ゆっくり行きましょう

気ままに生活してるシニアの残日録

テレビ録画で喜歌劇「こうもり」を鑑賞

2024年04月19日 | オペラ・バレエ

テレビで放送していた喜歌劇「こうもり」を鑑賞した。収録は2023年12月28・31日、バイエルン国立歌劇場での公演だ。昨年ミュンヘン旅行に行ったとき、この歌劇場を訪問し見学ツアーにも参加し、バレエ公演も観た。今回のテレビはそのバイエルン国立歌劇場での大好きな「こうもり」の公演とあっては観ないわけにはいかない。15日に放送したばかりだが早速観た。

今年の正月にウィーン国立歌劇場のストリーミングサービスで昨年末の公演「こうもり」を観たが(その時のブログはこちら)、ミュンヘンでも年末は「こうもり」で行く年を笑って忘れようということでしょう。

ヨハン・シュトラウス 作曲
演出:バリー・コスキー(1957,豪)
出演
アイゼンシュタイン:ゲオルク・ニグル
ロザリンデ:ディアナ・ダムラウ
フランク:マルティン・ヴィンクラー
オルロフスキー公:アンドリュー・ワッツ
アルフレート:ショーン・パニカー
ファルケ:マルクス・ブリュック
ブリント:ケヴィン・コナーズ
アデーレ:カタリナ・コンラディ

合唱:バイエルン国立歌劇場合唱団
管弦楽:バイエルン国立歌劇場管弦楽団
指揮:ウラディーミル・ユロフスキ   

開演前の歌劇場の外の様子やホワイエの様子などをカメラで写していたが、昨年訪問したことを思い出してうれしくなった。

演出のバリー・コスキーはウィキペディアによれば、作品の大胆な再解釈を行いながら多彩な色、動き、手法を用いた鮮やかで審美的な舞台の人気は高く、ヨーロッパを中心に活動する現在世界で最も多忙な演出家の一人である、また、自身を「ゲイでユダヤのカンガルー」と形容してるそうだ。

今回の演出はウィキにあるとおり、カラフルで、いろんな創意工夫がなされており、ワクワクするような演出で、観ていて楽しかった。これだけの演出を思いつくというのはやはりたぐいまれな才能だろう、人気があるのもわかる。ただ、第3幕の刑務所の場面で刑務所長フランク(マルティン・ヴィンクラー)がパンツ1枚の姿で出てきてしばらく演技する場面は如何なものかと思った、LGBTのコスキーらしさか、また、コスキーの演出はこの演目だからこそその能力が活かされる面があると思う、少し前、彼の演出した「金鶏」というオペラをテレビで観たときはそんなに感動もしなかった。「魔笛」とか「セビリアの理髪師」とかをやらせたら素晴らしい舞台を作ってくれるような気がする。

あと、第2幕のオルロフスキー公邸宅での仮装パーティーの時に大騒ぎするポルカ「雷鳴と電光」だが、多分男性陣だと思うがラインダンスをして盛り上げるが、私はイマイチ盛り上がらなかった、なぜなら一番はしゃぐはずのアイゼンシュタインが先頭にたってダンスをしたり、跳んだりはねたりするのが少ないからだ、最大の盛り上げ場面でのフラストレーションでありこの場面は1986年のオットー・シェンクに軍配をあげたい思った。

出演者については、どの演目でもそうだが、役者を選ぶオペラであると思う、それぞれの役の役柄にピッタリ合う歌手を選ばないとこの演目は台無しになる。その中でももっとも重要な役がロザリンデである。そのロザリンデを演じたのがソプラノの第一人者、ディアナ・ダムラウ(1971、独)であり、これは完璧に役柄にはまっていた配役であった。彼女はフランスのバス・バリトン、ニコラ・テステと結婚、2010年と2012年生まれの2人の息子がいる。ロザリンデは中年で亭主を愛するが若いテノール歌手とのアバンチュールも楽しむ美人でセクシーなマダム、ダムラウはロザリンデにぴったりのイメージだ。その期待に応えて実に味のある演技を見せてくれた。私が好きな1986年の同じ劇場での「こうもり」でロザリンデを演じたパメラ・コパーンと同じイメージで感動した。

特にロザリンデがいいのは第1幕だ、第2幕ではハンガリー婦人に仮装するためマスクをつけているので、この時のロザリンデのイメージはあまり好きになれない、また、第2幕でチャルダッシュを歌うその最後の声を張り上げる場面は声が出ていなかったように思えた、難しい曲なので無理もない。油の乗りきった今の彼女は、ばらの騎士の元帥夫人やフィガロの結婚の伯爵夫人なども最も適役だと思うので是非観てみたいものだ。昨年、テレビのクラシック倶楽部でダムラウとカウフマンのデュオコンサートを放送した時も彼女の歌を聴いたが素晴らしかった(その時のブログはこちら)

他の歌手もみんな頑張って歌って、精一杯演技していたと思うが、もう少しあげるとすれば、ファルケ博士役のマルクス・ブリュックだろう、1986年のファルケ役のヴォルフガング・ブレンデルとはイメージが違うが、ブリュックはこれで結構役柄に合っており、かつ、声量も豊かで素晴らしいと思った。

あと一人あげるとすれば、フロシュ(刑務所職員)だ、通常の語りの他にタップダンス&ボディパーカッションをしていたのが印象に残る、これはコスキーのアイディアであろう、こんな第3幕は初めてだ。

さて、最後に指揮者のウラディーミル・ユロフスキ(1972、露)である、この歌劇場の音楽総監督であり、2021年からバイエルン州立管弦楽団の指揮も担当している、彼の指揮による演奏は1986年カルロス・クライバーの演奏に勝るとも劣らない素晴らしいものだった、そしてカーテンコール時に舞台上の歌手たちがオーケストラに向って「さあどうぞ」とばかりに手を差し伸べる仕草をすると、ユロフスキとオーケストラは待ってましたとばかりにこれに応えてチャルダッシュの演奏し、観客席も手拍子をしてカーテンコールを大いに盛り上げた、こんな粋な計らいも初めてだ、彼のアイディアかどうかわからないが、いい指揮者だと思った。

いずれにしても素晴らしいオペレッタでした、満足しました

 


歌劇「ルサルカ」をテレビ録画で観る

2024年04月12日 | オペラ・バレエ

テレビで放送していた歌劇「ルサルカ」(全3幕)を録画して観た。初めて観る演目だ。演奏時間は約3時間

作曲ドボルザーク(1904年5月、62才没、チェコ)
演出・美術・衣装・振付・照明:ステファノ・ポーダ(51,伊)

<出演>

ルサルカ:アニタ・ハルティク(1983、ルーマニア)
王子:ピョートル・ブシェフスキ(1992、ポーランド)
ヴォドニク(水の精、ルサルカの父):アレクセイ・イサエフ(1995、アゼルバイジャン)
イェジババ(魔法使い):クレア・バーネット・ジョーンズ(1990、英)
外国の王女:ペアトリス・ユリア・モンゾン(1963、仏)

合唱:トゥールーズ・キャピトル国立合唱団
管弦楽:トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団
指揮:フランク・ベアマン 

収録:2022年10月14・16日 トゥールーズ・キャピトル劇場(フランス) 

ドボルザークがオペラを作曲していたなんて知らなかった、この作品は1900年、ドボルザークの死の4年前の完成であり晩年の作である。ドボルザークは、アメリカ時代に交響曲「新世界」を残して著名な作曲家となったが、オペラでの成功を望んでいた。しかし、思うように国際的な評価を得られなかったが晩年のルサルカの成功はドボルザークを大変喜ばせた。

初めて鑑賞する演目だが、あらすじは簡単で予習にそんなに時間はかからなかった

第1幕(森の中にある湖)

ルサルカは森の湖に住む水の精。ある日人間の王子に恋をし、魔法使いイェジババに人間の姿に変えてもらうが人間の間はしゃべれないこと、恋人が裏切った時にはその男とともに水底に沈むのが条件。人間の娘になったルサルカを見た王子は彼女と結婚する

第2幕(王子の城)

口をきかないルサルカを不満に思った王子は、外国の王女に心を移してしまう。祝宴の中、居場所をなくしたルサルカが庭へ出ると、水の精によって池の中に連れ込まれ、王子は恐怖のあまり、王女に助けを求めるが、王女は逃げる

第3幕(森の中にある湖)

森の湖へ移されたルサルカに魔法使いは、元に戻すには裏切男の血が必要だと語りナイフを渡すがルサルカは拒否、王子が湖にやってきて自分の罪を聞かされて絶望し、ルサルカを呼び抱擁と口づけを求める。ルサルカは拒むが、王子は「この口づけこそ喜び、私は死ぬ」と答えるとルサルカは王子を抱いて口づけし王子は水底へと沈んでゆく

このオペラの最大の特徴は、演出・美術・衣装・振付・照明を担う万能の才人、ステファノ・ポーダによる舞台だろう、ただ、その意図するところがわからない演出が少なくなかった

  • この演出のキーポイントは「水」だ、場面が森の奥の湖であることを舞台で最大限強調するため、実際の水がふんだんに使われている、まるで大浴場を舞台にしたような設営だ、ここまでやるのは初めて観た、歌手たちはみんなずぶ濡れになって演技し歌った、そして湖の中央は深さもあり、時にルサルカや父の水の精は潜って演技する、歌手はさぞかし大変だったろう
  • 第1幕では舞台の上から人間の左右の大きな手首のオブジェァが降りてくる、第3幕では開幕時から左右の手首のオブジェァが湖から飛び出ている、そして上からも手首のオブジェが降りてきて最後はまた上に釣り上げられて消えていく、これも何を意味しているのかわからなかった
  • 第2幕で王子の使用人たち(森番/狩人、料理人)が舞台いっぱいに積み上げられた使用済みペットボトルのようなものをゴミ収集袋に詰め込み、舞台の外に持ち出す作業を延々としていたが、これが何を意味するのか、わからなかった、第3幕でも使用人たちが水の中にある何かを拾っている場面があるが、これも意味不明だった
  • 舞台や衣装の色彩という点からすると第2幕の後半、王子の城でのルサルカとの結婚披露の祝宴の舞台、や衣装が非常にカラフルで目を楽しませてくれた

いろいろ驚きのある演出であるが、内容的には突出した前衛的な置き換えなどはなく、目を楽しませる演出にとどまっていたのはよかったと思う

さて、出演者だが、タイトルロールのアニタ・ハルティクはずぶ濡れになって頑張って演技していたと思う、ルサルカが第1幕で歌うアリア「月に寄せる歌」はどこか哀愁を帯びた音楽で親しまれていると言われているが、自分は初めての鑑賞だったので、まだその良さに気付かなかった。今後、このアリアだけでも繰り返し聞いて親しんでいきたい。

さらに、このルサルカ役は、オペラであるにもかかわらず、途中で言葉を発することができなくなるため、歌唱力だけでなく、歌わない場面での演技力も問われる難しい役だが、その場面は特に違和感がなかった。

また、王子役のピョートル・ブシェフスキも特に第3幕の演技は熱演であり、いい歌手だと思った。

初めて観る演目にしては楽しめたオペラでした


映画「英国ロイヤルバレエ ドン・キホーテ」を観る

2024年02月04日 | オペラ・バレエ

近くのシネコンで「英国ロイヤル・オペラ・ハウス バレエ、ドン・キホーテ(全3幕)」を観た。上演日は2023年11月7日。値段は3,700円、上映時間は3時間19分。今日もプレミアム・シートの部屋だったので飛行機のビジネスクラスのようなシートでゆったりとしてよかった。人数があまり入らない部屋だが、女性中心に30名はきていただろうか、意外に人気があるのに驚いた。私はこの演目が大好きだ。初めてバレエ公演を観たのはドン・キホーテだった。

【振付】カルロス・アコスタ、マリウス・プティパ
【音楽】レオン・ミンクス
【指揮】ワレリー・オブシャニコフ、ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団 

【出演】

ドン・キホーテ:ギャリー・エイヴィス
サンチョ・パンサ:リアム・ボズウェル
ロレンツォ(キトリの父):トーマス・ホワイトヘッド
キトリ:マヤラ・マグリ
バジル:マシュー・ボール
ガマーシュ(金持ちの貴族):ジェームズ・ヘイ
エスパーダ(闘牛士):カルヴィン・リチャードソン
メルセデス(街の踊り子):レティシア・ディアス
キトリの友人:ソフィー・アルナット、前田紗江
二人の闘牛士:デヴィッド・ドネリー、ジョセフ・シセンズ
ロマのカップル:ハンナ・グレンネル、レオ・ディクソン
森の女王:アネット・ブヴォリ
アムール(キューピッド):イザベラ・ガスパリーニ

この演目は英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24の開幕を飾るもので、この日は国王チャールズⅢ世とカミラ王妃がご臨席したのには驚いた。2回の一般席の一番前にお座りになった。それとハッキリ覚えてないが、英国の各地の学生やウクライナ支援の演奏を行う楽団メンバーなどが観ていることが紹介された。

休憩が2回あり、それぞれに関係者にインタビューがされるのはMETライブ・ビューイングと同じだ。今回は2013年に振付けを担当した元プリンシパルで世界的なスターのカルロス・アコスタにいろいろ質問していた。彼は、この演目はクラシックな演目だが、従来とは違う新しい振付けを加えた、例えば演奏の途中でバレエダンサーが声を上げるとか、ステージの場面転換を大胆に行ったとか、床をタイルにしたかったが試したら滑りやすくてダメだったとか、いろいろ参考になることを話してくれた(詳しいことは正確に覚えていないが)。

また、舞台上の物(大物、小物)を扱う方のインタビューもあり面白かった。大物はドン・キホーテが乗る馬があり、小物はコーヒーカップなどが多く使われていたが、これらを苦労してそれなりに見せる努力がされていることが理解できて参考になった。あとは主役のキトリとバジルの2人の練習風景も幕間に映された。

ヒロインのキトリ役は、2011年のローザンヌ国際バレエコンクールで優勝し、2021年にプリンシパルに昇格したブラジル出身のマヤラ・マグリ。シネマシーズンでは初主演だそうだ。彼女の踊りは素晴らしかった。特に一幕目の終わりだったか、バジルのリフティングで高い位置で手足を伸ばしてポーズとるところがバッチリ決まって素晴らしかった。

キトリの恋人のバジル役は、大人気の英国出身マシュー・ボール。男性ダンサーの魅力が詰まったこの役で、華麗な超絶技巧の数々を見せた。マヤラ・マグリとは私生活でパートナーだそうだ。確かに2人の演技は息がピッタリ合って最初から最後まで素晴らしいパフォーマンスであったと思う。特に三幕目の最後の方で、2人で交互にクルクル回転して踊るところ(バレエ用語で何というのか知らないが)などは「凄いな」と感心した。

また、1幕から3幕まで大活躍するキトリの二人の友人のうちの一人を、日本人の前田紗江がアサインされていたのは嬉しかった。結構出演する場面が多いのでよかった。私は彼女を知らなかったが、ROHのホームページの団員紹介を見ると次のように紹介されている。

「日本人ダンサー、前田紗江さんは英国ロイヤル・バレエ団のソリスト。彼女は2017/18シーズンの初めから英国ロイヤル・バレエ団のオード・ジェブセン・ヤング・ダンサー・プログラムに参加し、2018年にアーティスト、2022年にファースト・アーティスト、2023年にソリストに昇進した。前田さんは横浜で生まれ、7歳からダンスを始めた。彼女はマユミ・キノウチ・バレエ・スクールとローザンヌ国際コンクールの奨学金を受けてロイヤル・バレエ・スクールで訓練を受けました。」

ROHの日本人ダンサーには最高位のプリンシパルに高田茜、平野亮一、金子扶生がいるのは知っていたが、この3名以外にも何人か所属しているのを知り頼もしくなった。頑張ってほしい。

最後に、今回の演奏だが、作曲はミンクスとなっているが、今日の演奏を聴いてみると私がいつも聞いているドン・キホーテとはかなり違ったアレンジがされていたので面食らった。ウィキで確認するとこの演目の振付けのベースはプティバや彼の弟子のゴルスキーのものだが、その後にアレンジを加えていろんなバージョンがあるようだ。曲についても追加したり、一部変更しているものもあるようなので、今回もそうなのだろう。私としては普段聞いているものが良いと思っているのでいきなり違うバージョンを聞かされても「何だ、これは」としか感じないが、慣れの問題でもあろう。そう大幅に変えているわけではない、ただ、フラストレーションはたまった。

さて、昨日は節分、最近は恵方巻きを食べるのが1つのブームになっているようだ。私が子どもの時はそんな習慣はなかった。多分にコンビニやスーパーの販売戦略に乗せられているようで癪に障るのだが、昨夜はスーパーで買ってきた恵方巻きを食べた。

 


ウィーン国立歌劇場のストリーミングで「こうもり」を観る

2024年01月04日 | オペラ・バレエ

ウィーン国立歌劇場のライブ・ストリーミングで昨年末の大晦日に上演された喜歌劇「こうもり」が観られるので、観てみた。昨年も観たが(その時のブログはこちらを参照)、今年も観られるのはうれしい。

ウィーンでは年末は「こうもり」を観て、シャンパンに酔って大騒ぎして行く年を忘れ、新年は楽友協会で「ウィーンフィルのニューイヤーコンサート」を観る、というのがクラシック音楽ファンの王道だ。その両方が日本でも同時に楽しめるのは何と贅沢なことか。私も今日は先ず「こうもり」をストリーミングで観た。ニューイヤーコンサートは録画してあるので後から観ようと思ったが、今年は元日の北陸地方の地震で中継がなくなったそうだ。

今回観たストリーミングはウィーン国立歌劇場のホームページのメインページの上の方右側にストリーミングと出ているところをクリックすると観られる。無料である。ライブだが、ライブ終了後もしばらく観られるようだ。私は今回、2日の夜と3日の昼に2回に分けて観た。昨年までは日本語字幕もあったが今年は日本語がなくなっている。しかし、あらすじはよくわかっているので字幕はなくても大丈夫だ。

音楽:ヨハン・シュトラウス
指揮:シモーネ・ヤング(62,豪)
演出:オットー・シェンク

出演:

エイゼンシュタイン:ヨハネス・マルティン・クレンツレ(62、独、バリトン)
ロザリンデ:カミラ・ニールンド(55、フィンランド、ソプラノ)
フランク:ヴォルフガング・バンクル
プリンツ・オルロフスキー:パトリシア・ノルツ
アルフレッド:尼子広志(34、日本人の父と英国人の母の間に生まれ英国で育った日系英国人テノール)
ファルケ博士:マルティン・ヘスラー
ブラインド博士:ノルベルト・エルンスト
アデル:レギュラ・ミューレマン(37、スイス、ソプラノ)
アイダ:イレアナ・トンカ
フロッシュ:ヨハネス・ジルバーシュナイダー

オペレッタは通常、金持ちが行く国立歌劇場ではなく、庶民が行くフォルクスオーパ(Volksoper、市民オペラ座)の方で上演するのであろうが、「こうもり」は特別扱いらしく国立歌劇場で上演する。フォルクスオーパは数年前ウィーン旅行に行ったときに訪問し、バレエを観たが、確かに国立歌劇場に比べて庶民的な雰囲気があったように感じた。


(フォルクスオーパで観劇したときの写真2枚)

先日見た2023年ザルツブルク音楽祭の「マクベス」は斬新な演出で驚いた。しかし、この「こうもり」は同じ欧州のオペラの中心地ウィーンでの公演だが、演出は1980年代からあるオーソドックスなオットー・シェンクのものだ。私が好きな1986年バイエルン国立歌劇場でのカルロス・クライバー指揮の「こうもり」と同じ演出で今も上演しているのは面白い。年末年始の行事は奇抜なものより慣れ親しんだ会場、演出のお決まりの演目で楽しむということか。

出演者はそれぞれ適役だと思った。アイゼンシュタイン、ファルケ、オルロフスキー、アデーレ、フランク、それに尼子広志のアルフレッドが特に良かった。また、第2幕のポルカ「雷鳴と電光」の大騒ぎは愉快で、歌手たちも楽しそうに演じているようにみえた。

シモーネ・ヤング指揮のウィーンフィルの演奏は上品な気品に満ちた演奏だった。ただ、個人的な好みで言えば、クライバー指揮のバイエルン国立管弦楽団に比べ上品すぎてアクセントに欠けるところがあったように感じた。

ウィーン国立歌劇場はウィーン旅行に行ったとき、わずか3日か4日間の滞在中に好きな演目がなかったのでガイドツアーに参加した。夏は冷房がないようなことを言っていた記憶がある。内部はやはり豪華で、小澤征爾の写真が飾ってあったのが印象的だった。


(ウィーン国立歌劇場のガイドツアー参加時の写真2枚)

愉快なオペレッタを楽しめました。

さて、今日は3日、昼食はまたお雑煮を食べた。

 


2023ザルツブルク音楽祭「マクベス」を観る

2024年01月01日 | オペラ・バレエ

2023年ザルツブルク音楽祭の歌劇「マクベス」(ヴェルディ作曲)がテレビで放送されていたので録画して観た。収録は2023年7月25・26・29日、ザルツブルク祝祭大劇場だ。今年の夏の音楽祭の模様がテレビで観られるとは何という贅沢だろうか。

しかも今回は、自分が昨年ザルツブルクに旅行に行ってきたばかりなので感慨もひとしおである。

<出演>

マクベス:ウラジスラフ・スリムスキー(47、ベラルーシ)
バンクォー:タレク・ナズミ
マクベス夫人:アスミク・グリゴリアン(42、リトアニア)
マクダフ:ジョナサン・テテルマン
マルカム:エヴァン・リロイ・ジョンソン

合唱:ウィーン国立歌劇場合唱団
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:フィリップ・ジョルダン(49、スイス、 ヴェルザー=メストの代役)
演出:クシシュトフ・ヴァルリコフスキ(61、ポーランド)

1843年、シェークスピアを敬愛するヴエルディは彼の戯曲の初めてオペラ化するにあたり、四大悲劇の「マクベス」を選んだ(今回は1865年パリ版がベース)。

「マクベス」は主君殺しがテーマになった物語であり、それを唆すのが悪妻のマクベス夫人である。主君殺しは洋の東西を問わず人気の演目なのだろう、明智光秀然り、ブルータス然り、どの話も最後は主君を殺した人物が悲愴な最後を遂げるというのもお決まりのパターンであろう。

番組の説明では、今回の演出は映画をはじめとする文化的象徴を大胆に取り入れ作品解釈の更新を迫るポーランドの鬼才クシシュトフ・ヴァルリコフスキ、彼は、マクベス夫妻に子供が育たなかったという原作の設定を元に、医師に不妊を知らされた夫婦の絶望をすべての発端とした、また、彼はパゾリーニ監督の映画やのちに恐怖政治をもたらしたフランス革命の母胎「球場の誓い」の室内テニスコートを導入し政治システムと独裁者の関係を問い直す、とある。

このヴァルリコフスキの演出は、何も予習なしに見たら全く理解できないであろう。私も少しは予習してみたが、理解できたとは言えない、例えば、

  • 劇の冒頭や第4幕の冒頭にパゾリーニ監督の映画「アポロンの地獄」や「奇跡の丘」の引用があるが、その意味しているところが良くわからない
  • フランス革命の母胎「球場の誓い」の室内テニスコートを導入し政治システムと独裁者の関係を問い直す、とあるがこれも理解できなかった

観客もどれだけ理解して見ているのかわからないが、現地ではそれはあんまり関係ないのかもしれないといっては失礼か。音楽祭とはお祭りだ、話題になればそれだけで良いのではないか、とも思える。2019年のバイロイト音楽祭のトビアス・クラッツアー演出「タンホイザー」も相当奇抜なものと思ったが、この傾向は最近のはやりなのか。あまりの奇抜さには観客からブーイングも出るようだが、今回のカーテンコールではブーイングはなかったように思える。ただ、ヴァルリコフスキが舞台に出てきたときは、何かちょっと拍手喝采というような感じではなかったようにみえた。

この演出家はウィキによれば、「2021年、彼は“ヨーロッパの演劇言語の根本的な刷新の提唱者”であり、“映画からの参照とビデオの独自の使用法に頼って、新しい形式の演劇を発明した”として、ヴェネツィアのテアトロ・ビエンナーレで金獅子生涯功労賞を受賞した。」とある。元々は演劇監督で、最近オペラも演出も手がけるようになったようだ。ウィキで説明されていることは今回のマクベスでも遺憾なく発揮されていると言えよう。

さて、出演者であるが、何と言っても目立っていたのはマクベス夫人のアスミク・グリゴリアンであろう。美人だし、歌唱力もあり、演技もそれなりにうまい。彼女は最近のザルツブルク音楽祭の常連歌手になっているようで、もう第一人者という感じなのだろう。

ただ、私は今回の彼女は、あまり適役ではなかったと思う。なぜなら、マクベス夫人というのは腹黒く、亭主に国王殺しを唆す悪女であるからだ。悪女が美人でスタイルも良い歌手では相当な違和感がある。マクベス夫人が自分の行いの重大さに押しつぶされ発狂してしまう後半の場面など、随分かわいらしいマクベス夫人となっていて、かわいそうになった。やはり、ちょっと太めでキツイ性格の女、というのが合っているのではないか。例えば、アンナ・ネトレプコなどが適任だと思う。グリゴリアンは美人が様になる役が良い、例えば、ラ・ボエームのミミとかサロメとか。まあ、どんな役でもこなさないと仕事は来なくなるのだろうからえり好みはできないのでしょうが。

ヴェルディの音楽は、可もなく不可もなく、といった印象を持った。あまり好きな演目でもないので普段家で聞くこともないのだが、いつものヴェルディ節が随所にあり、ファンの方には楽しめるオペラでしょう。ただ、私にとっては相変わらず喧しいだけの音楽に聞えた。


バレエ「くるみ割り人形」を観る

2023年12月23日 | オペラ・バレエ

テレビで放送されていたニュー・アドベンチャーズ公演、マシュー・ボーンのバレエ「くるみ割り人形」を観た。やはりクリスマスシーズンなので一度は観なければと思った。

振付・演出:マシュー・ボーン
音楽:チャイコフスキー

<出演>
クララ:コーデリア・ブレイスウェイト
くるみ割り人形:ハリソン・ドウゼル
シュガー/プリンセス・シュガー:アシュリー・ショー
フリッツ/プリンス・ボンボン:ドミニク・ノース
ドロス婦人/クイーン・キャンディー:デイジー・メイ・ケンプ
ドロス博士/キング・シャーベット:ダニー・ルーベンス
  

管弦楽:ニュー・アドベンチャーズ管弦楽団
指揮:ブレット・モリス

収録:2022年1月21日 サドラーズ・ウェルズ劇場(ロンドン)

このくるみ割り人形は通常のものとは違ってマシュー・ボーンが描くオリジナル・ストーリーとなっている。そのあらすじをテレビを見た範囲で書くと(正確ではない)、

  • クララは孤児院で暮らす少女、クリスマス・イブの夜に孤児院の寄付者からかクリスマスプレゼントの人形をもらう
  • しかし孤児院を運営しているドロス夫妻は寄付者が去るとプレゼントを取り上げ捨ててしまう
  • 夜12時になると人形が人間大の動く人形になって戻ってきてクララたちと踊り、ドロス夫妻が出てくるとみんなで夫妻を懲らしめる、そして人間になった人形とクララは冒険の旅に出る
  • 旅の行き先はポップでカラフルな夢の世界で、最初は凍った池の場面、次にスウィートランドに行く、そこで孤児院にいたドロス夫妻やシュガー、フリッツといった人たちが別の人物になって表れ、クララたちと踊る
  • クララは人間になった人形に惹かれるが、その人間になった人形はプリンセス・シュガーと結婚してしまいショックを受ける
  • 最後にクララは孤児院に元の姿になって戻ってくる、そこでベッドに寝ていたのは人間になった人形であった、2人はそこで結ばれ旅立っていく

このバレエを観た印象を述べてみよう

  • ストーリーが通常のものと違うが特に違和感はなかった、それなりに面白いと思った
  • サドラーズ・ウェルズ劇場というのはちょっと調べてみるとダンス、特にコンテンポラリーダンスなどを上演する劇場であり、このバレエの振付けを見てもバレエというよりダンスという感じがしたので上演劇場もROHなどではなく、このような劇場になったのだと思った
  • 演出のマシュー・ボーンはウィキによればダンスやミュージカルの演出家であり、バレエの古典作品にも新解釈を加えているとなっている、このくるみ割り人形もまさに新解釈を加え、バレエとダンスの境界線を行く作品に仕上げていると言えよう、また、ニュー・アドベンチャーズというのはマシュー・ボーズが作った会社でダンス公演を主な事業としていたが現在は解散しているとのこと
  • 演出、証明、衣装など全てカラフルで良い、楽しめる
  • 出演者では、前半の孤児院の場面でのドロス夫妻が目立った活躍をしていたと思った、コスチュームなど尖った特徴を出しており非常に良かった

上演時間も2時間程度で長くなく、クリスマスに楽しむには良い演目でしょう。

 

 


新国立劇場で「こうもり」を観る

2023年12月10日 | オペラ・バレエ

新国立劇場でオペレッタ、ヨハン・シュトラウスⅡ世作曲の「こうもり」を観た。14時開演、17時15分終演。今日は、4階D席、6,600円。最近は夜の公演がキツくなってきたのでなるべく昼の公演を観に行っている。今日はS席のみ当日販売があったそうだが、最後は満席になったようだ。観ていると幅広い年令層が来ているように見えた。

【指 揮】パトリック・ハーン(墺、28)
【演 出】ハインツ・ツェドニク(墺、83)
【美術・衣裳】オラフ・ツォンベック
【振 付】マリア・ルイーズ・ヤスカ
【照 明】立田雄士
【舞台監督】髙橋尚史

指揮者のハーンは調べてみると何と28才、本当なのかと驚く。ピアニストでもあり、作曲家でもある。この若さで既にコンセルトヘボウ管弦楽団、ミュンヘンフィル、ロンドンフィルなど名だたる楽団の指揮をしている。指揮者コンクールで優勝したなどの受賞歴があるわけでもないのに、どうして有名楽団との共演ができたのか、日本ではとても考えられない。オペラも既に指揮している。カーテンコールの時にステージに上がってきたが、確かに若そうだ、すごいことだ。

逆に演出のツェドニクは83才、新国立劇場の解説では、ウィーン宮廷の名テノール歌手でウィーン気質を熟知したエレガントで洒脱な仕掛けがふんだんに用意された正統的な演出とのこと。2006年にこの「こうもり」の演出で演出家として世界デビューを果たし、09年、11年、15年、18年、20年に再演、今回が6度目の再演となるそうだ。もしかしたら、私も新国立で過去に1回、ツェドニクのこうもりを観ているかもしれない。

演出以外ではアール・デコ調の華やかな美術・衣裳も大きな見どころで、金色に輝く幾何学模様や官能的なラインの衣裳など、クリムトを彷彿させるデザインとなっていると劇場は解説している。

【アイゼンシュタイン】ジョナサン・マクガヴァン(英、※)
【ロザリンデ】エレオノーレ・マルグエッレ(独、45、※)
【フランク】畠山茂(ヘンリー・ワディントンの代役)
【オルロフスキー公爵】タマラ・グーラ(米、※)
【アルフレード】伊藤達人
【ファルケ博士】トーマス・タツル(墺、※)
【アデーレ】シェシュティン・アヴェモ(スウェーデン、50、※)
【ブリント弁護士】青地英幸
【フロッシュ】ホルスト・ラムネク(墺、※)
【イーダ】伊藤 晴

(※)新国立初登場

【合唱指揮】三澤洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団
【バレエ】東京シティ・バレエ団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

ロザリンデ役のエレオノーレ・マルグエッレについては新国立劇場のホームページにインタビュー記事が出ていたので読んで見ると、

「自分はハイデルベルク生まれで、高校卒業後にマンハイムの劇場で実習を受け、すっかり劇場に魅せられた。演劇かオペラか、2つの道がありましたが、演劇だとその言語の国に限られるけれど、音楽なら世界に出ていけると考え、オペラを選んだのです。歌手になった最初はコロラトゥーラ・ソプラノの声で歌いましたが、30歳で息子を産んでからはドラマティックなコロラトゥーラ・ソプラノになり、その後リリック・ドラマティック・ソプラノの役の方向に進みました。新国立劇場で歌うロザリンデ役にはすべてが含まれています。中音域の良い声も必要で、チャルダッシュもあるし、低音から高音まであり、大好きな役です」と述べている。

さて、今日の公演を観た感想を述べてみたい

  • 歌手陣はいずれも声量豊かで4階席の私にもよく聞える声で歌っていた、ロザリンデ役のマルグエッレは美人で高音もよく出て、チャルダッシュもうまく歌って素晴らしかった。アイゼンシュタイン役のマクガヴァンも音声豊かでアイゼンシュタインの性格をうまく演じておかしいくらいだった、今日の演技賞をあげたい。アデーレ役のアヴェモも大変よかった、役柄にピッタリの演技だったと思うし歌もうまかった、もう準主役級でしょう。刑務所長役のピンチヒッター畠山は刑務所長のイメージピッタリのコスチュームで笑えた。
  • パトリック・ハーン指揮の東京フィルの演奏もよかった、ハーンの指示だと思うが、今日の演奏ではところどころトランペットが旋律をリードするような吹き方をしていたのが興味深かった。また、場面が盛り上がる「雷鳴と電光」などの演奏の時も思いっきり大きな音を出すのではなく、抑制の効いた上品な演奏はさすがだと思った、ウィーン風の上品さというものを意識しているのだろうと思った
  • ツェドニクの演出は私が好きなオットー・シェンクの演出に似ていて好感が持てた。特に第2幕の「雷鳴と電光」の時の演出などはお祭り騒ぎの中にも華やかさがあり、ウィーンの社交場のダンスホールのようなイメージの舞台設定になっていたのが大変印象的で素晴らしいと思った。
  • この演目で私が好きな第2幕のワルツとかポルカで陽気に騒ぐところだが、今日はまず最初にシュトラウスの「ハンガリー万歳」が演奏され、そのあと「乾杯の歌」に続いて有名なポルカの「雷鳴と電光」が演奏された。私は「こうもり」でこの「ハンガリー万歳」というのは初めて聞いたが良い曲だった。
  • 私は自分の中で1986年のカルロス・クライバー指揮、オットー・シェンク演出版が一番好きで、これと比較して今日の演奏はどうかと判断することにしているが、今日の公演はほぼこの基準に達していたと思った。それだけ素晴らしかった。

本当に楽しいオペレッタだった。帰りにホワイエで、終演後のレストランの予約は満席となりました、と張り出してあったのを見た。楽しいオペラのあとで国立劇場のレストランで夕食とはきっと最高の年末の夜になるでしょう。また、今日は休み時間に12月下旬の演劇公演「東京ローズ」のチケット買って帰った。


喜歌劇 『こうもり』(新制作)を観に行く

2023年11月28日 | オペラ・バレエ

東京芸術劇場で開催された「喜歌劇こうもり(新制作)」を観に行った。今日は3階席の一番前、7,000円。14時開演、17時半頃終演。チケットは完売だそうだ。幅広い年令層が来ていた、女性が多かったように見えた。

この題名だが、登場人物のファルケ博士が友人のアイゼンシュタインから仮面舞踏会に誘われ、こうもりの衣装を着けたまま帰宅したことから「こうもり博士」というあだ名をつけられ、それの仕返しをするために仕組んだパーティーの余興が題材となっているため「こうもり」という題名がつけられた。

このオペレッタは大好きだ。やっぱり、オペラは悲劇より喜劇の方が好きだし、オペレッタの愉快な音楽が好きなので「こうもり」は何回も見ている。音楽が実に素晴らしい。

指揮:阪 哲朗
台本・演出:野村萬斎(オペラ初演出)

アイゼンシュタイン:福井 敬
ロザリンデ:森谷真理
フランク:山下浩司
オルロフスキー公爵:藤木大地
アルフレード:与儀 巧
ファルケ:大西宇宙
アデーレ:幸田浩子
ブリント博士:晴 雅彦
フロッシュ:桂 米團治
イーダ:佐藤寛子

合唱:二期会合唱団
管弦楽:ザ・オペラ・バンド

このオペレッタ公演は、今年度の全国共同制作オペラ。これは文化庁の助成を得て、全国の劇場や芸術団体などが共同で新演出オペラを制作するプロジェクトで、平成21年にスタートした。これまで野田秀樹の「フィガロの結婚」、森山開次の「ドン・ジョバンニ」などが上演された。

オペラ演出初挑戦の萬斎は、世阿弥の「珍しきが花」という言葉を引用し、それなりに珍しいものにしようと思っている、日本ならではの発想、能・狂言のならではの発想を活かしたい、と語っている。そして、今までなじみのない方にもとにかく親しんで頂くことが目的で、日本に舞台を置き換えて身近に感じてもらえるよう仕掛けをしたと語っている。具体的には、

  • 第1幕が質屋の店の裏のちゃぶ台をめぐる茶番劇、第2幕は鹿鳴館を舞台にした夜会、第3幕は牢屋での大団円とした。
  • アイゼンシュタインを質屋の親父、オルロフスキーは公家、牢屋はコミックの「はいからさんが通る」のイメージにした、衣装もアイゼンシュタインとロザリンデ、オルロフスキーは着物を着て出てくる
  • 舞台は変則の能舞台とし、橋がかりを三本付け、畳を敷いたり、模様替えをしながら見せる
  • フロッシュ役の桂米團治が活動写真の弁士のような進行役をする、第3幕ではそれをファルケ役の大西宇宙がやる
  • 歌と歌の間のセリフを日本語でやる

こうもりの初演は1874年、その前年はウィーンの株価が大暴落し、大恐慌になった。庶民の暮らしが苦しくなる中で、ままならないことは忘れて、忘れることは幸せだと能天気に歌い、すべてはシャンパンのせいとお酒を称える合唱で大団円を迎える。

そもそもオペレッタは庶民目線で上流階級に対する風刺を生命とする芝居だ。オッフェンバックの「天国と地獄」はフランスにおける風刺オペレッタの代表。「こうもり」も揶揄のスピリットが満ちている。ウィーンの金持ちたちの倦怠感に満ちた生活、シャンパンを飲んで懲りずに浮気などを繰り返すいい加減さをワルツやポルカで嗤うものだ。

今の日本人はこうまで陽気になれないだろう。だいたい悲観論が好きだし、ものごとのプラス面よりマイナス面を強調するし、能天気なバカ騒ぎは「不真面目だ」と文句を言う。冗談が通じないのだ、社会全体に寛容の精神がなくなってきているのは怖いことだ。

観劇した感想を記載したい

  • 出演メンバーの豪華さに驚かされた。日本のオペラ界の実力者が多く出演している、こんな舞台滅多に観れるものではないでしょう。
  • 指揮者の阪哲朗の指揮、オーケストラのコントロールが素晴らしいと思った。音楽が楽しく盛り上がるところでも大音響を目一杯出したりせず、歌声やセリフがちゃんと聞えるようにうまく抑制しつつ大きめの音を出していたように聞えた。3階席の一番前の私の席から阪氏の指揮する姿がよく見え、余計にそんなことが感じられた。
  • 歌手陣について、本日のMVPはロザリンデをやった森谷真理に与えたい。和服姿でよろめくアイゼンシュタイン婦人ロザリンデを実にうまく、かつ、日本語のセリフも工夫して演じていた。この人は女優でもやっていけるのではないかと思った。
  • 次にアデーレ役の幸田浩子を称えたい。各幕で彼女のメインの出番がちゃんと用意されているが、実にうまく歌って演じていた。彼女の舞台を見るのは初めてだけど実力があると思った。ただ、アデーレは彼女のような美人が演じるのはどうかなとも思った。もっとひと癖ある個性派女性歌手が演じるものではないだろうか。
  • アイゼンシュタイン役の福井敬もよかった、アイゼンシュタインになった姿からは素顔が全くイメージできず面白かったし、懲りない亭主のアタフタぶりをよく演じていたし、歌唱力も十分であった。
  • 萬斎の演出は全体的には楽しめたが、桂米團治に活動写真の弁士のような進行役をやらせるのは、ちょっとやりすぎのようにも感じた。
  • 第2幕の最後の方でバレエとかポルカ(雷鳴と電光)などが演じられることもあるが、今日はいずれも演じられず省略されたのではないか。私はこの部分(雷鳴と電光のバカ騒ぎ)が2幕では一番好きなだけに残念だった(私が持っているCD、DVDでは「雷鳴と電光」が演じられているものがある)
  • 運営面では演奏終了後の写真撮影禁止が残念であった。また、3階席の一番前は手すりが視界の邪魔をして見にくかった。この劇場に限らず、だいたい2階席以上の一番前の席は手すりが視界の邪魔になるが、演奏開始後は引っ込むとか何か設計上の工夫ができないものなのか(ちなみに歌舞伎座は一番前の座席でも手すりはないから結構怖い)。

十分堪能しました。素晴らしかった。

私の中では、何と言っても1986年バイエルン国立歌劇場ライブ、カルロス・クライバー指揮のDVD「こうもり」が何から何まで最高の「こうもり」だ。歌手、舞台、演出、オーケストラ、指揮者などすべてが良い。この時のオットー・シェンクの演出は今でもウィーン国立歌劇場で上演されている、その公演をウィーン歌劇場の無料ストリーミングサービスで観た感想を当ブログの記念すべき初投稿で記載した、興味のある方はこちら参照。今日の公演はそれに匹敵するものだった。


(つい先日行ったばかりのバイエルン国立歌劇場での公演だ)

年末はベートーベンの第九もあるが、「こうもり」の方が好きだ。また、バッハの「クリスマス・オラトリオ」が好みだ。「こうもり」は12月にも新国立劇場で上演があるのがうれしい。チケットを買ってあるので楽しみだ。ただ、「クリスマス・オラトリオ」がほとんど演奏されないのは残念だ。「くるみ割り人形」も良いけど、「クリスマス・オラトリオ」をやってくれないか。多分、出演者が第九などより少ないのでビジネス的にあまり収入が稼げない、という面もあるのだろうと想像する。

ウィーンでは大晦日は国立歌劇場で「こうもり」、新年は楽友協会で「ニューイヤーコンサート」というのがお決まりだという。ウィーン国立歌劇場のホームページで確認してみたら、今年の大晦日もオットー・シェンク演出の「こうもり」が上演されることになっていた。楽しいオペレッタを観て行く年を忘れようということでしょう。

 


2020ザルツブルク音楽祭「コジ・ファン・トゥッテ」を観る

2023年11月10日 | オペラ・バレエ

少し前にテレビで放映されていた2020年開催のザルツブルク音楽際でのモーツアルトのオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」を録画しておいたので観た。つい最近、ザルツブルクに旅行に行ってきたばかりなので、早速、ザルツブルク音楽際の模様を観たくなったのだ。

2020年はコロナが急に広まった年で、確か、バイロイト音楽祭は開催中止したが、ザルツブルク音楽祭は規模を縮小して開催した年であった。この決断はすごかった。

この「コジ・ファン・トゥッテ」は、上演時間を休憩無しの2時間20分と区切られて演奏された。休み無しのぶっ通しの演技は歌手やオーケストラもつらいし、観ている方もたいへんだが、中止になるよりは良いと皆我慢したのだろう。また、このオペラは登場人物が少ないのも演目として選ばれた理由かもしれない。

[演出]
 クリストフ・ロイ(独、60)
[出演]
 フィオルディリージ:エルザ・ドライジグ(仏、32、ソプラノ)
 ドラベッラ:マリアンヌ・クレバッサ(仏、36、メゾソプラノ)
 グリエルモ:アンドレ・シュエン(伊、39、バリトン)
 フェルランド:ボグダン・ヴォルコフ(キエフ、33、テノール)
 デスピーナ:リア・デサンドル(仏、33)
 ドン・アルフォンソ:ヨハネス・マルティン・クレンツレ(独)
[指揮]
 ヨアナ・マルヴィッツ(独、37)
[オーケストラ
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

2020年8月2日:祝祭大劇場, ザルツブルク

演出家のロイは、直ぐ見破られそうな簡素な変装をあえて施し、「変装とは見た目のリアリズムではなく、観客と登場人物の心理上の手続である」、と説明していることが番組で示された。

なるほど婚約者の貞操を試すためにアルバニア人に変装して互いの相手に別人としてアプローチするわけだが、2人の男性の変装は誰が観ても本人だとバレる変装だ。また、姉妹の召使いデスピーナが2人の男性の変装に気付かないと言うのもおかしい。ただ、デスピーナが医者や公証人に変装した姿はかなり奇抜なものになっており、気がつかないことも有り得るかな、と思わせる。

また、この2つのカップルであるが、歌手の音域による本来の婚約者の組み合わせは、

  • バリトン(グリエルモ)とメゾソプラノ(ドラベッラ)
  • テノール(フェルランド)とソプラノ(フィオルディリージ)

となるが実際は、

  • バリトン(グリエルモ)とソプラノ(フィオルディリージ)
  • テノール(フェルランド)とメゾ・ソプラノ(ドラベッラ)

が婚約者となっている。それが変装したアルバニア貴族のアタックにより本来の組み合わせになり、最後にまた元に戻るストーリーになっている。

これは意味深である。老哲学者の話に乗ってしまって、姉妹が婚約した相手男性と別の、姉は妹の、妹は姉の、変装した婚約者に言い寄られて、なびいてしまう。なぜなら、このオペラは女とはそんなものだ、と言うことにしているが、元々この2つのカップルは相思相愛のカップルではなかったからこそ、本来自分にふさわしい相手が出てきたので、そちらのアタックに陥落したとも言えるからだ。それをこの歌手の音域の組み合わせで暗示していると言うわけだ。

フィオルディリージを演じたエルザ・ドライジグは貞操を象徴するイタリア語で「ユリの花」という名の令嬢だが、そのイメージにピッタリの歌手だったし、姉と比べて男性に積極的なのは妹で、姉より先に陥落した妹のドラベッラを演じたマリアンヌ・クレバッサも、その役柄にピッタリの演技をしていた。2人とも美人で歌唱力もあり、将来が楽しみな歌手だ。

さて、指揮者のヨアナ・マルヴィッツ(女性)だが、ウィキで調べてみると、今回の指揮がザルツブルクデビューであり、ザルツブルク音楽祭でオペラ作品を指揮した史上3人目の女性指揮者である。彼女は、2006年からハイデルベルク劇場管弦楽団の指揮スタッフとして働いていたが、勤務の 3 か月目に新作『蝶々夫人』の初日の夜に、6 時間前の予告でプロの指揮者としてデビューを果たした、とある。

ピンチヒッターでデビューしてその後一気にスターダムを駆け上がるというのはトスカニーニがそうだったし、確か、バースタインもそうだった。さらに彼女はニュルンベルク州立劇場の2018-2019シーズンから有効となる新GMDとして、5年間の契約を結んだとある。先日旅行してきたニュルンベルクに縁があったとは驚きだ。

若干単調さがあるオペラだが、楽しめました。


バイエルン国立歌劇場でバレエ「チャイコフスキー序曲」を観る

2023年11月01日 | オペラ・バレエ

ミュンヘン旅行中にミュンヘン市内にあるバイエルン国立歌劇場(Bayerische Staatsoper)でバレエを観劇した。費用は1人63ユーロ。日本でこの歌劇場のサイトから直接チケットを購入した。

現地滞在中に観られるプログラムを事前にネットで確認したところ、オペラは嫁さんが観ても楽しめるものがなく、バレエを観ることにした。バレエはセリフがないので誰でも楽しめるメリットがある。8時開演と海外のオペラの開演時間は日本より1時間遅い。

今夜の演目は「チャイコフスキー序曲」という聞いたことのない演目だ、3部構成のバレエ。

振付:アレクセイ・ラトマンスキー
音楽:チャイコフスキー

バイエルン国立バレエ団のアンサンブル
バイエルン州立管弦楽団

演奏時間は以下の通り案内されている。

午後8時~午後8時30分:エレジーとハムレット
(30分休憩)
午後9時~午後9時25分:テンペスト
(20分休憩)
午後9時45分~午後10時20分:ロミオとジュリエット

歌劇場のホームページで調べると独語の作品解説はあるが、Googleで翻訳した日本語はイマイチなのだが、それを抜粋して説明すると、

「アレクセイ・ラトマンスキー(振付)は、抽象的なバレエのために、人生のさまざまな段階でコンサートで演奏するために作曲したチャイコフスキーの序曲を選びました。内容に関しては、すべての音楽作品はウィリアム シェイクスピアの戯曲「ハムレット」、「テンペスト」、「ロミオとジュリエット」に基づいています。ラトマンスキーのチャイコフスキー序曲では、序曲の後に序曲が続き、すべての始まりの後には新たな始まりが続くことを意味します。チャイコフスキーがバレエの夜に聴くオーケストラ作品の総称として選んだ「幻想序曲」は、その輝かしい性格により、それ自体をファンタジー、つまり古典音楽の役割についてのファンタジーであるとみなすバレエの理想的なテンプレートとなっています。」となっている。

上に示した時間割を見ると、どうもシェイクスピアの3つの作品についてチャイコフスキーが作曲した幻想序曲があり、それに弦楽セレナーデ第3楽章エレジーを加えて、それらを元に3部構成でバレエの振付けをした作品と思われる。そして、出演者は1幕ごとに全員交替するようなので人数が多くなるため、ここでは記載省略する。

我々の席は平土間(Parkett)の後ろの方の列の舞台に向かって中央やや右寄りのところ、ステージはよく見えるところ。実際に観劇して、気付いた点などを書いてみよう。

  • 座席に入る通路は左右にしかなく、中央を通る通路がなかった。だから真ん中あたりに座っている人は中に入るのに一苦労だ。
  • 左右の通路から中の方の座席に入る人が来ると、既に座っている人は全員立ち上がって通してあげている。これがこちらの礼儀なのだろうが、素晴らしいと思った。自分より内側の人が全員揃うまで座ろうとしない人もいた。
  • 今までの経験だと座席中央にある通路を進んで行くとオーケストラピットの前まで行けて、ピットの内側が見られるが、ここはそれができなかった。真ん中の通路がそもそも無いからだし、左右の座席横の通路からはピットの前に入る余裕がなかった。ピットの前には人が通る余裕がほとんど無かった。
  • 座席の前のスペースは比較的余裕があったので座っているとき楽だった。
  • 2階席以上はすべてバルコニー席になっている。今まで見た海外の歌劇場ではある程度の広さで隣との仕切りがあり、個室のようになっていると思うが、ここは個室はない。2階席以上は馬蹄型になって全部仕切りが無くつながっていた。この方が圧迫感が無く良いような気がする。
  • 開演直前にアナウンスで「携帯は電源を切れ、場内は写真・ビデオの撮影は禁止」とアナウンスしていたのは日本と同じだ。ただ、1回だけだった。
  • 私は右の座席側の通路を使ってオーケストラピットの直前まで行って写真を撮って、そこから振り返って室内全体の写真を撮ったら、係員からダメだと言われた。が、場内では皆、写真を撮っていた。私も座席に戻っていっぱい写真を撮った。このくらいは良いだろう。
  • 演奏終了後のカーテンコール時の写真撮影は認めてないようだ、が、撮っている人が若干いた。私はこれはやらなかった。

また、当日の服装だが、

  • 劇場のホームページのドレスコードを事前に確認したところ、次の通り書いてある。「イブニングドレスやネクタイなしではオペラに行けないのですか?ナンセンス。快適にお過ごしいただきたいと考えています。多くの訪問者にとって、これは特別な夜のためにドレスアップすることを意味します。しかし、正式なドレスコードはありません。ジーンズや居心地の良いジャンプスーツだけでなく、珍しい服装も歓迎します」
  • よって、私は観光する時と同じカジュアルな服装にした。靴もスニーカーにした。嫁さんも同様。これはドレスコードの確認と今までの経験でも、これで大丈夫との心証を得ていたからだ。実際、同じような服装の人は多くいた。一方で、キレイなドレスなどを着ている女性やフォーマルウェアを着ている男性も多くいた。私も最初のうちはわざわざ紺系の背広とネクタイ、革靴を持ってきていたが、荷物が多くなり面倒なので今回はもうやめにした。

休憩時間だが、

  • ホワイエが非常にゴージャスなため、皆さん、そこに出てきて写真を撮っている人が多かった
  • 飲み物の売場と飲む場所が部屋になっていて、2つはあったと思うが、大混雑していた。ホワイエに出てきて飲んでいる人も多くいた。

さて、今回観劇してみて、この劇場は非常に上品で、かつ、豪華で素晴らしい劇場だと思った。やはり来るときは正装して着飾って観劇すべき劇場であろう。これだけの施設を維持するのも大変だろうが、ガイドツアーの時に、運営費の3分の1はチケット収入、残りは公的支援、スポンサーからの支援などで成り立っていると言っていたように聞えた(英語力自信なし)。

東京の新国立劇場も上品な感じがして好きだが、ゴージャスさと言う点からはこの劇場に負けるだろう。ここは何か別世界に来たと感じる素晴らしさがある。

たっぷりと楽しめました。