船は神戸に着岸する。
晴天。
光る海に船体が反射する。眩しい。
3週間前と同じはずなのに何かが違う。
確実に違う。
自分の中で成長していく何かを確かに握り締めた。
時代を切り開いていく。
自分の可能性を信じる。
力を信じる。
未来を信じる。
広い世界を見たい。
もっと世界を見たい。
不安はあるけれど、少しだけ背伸びをしたら世界に近づいた。
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新疆ほどの内陸になると、海を見ずに亡くなっていく人も多いんだろう。
砂は水。
オアシスは島。
ラクダは船。
長いタクラマカン砂漠の後悔を終えた旅人たちは東シナ海を目指す。
海を一つ越え、また2つ越え。
こうやって旅は続くのだろう。
こうやって生きていくのだろう。
いくつもの海を越えながら。
日本へ入った瞬間に何かを忘れてしまうような気がする。
故郷というものは時に残酷だ。
残したい。話したい。伝 . . . 本文を読む
新疆時間3時、北京時間6時。
早朝のトルファンに着く。
ウルムチレベルの寒さを想像していたが思いのほか暖かい。
もう三月だ。
オリオン座は地平に沈みかけていた。
駅は市街地から離れていて、バスで小30分かかる。
トルファンの朝は暗く街灯だけが進むべき道を照らしていた。
寝ぼけなまこの中、夢を見た。
自分が楼蘭美女のように砂漠を彷徨う夢。
骨をたどりやっと見つけたオアシス。
泉で水を飲んだところで . . . 本文を読む
チャルチャン、チャルクリクの街は新しい。
どこか見覚えのあるニュータウン。
西安で、ウルムチで、カシュガルで、乾いた村で感じたノスタルジーを求めて私は砂漠の見える道を歩いた。
一歩一歩進むたびに砂が舞い上がる。
埃っぽさにも慣れた。
目が少し痛くて閉じていると、いつのまにか日が暮れかけている。
地平線近くは雲があるせいか霞んでいた。
赤い夕陽が世界を染めていく。
ゆっくり、ゆっくりと。
地平線に . . . 本文を読む
砂漠を行く車窓は単調だ──誰がそんなことを言えたのだろう。
温度差で少し曇った硝子越しに見える世界には、次から次へと生命が写り行く。
道路に併走する黒いパイプ。
渇きを潤す水の流れ。
彼方に見えていた石油基地はいつのまにか消えていた。
山や集落もどこかで終わっていて、今はもう小さな砂丘の連なりが続くだけだ。
先には何があるのか、何が待っているのか、その問いが探検家達を東へ向かわせる原動力となった . . . 本文を読む
カシュガルから東へ舵を向ける。
コルラまでは徹底的にバス移動。
いくつかのオアシス都市を経由しながら、再びシルクロード特急を目指す。
誰もが感じていた──これからが本番だ。
古代のようにキャラバンというふうにはいかないが、バスでタクラマカン砂漠・西域南道の壮大さを実感する。
だが実際に実感したのは感動や壮大さだけではないということに、私はまだ気づいてもいなかった。
道路事情は思いのほか悪い。
日 . . . 本文を読む
甘粛から新疆へ入ったシルクロード特急は朝のウルムチを目指す。
さすが天山北路、マイナス10度との噂が飛び交う中恐る恐るホームへ降りた。
ウルムチの市街地は発展していて、ある意味の懐かしささえ感じる。
なんだよ東京じゃん。東京ってこんななの。
まさに新宿そのものだよ。
へえそうなんだ、俺長野から東にはいったことないよ。
私も名古屋から西にはいったことないな。
街の節々にはノスタルジー、西安で感じた . . . 本文を読む
列車の朝は冷え込む。動く床5泊目。
いいかげんにホテル泊が待ち遠しい。
私の感情を知らないであろう列車は相変わらずの音をたてながら、河西回廊を西へ突き進む。
車窓に見える白色は塩か石灰か。
違うよ雪だよ。
あ、羊がいる。
山羊もいるよ。
いよいよだねえ。
ねえ──寝ぼけなまこで交わした会話。
NHKで見た光景が今目の前に広がっている。
誰もがその実感を握り締めていたはずだ。
気が付けば雪は止んでい . . . 本文を読む
ぼんやりと足が地に付かない気分のまま船の甲板に出た。
海に反射する光が眩し過ぎる。
どうなるのだろう、どうなるのだろう。
ずっとその問いばかりを繰り返しているうちに、大きく汽笛が3回響いた。
離岸はあっという間だった。
方向を変えた船は大海原へと繰り出す。
いよいよはじまる。
考えていたことも不安もいつのまにか忘れていた。
大きな動きを感じていた。
やっぱり関西弁は聞き慣れないなあ。
早く名前 . . . 本文を読む
【帰国後にまとめて書いたものなので、時系列がズレてますが気にしないでけろ】
品川駅でひかりから降りたとき、懐かしい感情がこみ上げてきた。
ここは日本なのだ。ここにいる人たちは皆モンゴロイドで、日本語を話す。
朝になれば家を出て仕事に行くし、17時になれば帰路に着く。
家族に迎えられて白米と味噌汁の日本食を食べる。
熱い風呂にだって浸かるだろう。
清潔なトイレで用を足すだろう。
映りの良いテレビ . . . 本文を読む