生理前の酷い情緒不安定には10年以上、人生の半分は悩まされていた。
情緒不安定になって当たり散らす泣き喚くだけならまだいいほう。
スイッチが入ると抑鬱と希死念慮の波が襲いかかってくる。
死神は28日周期でやってくる。
そんな半生だった。
死にたくなるきっかけは些細なこと。
ゆで卵の殻がうまく剥けないとか、ラップの切れ目が見つからないとか。
言葉にすると自分でも可笑しいのだけれど、たったそれだけで絶望してしまうのだ。
絶望の数日間を乗り越えて子宮内膜が剥がれ落ちれば、ストンと憑き物もどこかに消える。
経血を見て、ああやっぱり生理前だったのか、とそのときは納得する。
でも28日経つ頃には忘れてしまう。
また自分が自分でなくなってしまう。
生理前のあの精神症状がよっぽどきつかったのか、妊娠中や授乳中の生理が止まっている期間は非常にメンタルが安定していた。
産後に多少の落ち込みはあったけれど、生理前のあの絶望感に比べたらなんてことはない。
「このままずっと生理なんてこなければいいのに!」
なんてことを思ったが、身体は無慈悲なもので産後しばらくして生理が再開した。
久しぶりの抑うつと希死念慮。
久しぶりの絶望と死神。
おかえり私の月経。
それからまた28日周期に死神がやってきて、絶望の1日を繰り返す。
息子が1歳半になるころにはもう疲れ切っていた。
1年以上休んだだけあって、死神がパワーアップしている気がする。
育児の疲労や寝不足もあるのだろう。
いやもう理由なんて何でもいいわ。
誰かどうにかしてくれ。
こんなメンタル弱弱の母親なんて子供にどんな悪影響与えるか。
ああこんなことを考えてはだめだ。
また絶望がやってくる。
藁にもすがる思いで、ドラッグストアで手に取ったのが、『命の母ホワイト』だった。
高い。
高いけど、でも、もしかしたら何かが変わるかもしれない。
自分の中で限界だった。
28日周期でやってきては死を囁く死神へ、自分1人の力で対峙できるだけの力はほとんどなかった。
服用をはじめて数ヶ月。
ある日のトイレ、唐突に経血。
あれ、もう生理きたの、とトイレのカレンダーを見ると前回の月経開始から30日が経っている。
じゃあこれ確かに生理なんだ。
ナプキンを探しながらふと気づく。
「そういえば、今月は死にたくなっていない」
それなりに怒ったり悲しかったりはあったけど、絶望とか希死念慮までいくのはなかったな。
わりと落ち着いてた気がする。
うん、なかった。
なかったな。
死にたくならずに月経を迎えられる。
まさかそんな日が来るなんて!
驚いた。
人生40年目近くにして初めての体験だった。
それ以来律儀に『生命の母ホワイト』の内服を続けている。
30年近くの女性ホルモン人生で染み付いた情緒不安定がすぐに落ち着くわけではない。
それなりに怒り、それなりに悲しくなる日もあるのだけれど。
死にたくなるほどの絶望は、明らかに少なくなった。
28日周期でやってきては首筋にロープをかけてきた死神は、いつのまにかふんぞりかえりながら笑うおばちゃんに変わっていた。
茹で卵の殻がうまく剥けない日もあるよね。
ラップの切れ目を見失う日もあるでしょうよ。
長い人生それでいいんじゃない?
やんのやんの言うやつもいるけどさ、知らんわそんなの。
さっさと寝よ。
自分の脳内で考えていながらも、それが本当に自分の脳内なのか困惑していた。
20年近く悩まされていた女性ホルモン問題は根深く、茹で卵とラップ相手に開き直る自分に戸惑いを感じている。
これが生命の母ホワイトの効果なのか。
それとも女性ホルモンの生理現象のひとつなのか。
自分自身が中年女性になったからなのか。
いや母親になって多少根性座ったからなのかも。
いや、わからんわ。
うん、どれでもいいわ。
長い人生色々あるわ。
さっさと寝よう。
バイバイ、28日周期の死神。
こんにちは、少し生きやすい人生。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます