クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

物語ーかがり火

2014-10-03 21:23:13 | 物語

御屋敷の御開帳は予定通り始まったようだ。

市長の他には、市会議員、闇屋の親方、近隣の網元、商店主そして在の地主などの客人約30名の来訪となったが、近くの寺の住職が来たのには耕一は少々驚いた。

客人の足がひと段落したところで、番頭が中から出てきて耕一に声をかけた。

「おい房州、調子はどうだ」

「へい、なんとか・・・・」

「まあ、慣れるまでは何でも大変だ。俺も最初はこの下足番だった。苦労したが振り返れば良い経験だ。辛抱しなよ」

「へい!」

番頭はそう耕一に言葉をかけると、屋敷門の方へ歩いて行った。

 

 

屋敷門周辺は、かなり厳しい警備体制がしかれていた。門の左右にかがり火が赤々と燃やされ、その周りには半被(はっぴ)を着た10人近い若い衆が、辺りの様子をうかがいながら立っている。

番頭が、かがり火の側へ行って火の様子を見ていると、若衆の一人が寄ってきて云った。

「番頭さん、今夜は横須賀の組の連中は来るんですかね?」

「さあ、どうかな。この前、代貸が横須賀へ行って、小泉組の親分に仁義を切ってきたから、まあ大丈夫だとは思うがな」

番頭がそう云った。

一ヶ月前の御開帳の時に、突然、横須賀をシマとする小泉組のチンピラ数人がやってきて、中に入れろと小競り合いになったのだ。

 

因みに、横須賀の小泉組と云えば、小泉元首相の祖父が初代組長としてその名を馳せた、その組である。

血の気の多い小泉組の若い衆が、新興勢力の渋川組に対して嫌がらせをしかけたのだ。

小泉組幹部は、最近の渋川組の活発な動きに警戒感を持ち始めているらしい。

しかし、新参者の渋川組の動きを面白く思っていないのは、この小泉組だけではない。

その当時、横浜、神奈川をシマとする組はいくつもあった。それが群雄割拠を始めつつあった頃である。

いつ何時(なんどき)、他の組からの賭場荒らしがあるか分からない。

そんな騒ぎを起こすこと自体、賭場を開くその組の信用を失墜させることになる。

 

屋敷門の外で、かがり火を焚いて警戒している若い衆は、緊張して辺りを監視していた。

そんな状況なので、下足番の耕一も油断ができない。

客人の来訪者が途絶えても、中の鉄火場の動きをうかがいつつ、外の物音にも注意する必要があった。

 

 

 

その頃、駅からの坂道をゆっくりと上ってくる一台の車があった。

暗い夜道を、二本のヘッドライトの明かりが、ゆっくりと上がって来る。

かがり火周りの男達は、顔を見合わせた。

 

 

 続く・・・・・・・。

 

 

 


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2 コメント

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これは・・・ (夏雪草)
2014-10-04 01:27:37
こんばんは。
お話しも気になるのですが、
このお写真は、夕焼け雲でしょうか?
凄いですねぇ。
まるで火事のようです。

いつも、一つ一つの描写がとても丁寧ですね。
それぞれの場面が、
頭の中のスクリーンに描かれて行くのが楽しいです。

だからこそまた、
緊張感も伝わってくるのだと思いますが・・・。

で?
今回の車はいったい・・・
もめごとの前兆でしょうか。
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これは・・・ (里山のクロ)
2014-10-04 09:25:47
夏雪草さん

おはようございます。
この写真は、昨日の夕焼け雲なんです。
クロと散歩中に、空を見上げたら、あの空がありました。
思わずシャッターを切りました。
そしてしばし見とれていました。
自然界の美しさに感謝しながら・・・・・。

今日も一日お元気で!
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