クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー脱出決行

2014-09-20 08:42:07 | 物語

愛友丸は、本牧(ほんもく)埠頭沖に投錨した。

すでに真夜中である。

板長が作ってくれた夜食を食べると、船の仲間はそれぞれ寝床に入った。

それから2時間後、静まりかえる船内を、耕一は音もなく甲板に上がった。

外は闇夜で何も見えない。

数百メートル先に、埠頭の明かりが小さく見えた。

聞こえるのは船に寄せる波の音だけだ。

耕一は、着ている衣類を脱いでパンツ一丁になった。

脱いだ衣類と靴、そしてお金が入ったビニール袋を風呂敷で慎重に包むと、それを頭の上に乗せて両端をあごでしっかり結んだ。

その格好のままで、甲板から垂らした縄梯子を伝って海に降りた。

 

春の海の水はまだ冷たかった。

耕一は、深呼吸をすると、静かに水の中へ身体を入れた。

そして、ゆっくりとした平泳ぎで泳ぎ始めた。

埠頭の小さな明かりを目指して・・・・・。

 

 

 

幸い、ほとんど波はない。

船中の誰かに感づかれさえしなければ大丈夫だ。

耕一は、祈るような思いで、ひと掻きひと掻き泳いだ。

 

30分ほど泳いで、ようやく埠頭まで半分くらいのところまで来た。

愛友丸を振り返ってみたが、特段の変化はないようだ。

耕一は海の中で一休みして、そして頭の荷物を縛り直し、再び泳ぎ始めた。

 

一時間後、耕一は本牧埠頭の岸壁をよじ登っていた。

愛友丸から追いかけてくる者はいない。

《やったぞ! 脱出成功だ!》

そこで一休みしたいところだが、休んでいるわけにいかない。誰かに見られたら不審者と間違われる。

用意したタオルで急いで身体を拭いて衣類を着た。

そして上着とズボンのポケットに札束を押し込んだ。

《地獄の沙汰もカネ次第だ。この札束が俺を護ってくれる》

 

 

札束で膨らんだポケットを確認すると、耕一は周りの様子を注意深く窺いながら、足早に歩き始めた。

 

 

 続く・・・・・・・

 

 

 

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2 コメント

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テレビドラマみたい (夏雪草)
2014-09-20 14:48:31
こんにちは。

耕一さんが
頭に荷物を縛って・・・
その姿、想像したら時代劇に出てきそうな姿で、
ちょっと笑ってしまいました。

30分以上泳いでというのは、
かなりの距離ですね。

長距離でも泳げる人、羨ましい・・・(笑)
返信する
事実は小説より・・・ (里山のクロ)
2014-09-20 16:28:37
夏雪草さん

そうですよね。頭に風呂敷包みを縛って・・・。
でも泳ぐにはそれしかなかったようですよ。
平泳ぎは、ゆっくり泳げば結構長い距離を泳げるんですよね。
なにしろ耕一の必死の脱出劇ですから・・・。

今日も有難うございました。
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