私はいつも話すが、学生時代は日本一のど田舎の山口大学に普通より長くいたが、その頃はテレビのない生活をしていた。その上ポラロイドやオートマチックの写真さえとったことがなかったぐらいで、映像や映画、テレビの方面には全く関係がなかった人生だった。ところが別府で一気にその関係ない世界が間近に迫ってきた。旅館の旦那さんは安さんといってみなから親しまれていた。私も一応社長にあたるのだけれど日頃は「安さん」と気軽に呼んでいた。安さんは勿論私がオート写真さえ撮ったことがないことは重々知っていた。私も旅館の手伝いをするぐらいの気持ちで裸一貫で訪ねていった。そしていきなり仕事に連れ回られたとき本当に驚いた。
当時、安さんは九州ではよく知られるフィルムCMや教育映画、PR映画を一匹狼(オオカミ)的にやっていた。私はそこが(一匹狼という生き方)気に入って、何も知らなかったが飛び込んでいった。あくまで旅館だったが、自分が出きそうな仕事は。しかし、行ってみるとCMの仕事や映画の撮影現場に連れて行かれることが多かった。安さんは仕事に入る前はニコニコしている。ところがいったん撮影に入ると、・・・「あれ持って来い!」「それつないで」「そいつを笑って(どけてという意味の業界語)」などと外国語のような短い言葉を発しては怒鳴っている。行ってる意味がわからないでモタモタしてると「あほかっ!」「早うせんかい」と次々と罵声を浴びる。こちらもムカッとくるが、そんなふりを一瞬でも見せると物凄い形相で睨み返されるのでおっかなくて、逃げ出したくなる。挙句の果てはそこまで言われるか・・・、というぐらいにボロクソにいわれ、「ああ、やっぱり来るところを間違えたなあ」と後悔するのだった。現場はこちらかすると暴風雨のようなもので過ぎ去るのをひたすら祈るような気持ちだった。
ところが、撮影が終わり、機材や車を片付け一段落して宿に入ると、さっきまでの鬼のような形相がすっかり仏さんのような顔に変わっている。飲み屋に着くと目尻がぐにゅーっと下がり、「悪かったなあー、お前は写真も撮ったことがなかったんよなあー、気にせずにまあぐいっと一杯やらんね」などと猫なで声でお酌をしてくれる。よっぽどこちらの顔がこわばっているのだろう、妙にやさしい。そしてその夜はだんだん平和ムードで世が更ける。というか、夜が明ける、というところだ。そして次の日、・・・もう今日は大丈夫と思い、こちらもニコニコして安心しきって現場に行くと「あほーっ!」「こらあ、いつまで待たせるんや!!」「死んでまえ」と昨日と全く変わらない。・・・どころか、もっとひどくなっている。泣きたくなる気持ちで、また走り回って、・・・。夜は一杯、翌朝・・・。この循環の日々が延々と続くのである。
だんだんわかった。これは遊びだ!こうして遊びながら仕事を楽しみ、酒を楽しみ、知らず知らずのうちに強固な人間関係を作ってしまう。「仕事は盗め」という格言があるが、ずっとやっているとこのあたりの感覚が不思議と身についてくる。(つづく)
@写真は福岡県の小石原焼き職人
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