コロラドから来た男－２

中庭の奥の崖に山桃の大きな木が枝を広げて立っている。
葉が重なりあって茂るその木の下に置いたバーベキュー台を囲んで、ご主人様は客人達と談笑している。
合気道の先生はアブダビの思い出話の後、ネパールの話をした。

先生は数年前から時々ネパールへ出かけている。ネパール陸軍特殊部隊の隊員達に合気道を教えているのだ。

ネパール軍兵士はグルカ兵と呼ばれ、その勇敢な戦闘ぶりは昔から有名である。噂によれば、イギリス陸軍にはグルカ旅団があり、約３，６００人のグルカ兵がいるらしい。先のフォークランド紛争では、このグルカ旅団が先遣隊として派遣され大活躍したそうだ。その他、アメリカ、インド、マレーシアの国軍にグルカ旅団があるという。ネパールの兵士がいかに高い評価を得ているかが分かる。

また退役グルカ兵は、グルカ・セキュリティ・グループという大規模な民間軍事会社の契約社員となり、世界中の警備会社に派遣されている。
確かに、アブダビやドバイでは警備会社から派遣されてくる警備員のほとんどが精悍なネパールの男達であった。

さて、そのネパール軍の精鋭集団である特殊部隊の隊員達が、この先生の指導の下で、合気道を訓練中なのである。そして合気道に関心を持った軍上層部は、今後、７千人の特殊部隊隊員全員に合気道の訓練を行わせることを決めたそうだ。そのため、訓練基地に１００人が同時にトレーニングできる合気道道場を建設中だという。

遠い世界の話のように聞いていたご主人様に、先生はほど良く焼けたシシ肉をつまみながら、こともなげに言った。
「来年２月頃にその新道場のオープンセレモニーがあるのだが、おぬしも一緒に行ってみないか。たぶんアメリカ陸軍特殊部隊隊長も同行するだろう。まあ何も心配することはない、彼はわしの弟子だ」

「・・・・・・・・」