「いるよね、子ども。何人かいるよね」 . . . 本文を読む
夜10時。キャスターマイルドを1本取り出して火をつける。ここは至福の時間。急に空気が温まる。夜空を見上げれば星が広がっている。ここは私の世界。
明るい星の位置を観察して、季節の移り変わりを実感する。日々の幸せといえばそんなことくらいだった。でも確かにそれは幸せだった。星座を作ってみたり。
月の模様をよく観察してみたり。手を伸ばしてみたり。ドロリとした夜の片隅で1人の女が動く。悩む。泣く。そのち . . . 本文を読む
灰が最後まで落ちなかった。
願いが叶う。
猫が笑いかけてきた。
願いが叶う。
流れ星を見つけた。
願いが叶う。
私は今日も願う。
くだらない願い。
くだらない幸せ。
何億もの願いを思い浮かべて、20年が過ぎた。
たくさんの本を読んで、たくさんの人に会って、たくさんの景色を眺めて。
希望と絶望に向き合っているうちに、わかったことがある。
私が考えているよりも、世界はシビアだ。
0と . . . 本文を読む
冬になりはじめた。友達と夕食の約束をしていて、私は繁華街へ出かけた。夕暮れ直前、空はぎりぎりの明るさでそこにある。賑やかな広場で不意に見つけたのは懐かしい顔だった。 懐かしさは懐かしさとして消えることはない。私が彼を好きだったのはだいぶ前の話になるけれど、彼と目が合った瞬間に私はもう私ではなかった。手痛い失恋をやっとの思いで乗り越えて、またつまづいたりもして、何度も何度も蘇る約束をかきけした。もう . . . 本文を読む
秋。ボーナスの海外旅行をガマンして購入したマイカーの初ドライブで、別れた男の住む町を訪れる、という悪趣味な休日を過ごしている。S市から隣の県のK市までの国道は今まで乗ったことがないのに、どこか既視感を感じた。きっとこれは洋平がいつもみていた景色だからなんだろうか。
「Nが改装していたよ」
「あのラーメン屋人気だね」
いつもそう言うものなのだから、私も国道の景色を勝手に描いていたのだろう。
1時間 . . . 本文を読む
「失恋をするたびに二度と恋なんかしないと誓うくせに、あたしはまたすぐに恋をしてしまう。とはいえその秋の失恋はかなりの痛手で、こんなに辛いのなら恋なんてするもんかなんてことを本気で思っていた。そしてその決意と同じくらい、何番目かも数えていないくらいの恋を本気でしていた。」
12月、冷え込む冬の夜。車の中はエンジンをかけても暖かくならず、外からずっとコートを着ている。東京の空は恐ろしく冷たい。複雑 . . . 本文を読む
「まもなく品川です。品川を出ますと、次は名古屋に止まります」 荷物は昨日のうちに送っておいた。あとはこの身1つだけだ。学生時代暮らした東京も今日でおしまい。小さく溜め息をついて、小さく笑う。 大学で知り合ったタケシは名前こそ日本人だけど、中身はフランス人だった。親がサムライだとかブシだとかエドやなんかに被れた類の学者人間だったらしいが、タケシは文化や歴史はおろか日本語さえ話そうとしない。ホントにこ . . . 本文を読む