「おい、あいつはどこだ!」
暗い廊下で仁王立ちしていた木刀おやじは、そう叫びながら、耕一の姿が見えない寝室の中を突っ切って窓際まで行った。
閉まっていた窓を開けて暗闇の外を懐中電灯で照らしてみたが、耕一の気配は全くない。
あいつはまだ家の中にいるはずだ。
寝室を見渡していたおやじは、押入れに目を留めた。
隠れる場所と云えば、あの押入れしかない。
木刀を右手で構えながら、おやじは静かに押入れに近づき、そして一呼吸おくとサッとその戸を開けた。
しかし、見えたのは布団だけだ。
おやじは、きつねにたぶらかされたような気分になった。
「夏子、あいつをどこへ隠した。さっきまでここにいたはずだ。話し声も聞こえていたぞ」
「あいつって誰のことですか? 誰もここには来ていません」
「じゃぁ、どうしてここに灰皿があるんだ? あいつがタバコを吸うためだろう」
「私、最近タバコを吸うようになったの。店番をしていると暇を持て余すのよね・・・。それでつい・・・・・」
「・・・・・・・」
屋根裏にもぐり込んだ耕一は、下で繰り広げられる二人のそんなやり取りを、天井板の隙間から眺めていた。
それにしても、船の大工仕事がこんなところで役に立つとは思わなかった。
航海中の船体の修繕作業は、機関長の責任である。
従って、簡単な大工仕事などはお手の物だ。
押入れの天井板の取り外しや、屋根裏の修繕などは朝飯前なのだ。
寝室天井の一部を補強し、天井板に寝そべって下の部屋の様子を見れるようにした。
これで、木刀おやじの動きがほぼ分かる。
《おやじさん、早く帰らないかな・・・・》
天井裏で自分の気配を消しながら、耕一は下の様子を窺っていた。
木刀おやじは、夏子の側にあぐらをかいて座った。
「夏子、あの機関長はどういう奴なんだ?」
「どういう奴って・・・、とても優しい人よ」
「おまえに乱暴などしないのか?」
「そんなことする男(ひと)じゃないわ」
「おかねの無心などしないのか?」
「なにバカな事言ってんのよ。あの人はおかねには不自由していないわ。ここに来る時はいつも恵にお土産を持って来てくれるのよ」
「・・・・・・」
「そんなに心配なら、房丸の船頭さんにあの人のことを聞いてみたらどうなの。悪い人じゃないってことが分かるわよ」
「・・・・・」
腕組みをしていたおやじは、木刀と懐中電灯を持って立ち上がり、何も云わず部屋を出ていた。
続く・・・・・・・。
そうですよね。娘可愛さのあまりであって、きっとわかってくれる日が来ると思いますよ。オットトト、そうは問屋が卸さない、というのがこの成り行きでしょうか。
いち早く最終回にはしたくない。
ねえ、もっとハラハラらドキドキさせてよー。
耕一君の人生はこれからですからね・・・・・。
まだまだ序の口ですよ。
これから、かなり危険な目に遭うんですよね・・・・。
話しが先に進んでしまっているのに、
遅ればせながらのコメントでごめんなさい。
こういう状況って、
絶対二人を強く結びつけてしまいますよね。
周りで反対されればされるほど・・・
そして、二人で秘密を共有しているスリル。
あ~らら。