クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー屋根裏

2014-11-26 16:10:21 | 物語

「おい、あいつはどこだ!」

暗い廊下で仁王立ちしていた木刀おやじは、そう叫びながら、耕一の姿が見えない寝室の中を突っ切って窓際まで行った。

閉まっていた窓を開けて暗闇の外を懐中電灯で照らしてみたが、耕一の気配は全くない。

あいつはまだ家の中にいるはずだ。

寝室を見渡していたおやじは、押入れに目を留めた。

隠れる場所と云えば、あの押入れしかない。

木刀を右手で構えながら、おやじは静かに押入れに近づき、そして一呼吸おくとサッとその戸を開けた。

 

 

しかし、見えたのは布団だけだ。

おやじは、きつねにたぶらかされたような気分になった。

「夏子、あいつをどこへ隠した。さっきまでここにいたはずだ。話し声も聞こえていたぞ」

「あいつって誰のことですか? 誰もここには来ていません」

「じゃぁ、どうしてここに灰皿があるんだ? あいつがタバコを吸うためだろう」

「私、最近タバコを吸うようになったの。店番をしていると暇を持て余すのよね・・・。それでつい・・・・・」

「・・・・・・・」

 

屋根裏にもぐり込んだ耕一は、下で繰り広げられる二人のそんなやり取りを、天井板の隙間から眺めていた。

それにしても、船の大工仕事がこんなところで役に立つとは思わなかった。

航海中の船体の修繕作業は、機関長の責任である。

従って、簡単な大工仕事などはお手の物だ。

押入れの天井板の取り外しや、屋根裏の修繕などは朝飯前なのだ。

寝室天井の一部を補強し、天井板に寝そべって下の部屋の様子を見れるようにした。

これで、木刀おやじの動きがほぼ分かる。

 

《おやじさん、早く帰らないかな・・・・》

天井裏で自分の気配を消しながら、耕一は下の様子を窺っていた。

木刀おやじは、夏子の側にあぐらをかいて座った。

「夏子、あの機関長はどういう奴なんだ?」

「どういう奴って・・・、とても優しい人よ」

「おまえに乱暴などしないのか?」

「そんなことする男(ひと)じゃないわ」

「おかねの無心などしないのか?」

「なにバカな事言ってんのよ。あの人はおかねには不自由していないわ。ここに来る時はいつも恵にお土産を持って来てくれるのよ」

「・・・・・・」

「そんなに心配なら、房丸の船頭さんにあの人のことを聞いてみたらどうなの。悪い人じゃないってことが分かるわよ」

「・・・・・」

 

 

腕組みをしていたおやじは、木刀と懐中電灯を持って立ち上がり、何も云わず部屋を出ていた。

 

 

 続く・・・・・・・。


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3 コメント

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お父さんも人間ですね (chidori)
2014-11-28 08:49:39
里山のクロ様
そうですよね。娘可愛さのあまりであって、きっとわかってくれる日が来ると思いますよ。オットトト、そうは問屋が卸さない、というのがこの成り行きでしょうか。
いち早く最終回にはしたくない。
ねえ、もっとハラハラらドキドキさせてよー。
返信する
まだまだこれから (里山のクロ)
2014-11-29 09:01:28
天女様、おはようございます。

耕一君の人生はこれからですからね・・・・・。
まだまだ序の口ですよ。

これから、かなり危険な目に遭うんですよね・・・・。
返信する
反対されると・・・ (夏雪草)
2014-11-30 01:43:14
こんばんは。
話しが先に進んでしまっているのに、
遅ればせながらのコメントでごめんなさい。

こういう状況って、
絶対二人を強く結びつけてしまいますよね。
周りで反対されればされるほど・・・
そして、二人で秘密を共有しているスリル。

あ~らら。
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