して義を貫こうとしている。
しかしそれが真綿のように信繁の首を絞め続ける。
ところでこの信繁のロールモデルとなった2人。
前者は真田信尹です。
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もう一人は上杉景勝。
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この2人、大坂の陣では徳川方として、信繁と敵対することになります。
残酷な脚本。
■上杉、会津転封
上杉の噂をしたら上杉主従がやってきた。
慶長3年(1598年)、正月。伏見城にて。
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御屋形様、会津に行けってよ!!
伊達を抑えるっていうていで、徳川を見張ってほしいってよ!!
御屋形様の表情は、あのときとは少し違っていました。
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それはすべて秀頼のため、と土下座をする秀吉。
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お家のために信念を曲げた上杉景勝。
お家のためにプライドを捨てる豊臣秀吉。
それが信繁の目にどう映るのか。
信繁はともかく、この人はこんな感じでした。
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※会津にGO!って言われたときのセコム。
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※御屋形様が落ちた瞬間のセコム。
■小松姫への道のり
無事に男児(百助)を出産した稲は、信幸にあるものを渡します。
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「全て本多佐渡守様から私への密書でございます」
嫁ぐときに、徳川より真田の内情を探れと命を受けたこと。
そして信繁から太閤殿下の御容態を聞き出せと言っていること。
何故それを自分に打ち明けるのかが疑問に感じた信幸。
「私は源三郎さまの嫁、百助の母でございます」
信繁が真田でなくなっていくこの中で、稲は真田の女になったのか。
道を見つけ守るべきもの、すべきことを見つけた稲は『小松姫』となる。
■『そのとき』
稲の決意を目の前にした信幸は、改めて信繁に問います。
秀吉が息絶えたらまた世は揺れるであろう、と。
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「あまりに太閤殿下が大きすぎたからじゃ。それはお前が一番よく分かっておるはずだ」
秀吉亡き後、政権は石田三成が仕切るのか、それとも徳川が力を持ち石田三成を倒すことになるのか。
信幸と信繁の間に、関ヶ原を示唆する言葉が並びます。
「そのとき真田は誰につけばよいのか」
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兄の言葉に揺れる信繁。
■正しい道
義父に、苦しさと打ち明けた信繁。
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「己が正しいと思う道を行けばよい。それが真田左衛門佐の進むべき道じゃ」
自分が正しいと思う道。
それはまるで大坂の陣を象徴しているようで。
信繁は決意し、信幸に秀吉の容態を伝えました。
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「再びお元気になられてご自分の力で歩かれることはまずないかと」
それを聞いた信幸は、舅の忠勝のもとへ。
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「いかがいたした、婿殿」
「本日は極めて重大な知らせを持って、やって参りました」
信幸は正攻法を貫いていく。
何を守るために何をするべきかをきちんとわかっている。
稲、信幸が自身の歩むべき道を進むのを見て、信繁もまた自身の『義』を貫いていきます。
いつも穏やかな真田源次郎信繁がこれほどまでに苦悩するとは。
■吉野太夫
ところで影の薄い昌幸パッパは何をしているかと言いますと。
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「太閤殿下とわしとどっちがよい?」
まったくこのタヌキは。
しかもこの数日後。
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信幸・信繁の会話の内容を太夫にもらしてしまった直後。
まったくこのタヌキは(2回目)
その次の瞬間。
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一旦席を外すと太夫が襖を開けたとき。
冷酷に見下ろす出浦様の目。
殺意以外の感情がいっさい削ぎ落された目。
そして太夫の命を奪いました。
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「この女は忍びだ」
本物の吉野太夫は京の郭にいたといいます。
思えば28話『受難』にて、初めて昌幸と出浦様が太夫のもとを訪れたとき。
出浦様は太夫に厳しい視線を向けていました。
驚く昌幸に対し…
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「同類は目を見ればわかる」
あの時執拗なまでじっと『ニセ太夫』を見ていたこと。
「もしかして」と何かに感づいての視線だった。
ちなみに『ニセ太夫』は本多正信の密偵でした。
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そのニセ太夫は正信に、出浦殿は昌幸に。
それぞれがそれぞれの主に心から仕えている。
守るべく人や進むべき道を知っている。
道とは?信念とは?
何を守るために戦うのか?
今回多くの人物の戦う様・老い様が描かれますが、それはすべて『その日』につながるものなのでしょう。
■誰そ彼か
秀吉が形見分けをしたいと言い出しました。
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徳川には『遠浦帰帆絵』。
片桐には金子15枚。
三成には金子50枚と刀。
そして信繁には…
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「知らん」
あ。
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これ主介護者が一番辛いパターンのやつだ。
あるある。
一番世話している長男の嫁が泥棒扱いされちゃうのあるある。
■あの日との再会
秀吉を寝かしつけたあと、夕暮れ時に考え込む信繁。
それは苦悩の姿でありました。
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兄に心動かされ、秀吉の容態の真相を伝えた。
これで後悔はないはず。
兄ならうまく動いてくれるはず。
だが秀吉が自分の存在を忘れている。
それがなぜここまでショックなのか。
短いシーン、『苦悩する青年・信繁』を見ていて胸が苦しくなりました。
そこへやってきたのは……
「真田安房守の息子だな」
あの日の秀吉。
このとき信繁は気が付いたんでしょう。
あの日、秀吉に魅了されたこと。
秀吉の話に合わせるように、否定することなく耳を傾ける。
ただ秀吉が転倒しないよう支えたまま、あの日のやりとりをリフレインします。
※『否定はせずに傾聴し、身の安全を確保して、落ち着かせる』ってのは限りなく正解に近い認知症患者さんへの対応。
あの日からだいぶ時間が流れた。
いろんなことがあった。
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「わしは利発な若者が大好きでな。おまえも一目で気に入った」
天下人は記憶が混乱している。
利発な青年は今苦悩している。
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あの日始まった「大坂/秀吉」は、まもなく終わろうとしている。
それでも変わらないものは、おそらく秀吉と信繁の『感情』なのでしょう。
でも秀吉は信繁のことを目にかけていて、信繁は秀吉を守ろうとしている。
道とは?信念とは?
何を守るために戦うのか?
叔父や上杉景勝のようになりたいと思った日々。
秀吉に一瞬で魅了された瞬間。
輝いていたあの日にはもう戻れない。
でもこの秀吉を守っていく。
秀吉が残したものを守っていく。
それが真田信繁の新たなロールモデルとなるのでしょう。
■回想、血縁
表へ出ようとする秀吉を止めて。
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「今日はもう床へお入りくださいませ。吉野太夫のところへはまた改めて参りましょう」
「どうか今夜はゆっくりお休み下さりませ。私がそばにおりますので」
寝顔を眺めながら信繁は話し続けます。
それは苦悩を脱した、穏やかな表情で。
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「明日お城の中を案内していただけるとうれしゅうございます」
「茶々様とかるたもやってみたいですし」
「寧様は芋をゆでていらっしゃると伺いました」
あの日、豊臣が壊れていく前のその日。
今、老いた秀吉は、羽柴秀吉にかえっている。
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でも秀長も孫七郎もかか様ももういない。
寧様のお芋の味もわからない。
利休のお茶もない。
茶々とカルタとりをしても、よく聞こえないかもしれない。
座っていられないかもしれない。
あの15回のデスナレーションに驚いた日が懐かしい。
こんなに切なく思い出されるとは想像もしていなかった。
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穏やかに秀吉の寝顔を見つめる信繁のカットで、第30回「黄昏」は終わります。
■「秀頼のことをよろしく頼む」
思えば秀吉は何度も言っていました。
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清正へ「わしが死んだ後も拾のことよろしくな」
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阿茶へ「徳川殿に伝えてくれ。今後も秀頼のこと、くれぐれも頼む」
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景勝へ「秀頼を助けてやってくれ!」
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片桐に「秀頼のことよろしく頼むぞ」
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三成に「秀頼のこと、よろしく頼む」
これに対するアンサーが、あの天守閣での言葉なのかもしれません。
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「秀頼様がきっと成し遂げてくたさいます」
この言葉、『秀頼を守る』というより『秀吉の思いを守る』ように感じました。
■大坂入城の理由
「真田信繁はなぜ大坂城へ入城するのか」は、『真田丸』における大きなテーマのひとつです。
その答えの一つが今回で提示されたように思います。
秀吉を守りたいから。
同情、恐怖、憧れ、羨望。
様々な感情が入り混じった人間味のある真田信繁。
そういえば、信繁の人間性は序盤で描かれていました。
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「お前のためではない。一族のためだ」と兄の信幸に叱咤された信繁。
(このとき「これから殺す相手の顔を見ると、生理的に殺すことできなくなってしまうのが人間っていう、人間性の追求なのかな」という感想を抱いたのですが)
大坂入城の理由もとってもシンプルで人間的なものなのかもしれない。
そこに守りたい「あの日」があるから。
しっかしこの伏線回収につぐ伏線回収……
まるで『平清盛』のようだ……。
■介護ドラマ
常々思っていたんです。
「医療ドラマはそれはそれで好きだけど、介護の話もドラマでやればいいのに。リアルな認知症の描写とか振り回される介護者とか、ちょっとお涙ちょうだいでもいいからさ。『感情が残ったまま見当識が失われる』っていう現実をしっかり描いてくれるドラマ作れや」
いやそれが、まさか大河ドラマで。
しかも豊臣秀吉が患者役でやられるとは想像もしてなかったですよ。
予告に登場した来週の秀吉。
顔全体が浮腫んでいます。
もしかしたら心不全併発で浮腫(+)なのかな。
これ自力で体位変換できなくて、仙骨部に褥瘡できてたらどうしよう。
この仰臥位の状態で、もしも『誰か』が秀吉を寝かせたまま、水分なしの唐菓子でもあげたらって考えたら恐ろしい。
むせるし誤嚥するし、つか下手すると窒息。
状態からして肺炎を起こす可能性は高いでしょう。
かといってペニシリンのある時代でもなく……
ペニシリン…?
ペニシリンといえば……
阿茶様が抑肝散でも取り出したら、阿茶様=南方仁説ワンチャンあるかもしれないぞ!(何の話
【 #真田丸 の豊臣一族が老人ホームだとしたら】
— ゆずず (@yuzu0905) 2016年8月2日
・秀吉=認知症フロアのVIP入居者
・信繁=VIPお気に入りの新人ヘルパー
・三成=ケアマネ―ジャー
・大谷=冷たいけど頼りになるナース(自分も病んでる
・片桐=イマイチ動きの悪い生活相談員
次点
・徳川=ウラがありそうな後見人
■次週『終焉』
さーて、次回の『真田丸』第31回「終焉」は…
・悪徳士業、家康くん
・治部殿、また脱ぐ
・ホンダムVS出浦様
・真田の狸、通常運転
以上4点でお送りいたしまーす
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出浦様クラスタの命が心配。
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げんじろうイーブイ説。
■おまけ、ここがいいねん。
今週の第30回オープニング、『真田昌幸/草刈正雄』のクレジットのパシャァァァンって消えるタイミングが「これよこれ!このタイミングがいいの!」だったのをメモしておきたい。#真田丸 pic.twitter.com/iESCj0QzRX
— ゆずず (@yuzu0905) 2016年7月31日
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