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米朝交渉は概ね順調

2019年03月02日 | 安保・国益


この記事は「朝鮮半島不可侵条約?」の続きです。



歴史的イベントとなった2018年6月シンガポールに続いての2回目ベトナム・ハノイでの米朝首脳会談は“決裂”に終わった。

焦点:米朝首脳、「特別な関係」では克服できない決裂の裏側
https://reut.rs/2EEsn2d
[ハノイ 28日 ロイター] - トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がベトナムで開いた2回目の首脳会談では、結局、限定的な合意にすら達することができなかった。


世間ではマスコミも含めて、米朝交渉の進展を悲観したり、トランプ大統領は北朝鮮の核武装を容認してしまうのではないか等の雑音が飛び交ってるが、何ら気にする必要はない。
今回の米朝ハノイ会談で出てきた米国・北朝鮮両政府の発言をよく観察すれば、前回のシンガポール合意の範囲内での個片の交渉不成立に過ぎない。

米朝交渉の全体像を以下に図示する。





続いて、以下に上図の論拠となった記事を挙げていく。



「寧辺の核施設の解体」と「経済制裁の解除」の取引は不成立に終わった。ハノイ会談の結末はこれ。

米朝首脳会談、合意に至らず トランプ氏「北朝鮮が制裁解除要求」
https://reut.rs/2Nxwgci
トランプ大統領によると、会談では寧辺の核施設の解体を協議し、金委員長も意欲を示したが、委員長は制裁緩和を望んだという。
ポンペオ米国務長官は会見で「(金委員長に)一段の措置を求めたが、彼にはその準備ができていなかった」と語った。



もう少し生々しいやりとりは、次の記事にある。寧辺の核関連施設の廃棄だけでは取引できないということだろう。上の記事の「一段の措置」とは、米側が発見した寧辺以外の核関連施設の廃棄を指すものと思われる。

米国「寧辺以外に大規模な核施設ある」 北朝鮮との首脳会談終え
http://yna.kr/AJP20190228008300882
ベトナム・ハノイで北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党委員長)と2回目の首脳会談を行ったトランプ米大統領は28日午後に記者会見を開き、会談で北朝鮮・寧辺の核施設に関して具体的に議論したかとの質問に「そうだ」と答えた。また、米国は寧辺核施設の廃棄プラスアルファの非核化措置を望んでいたとし、寧辺の施設以外に「われわれが発見したものがあった」と述べた。
追加で発見された施設はウラン濃縮施設のようなものかと問われると「そうだ」と応じ、「われわれが知っていたということに北朝鮮は驚いていたようだ」と明かした。




しかし、北朝鮮側もシンガポール合意に留まり、今後も交渉を継続する意思があることはこの応答からもわかる。ゆえに、大筋としては心配は無用。

北朝鮮の金委員長、非核化の用意あると表明
https://reut.rs/2NvoBek
[ハノイ 28日 ロイター] - 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は28日、朝鮮半島の非核化を推進する用意がなければ、ベトナムでトランプ米大統領と会談していることはないと語った。




また、交渉“決裂”後の深夜に急遽行われた北朝鮮側の会見でも、リ・ヨンホ外相は次のように述べている。この部分の要点は3つ。これらもシンガポール合意に立脚している。

1)「寧辺の核関連施設の廃棄」と「経済制裁の一部緩和」を取引したかったが失敗した。
2)「より重要なのは、安全の担保という問題」だが、米側の準備に時間がかかることを承知している。
3)北朝鮮の非核化措置は、(米側からの)安全保障の提供と引き換えになる。


「キム委員長は意欲失うのでは」北朝鮮の会見全文 | NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190301/k10011832741000.html

アメリカが国連制裁の一部、すなわち民需経済と特に人民生活に支障をきたす項目の制裁を解除すれば、われわれは、ニョンビョン(寧辺)のプルトニウムとウランを含んだすべての核物質生産施設をアメリカの専門家の立ち会いのもとで、両国の技術者が共同作業で永久的に完全に廃棄するということです。

われわれが要求したのは、全面的な制裁解除でなく、一部の解除、具体的には国連の制裁決議、合わせて11件のうち、2016年から17年までに採択された5件、そのなかで民需経済と人民生活に支障をきたす項目だけ、まず解除せよということです。

これは朝米両国間の現在の信頼基準でみる時、現段階でわれわれができる最も大きい非核化措置です。われわれが非核化措置に出るにあたり、より重要なのは、本来、安全の担保という問題ですが、アメリカにとっては軍事分野での措置を取ることはまだ負担だとみて、部分的な制裁解除を相応の措置として提起するものです。

今回の会談で、われわれはアメリカが感じる懸念を減らすために核実験と長距離ロケット発射実験を永久に中止するという確約も、文書の形で表記することも表明しました。




次の記事では「寧辺の核関連施設の廃棄」と「経済制裁の緩和」が取引として受け入れられない理由を米政府高官が説明している。これは、経済制裁解除は最終的な核廃絶との交換になるという米国政府の方針を示したものと考えられる。

北朝鮮、制裁解除へ核施設の一部閉鎖を提案=米国務省高官
https://reut.rs/2NzyDv3

[1日 ロイター] - 米国務省のある高官は、北朝鮮は、大量破壊兵器を直接対象としたものを除くすべての国連制裁の解除条件として、寧辺の核施設の一部閉鎖を提案したと述べた。

高官は記者団に「われわれが直面した問題は、現時点で北朝鮮が大量破壊兵器プログラムの完全な凍結に前向きではなかったことだ。制裁解除で多額の資金を与えることは、実質的に大量破壊兵器の開発を手助けすることになる」と述べた。


なおこれは、米朝交渉期間中は、北朝鮮が核兵器の製造を今後も継続することを米国側でも承知していることを示しているとも言える。北朝鮮側としては、シンガポール合意が最終的に破棄される将来リスクを考えたら軍備強化を放棄するわけにはいかないわけだから仕方がない。
逆に「核兵器の製造が続いているから北朝鮮に核廃絶の意思はない」などと騒がなくて良い。モノゴトには順序がある。



…ということで、以上の情報を俯瞰すると、冒頭に掲げた図のような取引構造となる。



また、ハノイ“決裂”後の安倍総理のコメントは次の通り。悲観などしていない。逆に歓迎し、そして次の一手に踏み出そうとしていることがわかる。

安倍首相「次は私が向き合う」 トランプ氏の妥協せぬ姿勢歓迎
https://www.sankei.com/politics/news/190228/plt1902280027-n1.html
安倍晋三首相は28日夜、トランプ米大統領と電話会談し、米朝首脳会談の報告を受けた。首相は会談後、トランプ氏が非核化で妥協しない姿勢を示したことについて「安易な譲歩を行わず、北朝鮮の具体的な行動を促していくトランプ氏の決断を全面的に支持する」と記者団に語った。トランプ氏が拉致問題を提起したことを評価し「次は私自身が金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と向き合わなければならない」と言及した。


シンガポール合意文書にある《北朝鮮に安全保障を提供=原文:President Trump committed to provide security guarantees to the DPRK.》の正体は、周辺大国による朝鮮半島不可侵条約ではないかというのが私の読みだが、その場合は日本も調印国になり、その条件の筆頭に拉致被害者の帰国が来る。故に、そろそろ日朝交渉を開始すべく上述のコメントになったのだろう。



それで、この一連の米朝交渉がいつまでかかるのかを考えると、例えば今年中などというような短期には終わらないものと予想する。
歴史に類例を求めると米ソの「第一次戦略兵器削減条約」が参考になるかもしれない。交渉開始は1982年だが、冷戦が緩和した1985年頃から交渉が加速し、1991年に締結。6年も要している。
これを米朝交渉に当てはめると、米朝敵対緩和が2018年として6年かかるとすれば2024年。これより早まるか遅くなるかはわからないが、ともかくそんな短期には終わらない話。



最後にハノイ“決裂”後のトランプ大統領のツイートを紹介。

"we know what they want and they know what we must have." と書いているが、ここはシンガポール合意での双方の取引項目を暗示してると思われる。続けて「関係は良好だし、何が起こるかまぁ見ててよ」と締めくくっている。








(参考)
2018年6月シンガポールでの米朝署名文書の全文:

Trump and Kim's joint statement(英文)
https://reut.rs/2l1Q5e6

情報BOX:米朝首脳会談、共同声明の全文(日本語訳)
https://jp.reuters.com/article/us-nk-summit-joint-statement-idJPKBN1J80RF





以上。








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2 コメント

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Unknown (名無し)
2019-03-02 17:51:56
いつも興味深くブログを拝見させていただいてます。


1.日本とは交渉する必要があるのか?
北側から見れば所在も何もかも分かり切った人間を解放するだけなので何をこうしょうするのかよくわからないし、そもそもここは米国がまとめるべき案件なのでは?

2.ベトナムで行うという象徴的意味合いを失わせた理由は?
ベトナムは元社会主義国で市場経済を受け入れた独裁国家でアメリカ側が示したい北朝鮮の将来像のような国でここで昼食会を前に話を切り上げれば少なくともメディアで「決裂」というニュアンスで報道されるのは当然であり昼食を食べてシンガポールの文言を再確認して別れるという流れを取らなかった理由は?

の2点についてご意見を頂けると嬉しいです。
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回答 (ZF)
2019-03-03 10:11:34
ご質問いただいた件につき、私が思うところを回答させていただきます。

(1)国民の保護は国家の主権問題です。外国に拉致された自国民の奪還は、武力か交渉か手段はともかくとして、当事国(=日本国)が実行するのは当たり前です。米政府もそれを分かっているので、口添えのレベルに留めているものと思います。

(2)昼食会キャンセルの件はトランプ流の交渉術としか言いようがないかと思います。外部への体裁を繕うよりも、金正恩のメンツに一撃喰らわせる方を優先したということかと思います。これに懲りれば、北朝鮮側は次回交渉の要求水準を下げてくるでしょう。これが狙いかと思います。
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