人が亡くなる瞬間に立ち会った。
血圧計はずっとエラー表示のままで、それでもかろうじて血中酸素と脈拍はとれていた。
でも、ある瞬間を境に脈拍もエラー表示を出した。
微かに上下しているようにも見えた胸の動きがとまった。
触れる胸は暖かくて、でも今になって考えれば熱かったのはあたしの手で、まだ生きてほしいっていう勝手な願いだったのかもしれないって。
もう遅いというのもわかっていた。
けれど声をかけずに . . . 本文を読む
入居してるじいちゃんばあちゃんは時々面白いことを言う。
朝、着替えを手伝いに部屋に行ったら。
「胃が……」
と。
普段は頭痛ばかり訴える人が急に山根君みたいなことを言い出したものだから、この人消化器系の病歴あったかなあ、お通じはどうだったかしら、なんて考えてもみたが。
「おなか痛い?吐気はする?最近お通じありました?」
「違うの。夢の中で食べ過ぎちゃって胃がもたれてるの」
「あ、そうですか…… . . . 本文を読む
11月某日の回顧録。
およそ一ヶ月ぶりの故郷はすっかり冬支度を終えていて、電車を降りた途端に冷気が首筋をなでていった。
同じ関東平野のはずなのに、電車の中がぬくとかったせいかしら。
ノスタルジーを呟いている暇もなく、駅前に停めてあった軽自動車から弟が顔を覗かせた。
「昨日どしたん、母さん心配してたよ。」
「ああ昨日ね、明けで帰るつもりだったんだけど仕事で。夕方帰ってそのまま朝まで寝てたんよ。 . . . 本文を読む
友達やお母さんとの長電話。
通販雑誌を眺めて、気に入った服に印をつけてみる。
コーヒーを豆から挽いて、本格的にカフェを追究。
週に一度の深夜番組が楽しみ。
部屋を暗くしてDVD鑑賞、なんちゃってホームシアター。
些細でしょうもないことばかりだけど、楽しみで仕方がない。
寂しいだとか疲れたとかずっと呟いても何もはじまらないからさ。
せめて少しくらいは力を抜こうって。
夜勤、先輩とのおしゃべり . . . 本文を読む