ゆっくり行きましょう

気ままに生活してるシニアの残日録

アーティゾン美術館で山口晃の展覧会を観る(その2)

2023年09月29日 | 美術

(承前)

この展覧会を観て、感心したことなどを述べてみよう。

  • 展示室に入ると、いきなり「汝、経験に依りて過つ」というインスタレーションに度肝を抜かれる。これはその部屋に入ると部屋全体が右に何度か傾いているのだ。直ぐに立っているのがおぼつかなくなり、気分が悪くなる。山口氏の説明によると立っている地面の傾斜と重力のかかる方向が異なることによるバランス感覚の喪失と言うことらしいが、結構強烈に気持ち悪くなった。トリックアート美術館などに同じようなものがあった気がするが、ここまで気分が悪くなることは無かった。
  • 作品を順に見ていって、これは面白いと感じたのは、趣都日本橋編「月刊モーニング・ツー」、という作品だ。これは漫画であり、東京の日本橋の上を通る首都高速が景観を損ねるとして地下を通すことが決定されたことについて、大人と子供が話をするものである。その話がうんちくに富んでいて面白い。
  • 首都高を撤去した後の今の日本橋は平坦なので橋があるのが分からないとか、太鼓橋でないので舟が通りにくいとか、壊さないで首都高の上に楼門をつけたら良いとか、今でもいずれか一方から見ると実は空が大きく見えるとか、今の首都高の上にそれを跨ぐ大きな太鼓橋を架けてはどうか、など、面白い。

  • 大きなキャンバスに精緻な筆致で、過去と昔がごっちゃになったような地図を描いた東京圏1・0・4輪之段という作品には驚いた。山口氏がカバーしている芸術の範囲の広さを感じた。
  • セザンヌや雪舟の絵の描き方などが氏のハンドライティングで詳しく解説してある、が、結構専門的で難しかった。しかし、画家がいかに多くのことを考えて他の画家の絵を見て理解しているかよくわかった。

(その3)に続く


アーティゾン美術館で山口晃の展覧会を観る(その1)

2023年09月28日 | 美術

東京のアーティゾン美術館で開催中の展覧会「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」を観に行った。1,200円。最近は美術館入場料も2,000円くらいするものが多いが、日本人画家と美術館コレクションからの展示なので安くできるのだろうか、有難い。

今日の展示は写真撮影OKであった、セザンヌや雪舟なども原則すべてOKである。これは評価できる。

ジャム・セッションとは、石橋財団のコレクションと山口晃氏との共演、という意味だそうだ。サンサシオンとは、フランス語で「感覚」と言う意味で、セザンヌがよく用いていた用語。絵描きが目を開いたときにビビッとくる、そんな感情である。

山口晃氏(1969年東京生れ)は、作家個人は美術館行政など、美術に関する制度に絡め取られてはいけないと考えている。そして、サンサシオンを内発し、愚直に続けることがそれに対する防波堤となるとしている。これはその通りだろうが、現実には難しい。漱石が言うように、芸術と商業主義とは本来、相矛盾するものだからだ。

この展覧会では、セザンヌ、雪舟など山口氏が好きな画家の作品を展示すると同時に、それらに対する氏の観察、氏の作品、模写、インスタレーションなどが展示されている。2019年に放映されたNHK大河ドラマ「いだてん 〜東京オリムピック噺〜」のオープニングタイトルバック画となった《東京圖1・0・4輪之段》や、2021年7月に完成した東京メトロ日本橋駅のパブリックアート《日本橋南詰盛況乃圖》等、話題を呼んだ作品の原画が初公開されてる。

また、山口の作品を見るにも、雪舟やセザンヌを見るにも、ましてや日本近代絵画を見るにも、私たちの視覚認知機能によるところがあるが、その視覚認知機能を改めて意識すべく、山口の追体験的なインスタレーション群が展示されていた。

いずれを見ても面白い作品ばかりだった。

(その2)に続く


「デイヴィット・ホックニー展」を観に行く

2023年08月26日 | 美術

江東区の東京都現代美術館で開催中の「デイヴィット・ホックニー展」を観に行ってきた。デイヴィット・ホックニーは知らない画家だった。シニア料金で1,600円。結構混んでいた、来場者は若い人が多かった。

テイヴィット・ホックニーは1937年、英国生まれの86才、ロンドンの王立美術学校に学んだ後、米ロサンゼルスに移住した、現在は、フランスのノルマンディーを拠点に精力的に制作活動をしている現役の画家だ。96年にもこの現代美術館で個展を開催し、今回はそれ以来の27年ぶりの個展だ。120点余の作品が展示され、公式の映像コメントでは、作家本人が「私の人生の大半をたどることができます」と語っている。確かにそうだった。

今回の展示は、全8章からなる、簡単な感想をつけてみた

  1. 春が来ることを忘れないで・・・「ラッパスイセン」が綺麗
  2. 自由を求めて・・・1960年代初頭からの初期作品が並ぶ
  3. 移りゆく光・・・カリフォルニア移住時の作品、プールや庭のスプリンクラーを描いた作品が印象的
  4. 肖像画・・・ふたりの人物で画面を構成する「ダブル・ポートレート」、友人などを描いた肖像画を展示
  5. 視野の広がり・・・1980年代に訪れた転機に焦点を当てる、ピカソのキュビズムに影響を受ける
  6. 戸外制作・・・巨大な作品《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》が圧巻
  7. 春の到来、イースト・ヨークシャー・・・「春の到来、イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年」(下の写真)が圧巻


  8. ノルマンディーの12か月・・・全長90mの大作《ノルマンディーの12か月》に驚く(下の写真)


観た感想を述べよう

  • イギリス、カリフォルニア、ノルマンディーという気候が全く違う3カ所で制作された作品の違いがよくわかる展示となっている。ウォーター近郊の大きな木々の冬景色がなんともイギリスらしいし、青い芝生のある庭の「スプリンクラー」や「午後のスイミング」がいかにもカリフォルニアらしい、またノルマンディーの12ヶ月の季節の移り変わりは、印象派を生んだフランスらしい景色だ
  • 作品の中ではその大きさゆえ、「ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作」に驚く、これは50枚のキャンバスから成る巨大な作品で展示室の1面を全部埋め尽くす大きさ。同じ展示室のビデオで作者自身が制作過程を解説しているのはありがたい。写真が撮れないのが残念。
  • 次に圧巻なのは全長90mの大作「ノルマンディーの12か月」だ、大きな展示室の中をぐるりと一周するように展示してある。中国や日本の巻物に影響を受けたのだろう。1年間かけて戸外で描いた220点のiPad作品をもとに、モチーフを選び取り再構成し絵巻物状の作品としたものだ。こんなの初めて見た。
  • ピカソの影響を受けた時代には、やはりキュビズムのピカソの絵のような作品が多いが、比較的カラフルであった
  • 高齢となり、コロナの影響も受けた最近でも制作意欲が全然衰えないのがすごい、更にiPadなどの最新の文明の利器を利用して絵を描くというところもすごいものだ。
  • 今なお現役の作家であるが、抽象画ではなく具象画にこだわった制作姿勢が好きだ、描かれているものは実にオーソドックスなもので、観てる人に不安感を抱かせるようなものはなく、しあわせな気分にさせる絵が多い。
  • 日本にも来て、龍安寺を訪問したり、いろんな影響を受けたと思われる点がうれしい、北斎の浮世絵の雪景色のような絵もあった。

さて、最後に運営面へのコメントを書いておこう

  • 展示室は3階と1階だが、写真撮影は1階のみ可能だった。1階には大作も多くあるので、この対応は評価できる。
  • 展示作品の作品リストが紙の配布ではなく、QRコードで読み取るものだったのは進歩的であり評価できるが、紙の配布を前提にしたデザインでないため、一覧性にかけるところは課題であろう
  • ユース向け鑑賞ガイドが紙で配付されるが、ネットでも見れるようにしてほしい
  • 展示作品の説明の小さなパネルの文字が小さい、位置もかがんでみないと見えない低い位置にあった、なぜその位置にしなければならないのかわからない
  • 館内の冷房温度が低すぎ、寒く感じた、作品保護上の理由なのだろうか、電気代も高いので温度設定を見直してほしい

観に行く価値はあると思う。東京都現代美術館は展示室も多く、現代美術の室外展示や中庭展示などもあり、ゆっくり観たい人には1日かけるくらいの内容がある。


「Saul Leiter, origin in color」(ソール・ライターの原点)を観に行く

2023年08月14日 | 美術

渋谷ヒカリエホールで開催中の写真家ソール・ライターの生誕100周年記念の展覧会を観に行ってきた。前売り1,600円。いろんな年代の人が来ていた。

ソール・ライターという人を全く知らなかった。偶然、テレビの美術番組で彼の写真や人生を取り上げた番組を立て続けに観たばかりだったのでこの展覧会を知った。

展覧会のホームページの説明では、「ソール・ライターは、1923年ペンシルバニア州に生まれ、1946年画家を志しニューヨークへ移住。1958年、ハーパーズ・バザー誌でカメラマンとして仕事を始める。その後、80年代にかけて多くの雑誌でファッション写真を撮影。1993年、カラー写真制作のためイルフォードから資金提供を受けたことにより、カラー写真のプリントが初めて可能となる。2006年、ドイツの出版社が初の写真集『Early Color』出版。2012年、ドキュメンタリー映画「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」を製作。2013年ニューヨークにて死去。享年89歳。」とある。

展覧会の構成は

  1. ニューヨーク1950-60年代
  2. ソール・ライターとファッション写真
  3. カラーの源泉 — 画家ソール・ライター
  4. カラースライド・プロジェクション

1には、1950~60年代頃、黄金期のニューヨークを写し撮った未公開スナップ写真(モノクロ)が多数展示されている。題名はほとんど「無題」。また、撮影活動を始めたころ、ソール・ライターは身近なアーティストたちのポートレートを数多く残しており、その写真が展示してある。

2は、ファッション雑誌『ハーパーズ・バザー』の表紙などに使われたカラー写真が展示されている。写真のネガについての所有権がハッキリしない時代なので、展示作品としては、掲載された雑誌が展示されていた。

3は、写真家ではなく、画家としてのソール・ライターの作品が展示されていた。色彩豊かなきれいな絵が多かった。ソール・ライターは、日本の浮世絵の影響を受けた印象派やボナールなどのフランスのナビ派の絵画を愛したと言う説明は日本人としては嬉しい。

4は、厳選したカラースライドの複製を多数展示し、覗き込んで写真を楽しむというソール・ライターの鑑賞方法が追体験できた。また、ここではこの展覧会の一番の目玉として、ヒカリエホールの大空間の10面の大型スクリーンに彼の作品約250点がスライドショーとして次々と投影されている。これは圧巻であった。この迫力の展示によってソール・ライターの写真の魅力が一層輝いて見えた。

雨の日の曇りガラス越しに見える外の景色や人を撮った写真が良い雰囲気を出している。写真好きでなくても楽しめました。


佐倉市の「DIC川村記念美術館」に行く

2023年08月08日 | 美術

九十九里浜に旅行に行った2日目に、DIC川村記念美術館に寄ってみた。過去、何回か来たことがある。この美術館はDIC(元大日本インキ化学工業)の関係会社が運営する美術館で敷地内には庭園、自然散策路、芝生の広場などがある。1990年開館の美術館で、説明によれば、コレクションは17世紀のレンブラントによる肖像画、モネやルノワールら印象派の絵画から、ピカソなどの西洋近代美術、戦後アメリカ美術まで幅広いジャンルの作品があるとのこと。

シニア割引を適用して1,600円で入場。平日の猛暑日にもかかわらず結構多くの人が来場していた。若い人が多いのが印象的だ。

展示室を順路に従い観ていくと、常設展示にはモネ、ルノアール、ピサロ、ボナール、シャガール、ピカソ、ブラック、藤田嗣治、マリー・ローランサン、レンブラントなど有名な画家の作品が多く展示されており圧巻である。

また、抽象絵画についても、カンディンスキー、ルネ・マグリット、マン・レイなどの自分の知っている画家はもとより、他の多くの作品が展示されている。自分は抽象絵画は不勉強でよく知らないが、200展示室のジュールズ・オリツキーの「高み」は一つの展示室に一つの大きな絵画だけが展示してあり、その両脇は緑の生い茂る外の景色が大きなガラス越しに見え、両者一体となって作品となっている素晴らしい作品だ。

また、106展示室[ロスコ・ルーム〈シーグラム壁画〉]には、この美術館の自慢の作品であるマーク・ロスコによる大きな壁画(スケッチを含む)が展示されている、が、私には理解不能だった。

企画展示室には、ジョセフ・アルバース(1888–1976)に関するいろんな作品や資料が展示されている。

美術館の解説では、「ジョセフ・アルバースは画家、デザイナー、美術教師。ドイツで生まれ造形学校バウハウスで学び、のちに教師となって基礎教育を担当。同校の閉鎖後は渡米し、ブラックマウンテン・カレッジや、イェール大学に勤務。戦後アメリカの重要な芸術家たちを育てた。

アルバースは授業の目的を、目を開くこと、だと述べた。彼はただ知識を教えるのではなく、学生に課題を与え、手を動かして考えることを促した。そうして答えを探究することで、色彩や素材のもつ新しい可能性を自ら発見させようとした。そしてアルバース自身もまた、生涯にわたり探究を続けた。そこから生み出されたのが、バウハウス時代のガラス作品から、家具や食器などのデザイン、絵画シリーズ〈正方形讃歌〉に至る、驚くほど多様な作品群。本展はアルバースに迫る、日本初の回顧展」とのこと。

展示室内を見て歩くと、アルバースの考えやユニークな作品に驚く、そして来場者にも実際にアルバースの世界を体験してもらおうと、ワークショップが設けられており、そこにいろんな色の紙とハサミ、ノリなどがおいてあり、タブレットの説明に従って自分で想像力を働かせて作品をつくる体験ができるようになっている。夏休みなので子供連れの家族が、親子で挑戦している姿が微笑ましかった。

さて、運営面で若干の意見を言いたい。

  • 館内は写真撮影禁止であった。撮影できるようにしてもらえたら有難い。
  • 各作品の横に貼付けある作品説明の銘板であるが、まず、文字が小さい、付けてある位置が絵の下のかがまないと見えない位置にあり、かつ、作品保護のためか薄暗いので非常に読みにくい。

いずれについても何とか改善してもらえたら有難い。

今日は猛暑のため、作品鑑賞後、庭園を見て歩くことは諦めた。次回、またゆっくりと半日くらいかけるつもりで来てみたい。

お疲れ様でした。

 


千葉市緑区の「ホキ美術館」に行く

2023年08月07日 | 美術

九十九里浜1泊旅行の初日、ゴルフの後、まだホテルに行くには時間が早かったので、千葉市緑区の土気(とけ)駅近くにある、ホキ美術館に行ってみた。過去に2、3回来たことがある。ホキ美術館は2010年11月3日に開館し、そのコレクションは、故保木将夫氏が収集した写実絵画作品約500点から成っている。

保木将夫氏は医療器具の製造・販売会社である東証プライム市場に上場しているホギメディカルの創業者だ。美術館は2019年の豪雨の時、浸水等の大きな被害を受けたが、関係者の努力により再開にこぎ着けた。


(駐車場から見た景色、四角い箱の右側を行くと入口がある)

この美術館には大きな特徴が2つある。

  • ホキ美術館は、日本初の写実絵画専門美術館だ、写実絵画とは画家が見たままに、そしてその存在を描いた作品。1年に数点しか描くことができないほど、画家が時間をかけて1枚の絵と向き合い、こつこつと緻密につくりあげた作品だ。見ていると写真と言われればそうか、と思うほどの精巧な作品だ。
  • 美術館の建物はこのコレクションのために設計されたもので、その建物自体が一つの美術作品と言える。地上1階、地下2階の三層の長い回廊を重ねたギャラリーで、一部空中に浮いている部分もある大変ユニークな形をしている。内部はピクチャーレールのない展示室、天井に埋め込まれたLEDとハロゲンの照明、床には長時間の鑑賞に疲れないゴム素材を採用するなど、絵画鑑賞に最高の設備を備えた最新鋭の美術館だ。


(入口に向かう通路)

館内を歩いてみると、細長い回廊のような空間の両脇に作品が展示してある。一方通行で回廊の奥の先端まで行くと階下に降りて次の回廊がまた出てきて、そこに作品がある。一番上のフロアーの回廊には外光が入るようになっている。それ以外のフロアーにも一部外光が入るところがあり、うまく考えられている。


(入口と反対側の景色、回廊部分が空中に突き出ている)

鑑賞の感想を若干述べよう

  • 館内は写真撮影禁止だ。これは残念なことだ。再考してもらいたい。そうすればもっと来場者が増えるだろうし、写実絵画の普及にも貢献すると思う。
  • 写実絵画の現代的な意味について、写真がなかった時代には写実と言うことが大きな意味を持ったであろうが、写真がこれだけ普及した現代で写実絵画と写真とは何が違うのか。
  • それをネットで調べると、写実絵画は今もあるが、 多くは架空の生物や場所、 理想の美女や全てにピントがあった昆虫など 「写真では絶対に撮れないもの」を描く、とか
  • 「写真のような絵」は大抵の場合、写真を見ながら写真をトレースして描いている。しかし写真はカメラが単眼のため、奥行を表現するのが不得意だが、人間は両方の目で見て立体感や距離感を感じているわけだから、写真を見て写真以上に写実的に表現できる能力があるので写真を超える作品になる、など
  • 絵画の専門家でもないので、答えはわからないが、まだストンと腹落ちするところまではいっていない

ゴルフの後なので、そんなに長い時間じっくりと観ることはできなかったが、いつ来ても素晴らしい建物、設備、作品に触れ、充実した時間を過ごせた。

お疲れ様でした。


新宿区弁天町の「草間彌生美術館」に行く

2023年07月24日 | 美術

前から行きたいと思っていた草間彌生美術館にネットで予約して行ってきた、値段は1,100円。当日券はない。場所は都営大江戸線の牛込柳町で下車して徒歩5分くらい。東西線の早稻田からもいける。近くには一度来たことがある漱石山房記念館がある。駅から歩いて近くまでくると、ひょろ長い白いビルが見えてくるので直ぐにわかった。ロビーが狭く、予約の時間前に来ても外で待つしかないので30分刻みの予約時間内に来てほしいとのこと。客は夏休みシーズンだからか外国人や子供連れの人も多かった。シニアはほとんどいなかった。

スマホのチケットを見せて中に入ると、1フロアーが確かに狭い。そのため、下の階から順番に階段を使って上のフロアーに上がって行き、帰りはエレベーターで降りる一方通行方式をとっている。

開催中の展覧会は「草間彌生の自己消滅、あるいはサイケデリックな世界」というもの。説明によれば、草間彌生は単一のモチーフの強迫的な反復と増殖から生じる、自他の境目が消えていくような感覚を「自己消滅」と呼び、さまざまな制作手法で表現している、という。その作品表現には1960年代草間の活動拠点だったアメリカのサイケデリック・ムーブメントを特徴付けたという。

「自己消滅(Self-Obliteration)」という考えは、よくわからないが、3階の展示室にあった「永劫回帰(The Return to Eternity)」という巨大作品の説明を見ると、「私⇒水玉(個の消滅)⇒輪廻転生⇒無限の水玉として宇宙に永劫回帰(死生観)」、という概念が示されている。わかったようなわからないような。

各フロアーの主な展示

  1. 受付、六角形のミラールーム最新作など
  2. 1960年代のハプニングの記録動画など
  3. 80年代から90年代後半の作品、永劫回帰、天上啓示などの作品
  4. ブラックライトを使ったインスタレーション
  5. 夜中に咲く花(Flower That Bloom at Midnight)

2階、3階は写真撮影禁止だが、それ以外のフロアーはOKだった。

鑑賞した感想を述べてみよう

  • 建物の内部構造がユニークで、狭いけど階段部分は上部に吹き抜けになっており広さと空間を感じさせ、フロアーも天上が高いので息苦しさはない
  • 5階は最上階で半分は室内だが、半分は天上から外が見える屋上のように開放的になっているユニークなデザイン
  • 展示作品は比較的古いものが多く、草間さんといえばイメージする水玉の作品は少なめだった
  • 草間さんらしい作品と感じたのは、4階のインスタレーション(ドアを開けて部屋に入るとそこには特別な照明と水玉がいっぱいある1分半滞在できる特別な世界)と5階の屋上の作品。皆、写真を撮っていた。
  • 運営面では、作品の説明のプレートがとにかく小さい、文字が細かい、シニアには無理だ。近眼、老眼の人も難しいだろう。

広くはないので、1時間もかからないで全部見れた。

お疲れ様でした。


上野「国立西洋美術館 常設展」を観に行く

2023年07月20日 | 美術

上野の「国立西洋美術館常設展」を観に行った。最近改装していたがリニューアルオープンしたので行ってみようと思った。企画展も考えたが、特に興味がなかったので常設展を観ることにした。好きな美術館である。

事前にネットでチケット500円を購入して、入口でそれを見せて中に入った。最初のうちは15世紀くらいまでの宗教画が多く展示されている。私はどうも宗教画に興味が持てないので、そのあたりはさっと飛ばして、17世紀以降くらいの展示を中心に見て回った。ただ、最初に展示室に入って直ぐのところにあるブリューゲル(子)の「鳥罠のある冬景色」はよかった。

その後、17世紀くらいの展示に入っていくと、クールベ、マネ、モネ、シスレー、コロー、セザンヌ、ゴーギャン、ピカソ、ミロなどおなじみの作品が続々と出てくる。これだけの数のコレクションを保有しているのも日本では数えるほどの美術館だけであろう。それがいつでも500円で見られるのだから有難い。モネの作品も相当な数、展示されている。これらをゆっくり観て歩くだけで直ぐに1時間は過ぎてしまった。毎度おなじみの絵が多いが、初展示作品もいくつかあった。

(ピカソ、初展示作品、小さな丸帽子を被って座る夫人、1942年)

さて、久しぶりに観て、運営面での若干のコメントをしよう。

  • 昨日観に行った松岡美術館と比べると、作品解説の銘板の文字が小さく、照明も薄暗く、近視と老眼の私には大変見にくいものだった。文字が小さくなる理由の1つは日本語、英語、中国語、韓国語で表示されていることだ(上の何枚かの写真を参照)。スペースには限りがあるので、日本語と英語だけで十分ではないか。
  • 常設展は写真撮影OKになったのは評価できる。また、一部の作品は撮影禁止になっていたがその表示に気づかずに撮影してしまってた人に注意を与えているのも毅然とした対応で評価できる。ただ、偶然見かけた撮影禁止を注意をする場面では、係員が写真を撮っている人のところに行って写真の前を手で塞いで、撮影禁止です、と言っていたが、これはやり過ぎではないか。
  • 展示室内に何の匂いかわからないが少し気になる匂いが広範囲でした。展示室設定の際に使う塗料とか接着剤の匂いかもしれないが気になる匂いだった。

一回で全部ゆっくり見るのは時間的にいっても、体力的にいっても無理だ、入場料も安いので、年に何回かは来て繰り返し見るようにしたいと思っている。

お疲れ様でした。


白金台の「松岡美術館」に行く

2023年07月17日 | 美術

当ブログを見ていただいている方の中に、昨日の秋田、青森の大雨による水害にあわれた方がいらっしゃったら、心よりお見舞い申し上げます。これ以上の被害が出ないこと、早急に復旧がなされることを願っています。

港区白金台の松岡美術館に行ってきた。ここは2、3年前に一回来たことがある。

現在は、

  • 「江戸の陶磁器 古伊万里展」
  • 「モネ、ルノワール 印象派の光展」

などが開催されている。入場料は1,200円、シニア割引はなし。白金台の駅から歩いて10分。大通りからちょっと脇に入ったところにある。美術館に入ってみると来ている人は圧倒的に若いカップルが多かった。白金台という洒落た場所なので若い人たちのデートコースになっているのだろう。シニアは少数派だった。

この美術館は実業家の松岡清次郎氏が1975年に港区新橋にオープンし、その後現在地の松岡氏私邸跡地に新美術館の建設を開始し、1996年に新美術館としてオープンしたもの。松岡氏は若いころから書画骨董を愛し、約半世紀をかけて一大コレクションを築き、80歳を迎えるころ、「優れた美術品は一般に公開し、一人でも多くの美術を愛する人に楽しんでいただこう」という考えでこの美術館を作ったそうだ。

所蔵品はほとんどオークションでの落札によるもので、開館以来、所蔵品のみで展示を行っている。これは蒐集家の審美眼を蒐集作品を通じて観てもらおうとの考えだ。この考えには大いに賛同できる。やはり美術館は創設者らが自腹を切って集めた作品を常設展示するのが基本だと思う。

まず、古伊万里の作品を観た。江戸時代に有田でつくられた磁器を古伊万里という、そして、説明を読むと、江戸時代に約100年にわたって古伊万里は海外にさかんに輸出されたとのこと。それはオランダの東インド会社が中国陶器に代わる商品として大量に注文したためだ。

乳白色の磁肌に清澄な色彩で花鳥や唐人物が絵付けされた「柿右衛門様式」、濃紺の染付に赤と金による桜花や菊など和風な文様が煌びやかな「金襴手様式」は、ヨーロッパの王侯貴族たちを魅了して膨大なコレクションが築かれたそうだ。実際に展示作品を見てみると実に上品で美しい、日本人や花鳥などを書いたものはえも言われぬ美しさがあり好きだ。

柿右衛門様式 や 金襴手様式 に先立ち、有田で焼かれた「初期色絵」は「古九谷様式」ともよばれる、これは古伊万里よりは少し地味であり、大名などに好かれた。さらに、佐賀鍋島藩直轄の窯で焼かれた磁器で、徳川将軍家への献上、諸大名や公家への贈答、そして藩主の自家用の品として、採算を度外視して生産されたのが鍋島焼だ。私は以前、戸栗美術館で開催された鍋島焼の展覧会に行ったことがあるが、鍋島焼の上品な磁器に魅せられた。おくゆかしい気品がある。

次に、印象派の光展だが、モネ、ルノアール、ピサロ、ギヨマン、シニャック、マルタン、リュス、ヴァルタなどの作品が展示されている。印象派の作品は好きだがモネの睡蓮、ルーアン大聖堂の連作は必ずしも好きではない、が、モネの作品には素晴らしいものが多いことは確かだ。また、ピサロなどの風景画も大好きだ。

今日展示されていた作品で良いな、と思ったのは次のものだ。

  • 10番:羊飼いの女(ピサロ)
  • 12番:カルーゼル橋の午後(ピサロ)
  • 34番:水浴の女たち(ヴァルダ)

美術館の中にはこの2つの展覧会の他にあと古代オリエント展もあり、ざっと見たが、入館してから1時間半くらい経つともう疲れて見ていられなくなる。どうして美術館はこう疲れるものなのか不思議だ。じっくり勉強するには半日くらい潰すつもりで、少し観ては少し椅子に座って休み、また観る、というようにすべきなのだろうが、シニアになって時間に余裕ができてもそういう見方ができないのは長年あたふたと働いてきた習性が簡単には変えられない、ということか。

さて、最後にこの美術館の運営面についてコメントしたい

  • 松岡美術館は原則として写真撮影OKだ、但し、音の出ない写真アプリを使うことが要求される。これはうれしい。印象派の絵は全部撮影可能となっていた。
  • 美術品の展示には作品名、制作年月、制作者などの情報を記載した銘板が添えてある、さらに詳しい情報が書かれている作品もあるが、それらが比較的大きな文字で書かれており、かつ、照明も明るめになっているので非常に見やすかった。特に陶磁器などは照明の制約がないので大変読みやすかった。
  • この展示作品説明の銘板だが、さらに素晴らしいと思ったのは、各作品の制作日とともに、その時作者が何歳だったか表示されていることだ。これは大変役に立つ情報である。この美術館のスタッフの方々がきっと自分たちが客として観る場合、何か知りたいかとことん検討している証拠であろう。高く評価したい。

観に行く価値は十分あると感じた。

 


上野に「マティス展」を観に行く

2023年06月20日 | 美術

上野の東京都美術館で開催中の「マティス展」を観に行った。マティス展は20年ぶりとのこと。NHKの「日曜美術」やテレビ東京の「美の巨人たち」でも取り上げていた注目の展覧会だ。入場料はシニアで1,500円。チケットは事前にネットで購入した。今日は学生服を着た小学生と思われる集団が鑑賞に着ていた。良いことだ。

マティス(仏、1869-1954、84才没)が若いときの作品から晩年の切り絵紙、ロザリオ礼拝堂まで時系列に展示されているのは勉強になる。展示室は次の通り別れていた。

  1. フォービズムに向かって(1895-1909)
  2. ラディカルな探求の時代(1914-18)
  3. 並行する探求(彫刻と絵画)(1913-30)
  4. 人物と室内(1918-29)
  5. 広がりと実験(1930-37)
  6. ニースからヴァンスへ(1938-48)
  7. 切り絵紙と最晩年の作品(1931-54)
  8. ヴァンス・ロザリオ礼拝堂(1948-51)

鑑賞した感想を述べてみよう

  • マティスの絵は前から好きだった、その色彩感、カラフルさがなんと言っても素晴らしいからだ。今回の展示でもそれらのマティスの特長がある絵がいっぱい展示されていたのはうれしかった。
  • 展示作品の解説を見て始めて気づいたのだが、マティスの絵の特徴の1つは、色彩の他に、「窓」と「画中画」、「赤」、「アトリエ」などだ。絵の中にこれらの要素が描かれているものが多い。そう言われればそうだな、と勉強になった。
  • 晩年、病気になって手術もして、体が不自由になってからも創作意欲は衰えず、その時できることをやる、という考えで、ベッドで寝ていてもできる切り絵紙を始めたり、ロザリオ礼拝堂にいたっては長い棒の先に筆を付けてそれをベッドから礼拝堂の壁に向かって描くということもやった、芸術家の執念とでも言う制作姿勢はすごいの一言だ。
  • マティスのことはまだ詳しく勉強したことがないが、音楽が好きで、ヴァイオリン奏者を描いた絵が2,3あったのには驚いた(22番:窓辺のヴァアイオリンン奏者、44番:ピアノの前の若いヴァイオリン奏者など)
  • 若いときにシニャックの影響を受け、点描で書いた絵(10番:豪奢、静寂、逸楽)が展示されていた。シニャックの絵とそっくりで、こんな絵を描いていたなんて知らなかった。

さて、展覧会の運営サイドのことについても若干コメントを述べておこう

  • 今回の展覧会は写真撮影原則禁止だが、許可されたものはOKとなっていた。その許可されていたところとは、1階の展示室全部であり、上記の4から6の時代の作品であった。ここにはかなりのマティスらしい作品が展示してあり、これらを全部撮影OKというのは有難かった。評価されるべきであろう。
  • 撮影が許可されないところでも撮影している人がいたが、係員がきちんと注意していた。ダメなものはダメだときっちり注意することは大事だ。また、入場料は65才以上は割引になるが、それを証明するものを要請された、これも大事なことだ。自己申告だけで済ませている展覧会や美術館も少なくない。

1時間半くらい鑑賞して、満足して美術館を後にした。ファンであれば行く価値は十分あると思う。

最後に料金設定についてコメントしたい。正規料金は2,200円と高くなっているが、65才以上は1,500円に割引している。個人的には有難いが、こんな老人優遇は止めるべきだ。美術館やオペラ・クラシック音楽を聴きに来るような老人は金を持っている人が多いのではないか。むしろ、若者世代を1,500円に優遇すべきだ。金がないのは若い世代だ。非正規雇用の若者もいっぱいいるのだ。

ついでだが、最近、年金変更通知が来て2%も上がることがわかった。長いデフレの時期に本来減額すべき年金をほとんど減額してこなかったとおもったら、インフレになった時は直ぐに増加だ。政府はルール通りに運用すべきでしょう。