小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

皇位継承(小説)

2015-06-07 23:47:02 | 小説
「地獄の話」と同じく、「皇位継承」も、ブログに入れてみました。

皇位継承

ここは、ある国である。日本でないことは間違いない。ここを強調しておきたい。
なんせ、皇室について書くと、宮内庁がうるさい。もっとも、この程度の内容なら、宮内庁も、何も言ってこない。のは、明らかである。
ある立憲君主制の国である。天皇がいたが、君臨すれども統治せず、であった。天皇制は、この国が、国家として成立した2000年、前から代々、続いている。さらには、それ以前の、この世が出来る、神話の時から続いているが、その神話の内容の真偽は、疑わしい。
このような長い期間のエンペラーがいる国は、世界でも、この国だけである。
ある宮家があった。その宮家の、父親は、今生天皇(現天皇)である。
今生天皇には、男の子供が二人、いて、彼は、次男である。
なので、皇室典範からすると、彼は、二番目の、次期天皇候補である。
長男である、皇太子殿下より、歳は、五歳、年下である。
1990年、次男である弟は、皇太子殿下より、先に結婚した。
物凄く、美しい人と。
その時の、国民の喜びようといったら、なかった。
もちろん、祝賀パレードでは、二人が、二人の結婚を祝福する、沿道の国民に、手を振って、答えた。
しかし、当然のごとく、国民の目は、美しい新婦にだけ、向けられていた、ことは、言うまでもない。
皇太子は、口惜しがった。
「あーあ。残念。先を越されたな」
と、皇太子は、呟いた。
皇太子の妻となると、将来の、妃殿下となり、鼻が、痒くても、?くことも、出来ない立場になり、公務で、追われる毎日になり、そんな、堅苦しい、人生は、誰も送りたくないから、なかなか、結婚相手が見つからなかった、のは、仕方のないことである。
しかし、ようやく、皇太子にも、結婚相手が見つかった。
そして、弟に、三年、遅れて、1993年に、結婚した。
もちろん、皇太子の新婦も、美しい人だった。
しかし、祝賀パレードでは、弟の結婚の時の、国民の、熱狂よりは、劣っていた。
それは、当然、国民は、新婦にしか、興味がないから、そうなるのは、当然といえば、当然である。

弟の宮家は、その時、すでに、二人の子供を産んでいた。
しかし、残念なことに、二人とも、女の子だった。
皇室典範から、すると、天皇の皇位継承は、男である方が、歴史的にみても、絶対、いいのである。
二人の、女の子は、すくすくと、優しい父と母と、SPに、見守られながら、育った。

国民は、皇太子夫婦に、男の子が、生まれることを、切に望んだ。
皇太子妃殿下も、やっと妊娠して、子供を産んだ。2001年である。
しかし、残念なことに、生まれたのは、女の子だった。
学者や、政治家たちも、皇位継承問題に頭を悩ませた。

弟も、皇位継承問題に頭を悩ませた。
「よし。ここは、ひとつ、オレが、頑張ってみよう」
と、弟は、思った。
それで、毎晩、頑張った。
「あなた。いい歳をして、どうしたの?」
と、妻は、問いかけた。
ともかく、弟は、毎晩、頑張り続けた。
何を頑張ったかを、具体的に書くと、宮内庁が、不敬だと、怒るから、具体的には、書けない。
当然、天照大御神に、
「神よ。どうか。妻に、男の子を宿して下さい」
と祈りながら。
その祈りが、天照大御神に届いたのであろう。
ついに、妻は、男の子を宿した。
そして、10月10日、して、美しい妻は、男の子を産んだ。
下の姉より、12歳、歳が離れていた。
名前は、久、とつけられた。
国民も喜んだが、学者たちも、
「よかったー。これで、皇位継承問題で悩まなくてすむ」
と、ほっと、肩の荷を降ろした。
生まれた男の子は、すくすくと、育った。
美しい母親と、優しい、二人の姉に見守られながら。
上の姉は、しっかり者で、子供の頃から、自分の身分を、何となく、気づいていて、記者が集まってくると、「こんにちはー」と、笑顔で挨拶した。
妹も、美しくて、優しい母親と、上の姉に見守られながら、すくすくと元気に育った。
しかし、美しい母親の遺伝子が、下の娘に、もろに、伝わって、下の妹は、育つにつれて、どんどんと、美しくなっていった。
メディアも、国民も、海外の国々も、下の妹ばかりを、注目して、写真を撮った。
「お姉ちゃん。ごめんね。私ばかり、注目されてしまって」
ある日の夕食の時、妹が、ボソッと呟いた。
「いいわよ。私。そんなこと、全然、気にしてないわ。それより、あなたのような、綺麗な妹をもつことが出来て、私は、嬉しいわ」
と、優しい姉は言った。

一方、歳の離れた、弟も、すくすくと、育っていった。
幼稚園は、皇室の子女には、異例で、お茶の水大学付属幼稚園に入った。
ある時。
チャボの飼育を当番でしている時、友達に、
「いいなー。君は。働かなくていいんだから」
と、羨ましそうな口調で言われた。
「なんで僕が働かなくてもいいの?」
少年は、疑問に満ちた目で聞いた。
「だって、君は、将来、天皇になるんだよ」
友達は、言った。
「天皇って何?」
少年は、聞いた。
「日本の象徴さ。君の、おじいちゃん、みたいな、立ち場の人に、将来、君は、なるんだよ」
友達は、そう説明した。
「ええ。そうなの?でも、おじいちゃんも、色々と、忙しいみたいだよ。外国の貴賓と、会ったり、国事行為とやらを、やったり。日本の、どこかで、震災が起こったら、いつも、かけつけているから・・・」
少年は、言った。
「そうだね。確かに、そうだね。考えてみれば、天皇や、皇族も、楽じゃないね。鼻クソを、ほじくりたくても、ほじくれないんだから。おなら、を、したくても、我慢しなくちゃならないんだから」
友達は言った。
「僕。鼻クソを、ほじくりたくても、ほじくれないの?おなら、を、したくても、我慢しなくちゃならないの?」
少年は聞いた。
「そうさ」
「でも、僕、家では、鼻クソを、ほじくっているし、おならも、しているよ」
「家では、出来るんだよ。人前に出たら、出来ないのさ」
友達は、そう説明した。
「嫌だなー。そんなの」
少年は、言った。
「でも、君が天皇になるのは、ずっと、先のことだよ。まず、君の、伯父さん、つまり、君のお父さんのお兄さん、が次の天皇になるんだ。今から、最低30年は、君は、天皇にならなくて、すむね」
友達は、そう説明した。
「そうなの。それを聞いて、安心したな。お姉ちゃん達も、皇族は、堅苦しくて、嫌だー、って、毎日、言ってるよ」
少年は、言った。
「ねえ。ずっと、先の話だけど、君が天皇になったら、僕を、君の侍従長に、してくれない?」
「僕に、そんなこと、出来るの?」
「出来るさ。ねっ。友達のよしみで。天皇の侍従長なら、楽そうだし・・・」
「わかったよ。じゃあ、将来、僕が天皇になったら、君を侍従長にしてあげるよ」
「約束だよ」
「うん」
そう言い合って、二人は、指切りゲンマンを歌った。

そうこうしているうちに、少年は、お茶の水大学付属幼稚園を卒業した。
そして、その年の春、少年は、お茶の水大学付属小学校に入学した。

少年は、小学校で、女子生徒に引っ張りだこ、だった。
「ねえ。久君。将来、私と結婚して」
と、ほとんど、全校の女子生徒が、少年に、言い寄った。
しかし、少年は、何と、答えていいか、わからなかった。

ある時。少年は、家で、パソコンで、インターネットを見ているうちに、エッチなサイトに辿り着いた。
少年は、股間の一部分が、固く、大きく、なってきた。
それで、股間の一部分を、揉んでみた。
そうすると、だんだん、気持ちよくなってきた。

少年は、それが、クセになってしまった。
学校でも、綺麗な女の先生を見ると、股間の一部分が熱くなってきた。
ある日の夕食の後。
下の姉が、少年の部屋に入ってきた。
上の姉は、イギリスの大学に留学中で、いなかった。
「久君。どうしたの。この頃、変よ。悩み事があったら、聞くわ。話して」
下の姉が、歳の離れた、幼い、弟に聞いた。
弟は、正直に、悩みを話した。
姉は、黙って聞いていたが、
「わかったわ」
と言って、弟の頭を、優しく撫でた。
そして、弟の部屋を出ていった。

翌日の放課後。
トントン。
「久君。入っていい?」
戸の外から、姉の声が聞こえた。
「うん。いいよ」
少年が、戸を開けると、見知らぬ、きれいな女の人が、ニコッと、微笑んで、立っていた。
姉は、その女性を、少年の部屋に入れた。
「久君。紹介するわ。この人は、私の同級生で、私の友人なの」
姉は、そう弟に紹介した。
「こんにちは。久君。私。国際キリスト教大学の一年生で、お姉さんの友達です」
と、ペコリと頭を、下げて、挨拶した。
「は、はじめまして。久です」
と、少年は、顔を真っ赤にして、挨拶した。
「話は、お姉さんから、聞きました。久君が悩んでいると・・・。私でお役に立てることがあれば、と思いまして・・・やって来ました」
女性は、そう挨拶した。
弟は、顔を真っ赤にしている。
「それじゃあ。二人で、仲良くして」
そう言って、姉は、部屋を出ていった。

それ以来、その女性は、頻繁に、久の家に来るようになった。

元号が変わって、少年の伯父の、皇太子が天皇になった。

しかし、ある国に、表敬訪問として、訪れるために、乗った飛行機が墜落してしまった。
飛行機には、新陛下も久の父親も、乗っていた。

こうして、久が天皇になった。
久は、お茶の水大学付属小学校の時に、親しかった同級生の女性と結婚した。
二人の間に、子供が生まれたが、女の子ばかりで、男の子は、生まれなかった。
久も、月日の経過と共に、歳をとっていった。
学者や、政治家たちは、また、皇位継承問題で頭を悩ませるようになった。
しかし、ある女性が、マスコミに名乗り出た。
彼女は、
「私には、子供がいます。男の子です。その父親は、天皇陛下であらせられます」
と、堂々と言った。
マスコミは、吃驚した。
しかし、DNA鑑定から、間違いなく、父親は、天皇であると、証明された。

学者たちは、皇位継承問題が解決されて、ほっと肩の荷を降ろした。
「ふふふ。成功。成功」
テレビを観ていた、久の姉は、子供の時と変わらない子供っぽい笑顔で、ペロリと舌を出した。


「この話はフィクションであり、実在の人物、団体とは関係ありません」


平成27年5月15日(金)擱筆

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

地獄の話(小説)

2015-06-07 21:49:04 | 小説
今は、スマートフォンの時代で、このブログを見ている人のほとんどは、スマートフォンから見ているのだろう。なので、小説をホームページにアップしても、全然、パソコンのホームページの閲覧数が上がらない。確かに、ホームページに出している小説は、スマートフォンでは、読みにくい。なので、「地獄の話」は、短くて、全文、ブログに入るので、そのまま、コピペしました。


地獄の話

カンダタは、地獄に落ちました。無理もありません。カンダタは、生きている時、泥棒、強盗、窃盗、強姦、など、さんざん、悪事を働いたからです。
地獄に、落ちたカンダタは、閻魔大王の前に、二匹の地獄の鬼に、両側から、両腕をつかまれて、連れていかれました。

閻魔大王は、閻魔帳を見ながら、おもむろに、
「カンダタよ。お前は、地獄、行きだ」
と裁判官のように、言いました。カンダタは、存外、素直に、
「わかりました」
と言いました。
しかし、カンダタは、口元に、ニヤッと、不敵な、笑いを浮かべました。
カンダタは、地獄の鬼に、連れられて、血の池に、連れていかれました。
右側でカンダタをつかんでいる鬼が、カンダタに聞きました。
「お前は、これから、永遠に地獄の責めに、あうのだぞ。どうして、そんなに、冷静でいられるのだ?」
と聞きました。カンダタは、自信ありげな表情で、
「それは、私は、地獄から、極楽へ、行く自信があるからです」
と言いました。
鬼は、ニヤッと、笑って、
「さあて。そう、上手くいくかな?」
とカンダタに、言いました。
血の池に、着くと、地獄の鬼は、
「さあ。入れ」
と、カンダタに命じました。
カンダタは、鬼に、言われて、素直に、血の池に、入りました。
地獄の血の池は、かなり熱く、カンダタは、
「あちちちちっ」
と、叫び声を上げました。
カンダタは、地獄のはるか上の方を見上げました。
そして、地獄の、はるか上空に向かって、
「おーい。お釈迦様。オレは、生きている時に、蜘蛛を、踏み殺さずに、助けたことがあるぞ。蜘蛛の糸を、垂らしてくれー」
と、大声で、叫びました。
しかし、地獄の上方からは、何の返事も、ありません。
カンダタは、同じ訴えを、何度も、叫びました。
「無駄だ。お前はバカだ」
と、カンダタの、隣りにいた、地獄の亡者が言いました。
「どうしてだ?」
とカンダタが、聞くと、地獄の亡者は、
「お前も、オレと同じ口なのだ」
と、一言、言ったきり、黙ってしまいました。
カンダタは、わけが、わからなくなって、夢中で、何度も、上空に向かって、
「おーい。お釈迦様。オレは、生きている時に、蜘蛛を、踏み殺さずに、助けたことがあるぞー。蜘蛛の糸を、垂らしてくれー」
と、大声で、叫び続けました。
あまり、カンダタが、しつこく、叫ぶので、とうとう、地獄の天上の方から、厳かな声が聞こえてきました。
お釈迦様の声でしょう。
「カンダタよ。お前は、愚か者だ。お前は、芥川龍之介の、蜘蛛の糸、の話を、保険にして、生きている間に、さんざん、悪事を働いても、地獄から、脱出できると、思ったのだろう。あれは、芥川龍之介の、創作だ。私は、たかが、蜘蛛一匹を、助けただけで、お前の犯してきた無数の罪を、帳消しにしてやろう、などとは、毛頭、考えていない。それでも、確かに、本当の慈悲の心から、蜘蛛を助けたのなら、ともかく。それを、逆手にとって、極楽に行こう、などと考える者に、地獄から、極楽へ行けるチャンスを、与える気など、毛頭ない。芥川龍之介の、蜘蛛の糸、の話は、極めて迷惑だ。あんな話を、作ったために、お前と同じように、蜘蛛を一匹、助けておいて、それで、極楽へ、行こうと、思ってしまった者が、あとを絶たない。お前の、回りにいる、亡者どもは、みな、お前と同じ魂胆の者だ。そして、そんな話を、作った、芥川龍之介も、懲らしめのために、地獄に落とした。のだ。しかし、まあ、芥川龍之介は、悪意があって、蜘蛛の糸、の話を書いたわけではないから、一ヶ月後には、極楽に送ってやる予定だ」
と、お釈迦様の声が聞こえてきました。
カンダタは、そうだったのか。しまった、と、嘆き、歯がみしましたが、もう、後の祭りでした。
カンダタが、ふと、視線を変えると、餓鬼道に、芥川龍之介が、紛れもなくいました。
芥川は、素早い動作で、鬼どもの、飯を掠めとっていました。
しかし、芥川は、何か、地獄の責めを楽しんでいる様子です。
無理もありません。
芥川龍之介は、「侏儒の言葉」で、こんなことを書いていましたから。

「・・・人生は地獄よりも地獄的である。地獄の与える苦しみは一定の法則を破ったことはない。たとえば餓鬼道の苦しみは目前の飯を食おうとすれば飯の上に火の燃えるたぐいである。しかし人生の与える苦しみは不幸にもそれほど単純ではない。目前の飯を食おうとすれば、火の燃えることもあると同時に、又存外楽楽と食い得ることもあるのである。のみならず楽楽と食い得た後さえ、腸加太児カタルの起ることもあると同時に、又存外楽楽と消化し得ることもあるのである。こう云う無法則の世界に順応するのは何びとにも容易に出来るものではない。もし地獄に堕おちたとすれば、わたしは必ず咄嗟とっさの間に餓鬼道の飯も掠かすめ得るであろう。況いわんや針の山や血の池などは二三年其処に住み慣れさえすれば格別跋渉の苦しみを感じないようになってしまう筈はずである」

おそらく、芥川は、生前の自分の予想が当たったことを、喜んでいるのでしょう。
カンダタは、さらに、別の方を見ました。
すると、何と、文豪の谷崎潤一郎が、鬼に責められていました。
鬼は、金棒で、グリグリと谷崎の体を責めていました。
カンダタは、どうして、谷崎潤一郎が、地獄に落ちたのか、わかりませんでした。
彼は、現世で、悪い事など、していないはずです。
しかし、もしかすると、世間では、知られていない、何か、悪い事をしたのかもしれないと、カンダタは思いました。
それで、カンダタは、閻魔大王に向かって、聞きました。
「閻魔大王。谷崎潤一郎は、どうして、地獄に落ちたのですか?彼は、現世で、何か悪い事をしたのですか?」
閻魔大王は、眉を寄せて、渋面をつくりながら、言いました。
「カンダタよ。谷崎潤一郎は、悪い事はしていない。極楽行きのはずだった。しかし。わしの前に、引き出された時、彼は、地獄で亡者を責めている鬼には、女は、いるか、と聞いてきたのだ。嘘は、言えんから、わしは、鬼には、女の鬼もいる、と正直に答えた。そうしたら、一目、その女の鬼を見せてくれ、と言ってきたのだ。わしは、彼が何を考えているのか、さっぱり、わからなかった。しかし、ともかく、女の鬼に会わせてやった。すると、彼は、極楽には、行きたくない。あの女の鬼に責められたい、と言ってきたのだ。それで、本人の所望とあれば、仕方がなく、彼を地獄に落としたのだ」
と閻魔大王は、厳かに言いました。
カンダタは、谷崎潤一郎を責めている女の鬼を見ました。
よく見ると、それは、確かに、女、の容貌をしていました。
その女の鬼は、「うる星ヤツラ」のラムに、そっくりの、綺麗で、グラマラスなプロポーションで、虎の皮の、ビキニを着ていました。
谷崎潤一郎は、女の鬼に、責められながら、「痛い。痛い。痛いけれど、幸せだ」と、叫んでいました。
閻魔大王は、渋面で、苦虫を噛み潰すような表情で、
「わしも、迂闊だった。わしは、人間の罪状だけは、閻魔帳で、全部、知っているが、それ以外のことまで、全部、知っているわけではない。彼が、マゾヒストで、女に、責められるのを好む、性癖を持っているとは、知らなんだ。地獄は、悪人を責める所で、ああいう、例外は、迷惑なのだ。地獄が地獄でなくなってしまうからな」
と厳かな口調で言いました。

さらに、カンダタは、別の方向を見ました。
すると、何と、極真カラテの、大山倍達がいました。
カンダタは、閻魔大王に向かって聞きました。
「閻魔大王。彼は、どうして、地獄に落ちたのですか。現世で、何か、悪い事をしたのですか?」
カンダタは、疑問に思って聞きました。
閻魔大王は、また、渋面を作って、渋々、言いました。
「彼にも、地獄に落ちる罪はない。極楽行きのはずだった。しかし、彼は、わしの前に、引き出された時、地獄の鬼は、強いか、と、聞いてきたのだ。わしは、もちろん、強い、と答えた。すると、彼は、そいつと、戦わせろ、と言ってきたのだ。地獄の鬼を、なめている、彼の不遜な、言い方、態度に、わしは、怒り、鬼の中でも、最強の鬼と、彼を戦わせてみたのだ。すると、彼は、最強の鬼に、勝ってしまった。こんなことでは、地獄の威厳が失墜してしまう。それで、わしは、地獄の鬼、100人と、彼を、戦わせた。すると、何と、彼は、鬼との100人組手に勝ってしまったのだ。それを、見ていた、地獄の亡者たちは、地獄の鬼とは、案外、弱いものなのだな、と鬼をなめるように、なってしまった。それで、それ以来、亡者たちは、一揆、だの、打ちこわし、だのと言って、全員で、鬼どもに反乱を起こすようになってしまったのだ。数から言えば、地獄の亡者たち、の方が、地獄の鬼ども、より、圧倒的に多い。亡者たちは、それ以来、まとまって、何度も、反乱を起こすようになってしまったのだ。そこで、仕方なく、地獄の鬼どもを、鍛えるために、大山倍達に頼んで、空手の指導をしてもらうことにしたのだ」
閻魔大王は、そう言って、大山倍達の方を、指差しました。
すると、その方向には、地獄の鬼ども、が、「エイシャ。エイシャ」と掛け声を掛けながら、正拳突きの訓練をしていました。
また、汗を流しながら、腕立て伏せ、を、している、鬼どもも、いました。
大山倍達は、鬼どもに、向かって、「気合いを入れろー」と、怒鳴って、鬼どもに、空手の指導をしていました。
閻魔大王は、
「まあ。幸い。彼の指導のおかげで、鬼どもも、強くなり、亡者たちの、一揆も、鎮圧できるようになった」
と厳かな口調で言いました。

カンダタは、方向を変えて、別の方を見てみました。
すると、何と、一人の、女が、地獄の亡者たちを、介抱していました。
カンダタは、吃驚して、閻魔大王の方を向いて、聞きました。
「閻魔大王。あれは、一体、何なんですか?」
閻魔大王は、眉を寄せて、口を開きました。
「ああ。あれか。あの女は、ナイチンゲールだ。彼女は、極楽に居たのだが、ある時、釈迦の目を盗んで、地獄に、飛び降りて来たのだ。わしは、ここは、お前の来るところではない。極楽に戻れ、と厳しく、言ったのだが、彼女は、「私の使命は、苦しむ者を介抱することです。たとえ、それが、善人であろうと、悪人であろうと、関係ありません。なので、極楽には、戻りません、と言って聞かんのだ。これには、わしも、ほとほと困ってしまった。これでは、地獄が地獄でなくなってしまうからな」
と閻魔大王は言いました。

カンダタは、方向を変えて、別の方を見てみました。
すると、地獄の鬼たちが、野球をしていました。
しかし、一人、投手だけは、鬼では、ありませんでした。
カンダタは、吃驚して、閻魔大王の方を向いて、聞きました。
「閻魔大王。あれは、一体、何なんですか?」
閻魔大王は、眉を寄せて、口を開きました。
「ああ。あれか。見てわかるだろう。野球だ。あの、投手は、沢村栄二だ。彼は、太平洋戦争で、戦死した。彼も極楽行きのはずだった。しかし、彼は、よほど、野球に未練があったのだろう。わしが、極楽行き、を告げると、彼は、極楽で、野球が出来るか、と聞いてきたのだ。わしが、極楽は、ただ、寝るだけの世界だ。と、言うと、彼は、それなら、極楽には、行かん、と言ったのだ。彼は、鬼どもは、いとも、容易そうに金棒を振っているが、オレの投げた球を、ヤツラじゃ打てん。と不遜なことを言ったのだ。それで、わしは、迂闊にも、お前の球を、鬼どもの内、一人でも、打てたら、特例として、地獄に、置いておいて、やる、と言ってしまったのだ。そうして、彼に、投げさせ、鬼どもに、打たせてみたら、彼の剛速球に、一人も掠ることが出来なかったのだ。仕方がないので、鬼がお前の球を打てるようになるまで、地獄に、置いておいてやる、と言ってしまったのだ。鬼どもも、必死に、野球を練習するように、なったのだが、未だに、彼を、打てるようには、ならんのだ。なので、彼はいまだに、地獄にいるのだ。まあ、野球も腕力を鍛えることになるから、空手と、同じように、地獄としては、不本意だが、認めているのだ」
カンダタが、野球をしている鬼どもの方を見ると、沢村栄二は、
「沖のカモメと、さすらい野球の投手はよー。どこで死ぬやら、果てるやらー。オレが死んだら、三途の河原でよー。鬼を集めて、野球する、ダンチョネー♪」
と歌いながら、剛速球を投げていました。

平成27年6月6日(土)擱筆

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする