ご主人様には、鉄カブトの声は聞こえない。
その気配さえ分からない。
しかしそこには不思議なエネルギーが宿っていいるのだ。
ご主人様は、表の窓を開けて太陽の光と新鮮な空気を中に入れると、中にある粗大ゴミを「ヨイショ、ヨイショ」と外へ運び出し始めた。そして中庭中央の焼却スペースにそれを積んでいった。
それを眺めていた鉄カブトはつぶやいた。
「あの男は一人でこの長屋をきれいにしようとしているのか・・・・。見上げた根性だがそれはムリだ。誰か助けを探してやろう」
数日後、強力な助っ人がやって来た。東京に住むご主人様のお兄様だ。
お兄様は、趣味で日曜大工をやっている。その彼が、電動ノコギリやら電動なんとかやらの大工道具を車に積んで甥っ子と共にやってきた。
お兄様は長屋門を眺めながら言った。
「この建物に使われている木材はとても良い木だ。あの太い梁を見てみろ。おそらくヒノキかなにかだろう。この建物は手入れさえしっかりすれば数百年は持つものだ」
久しぶりに訪ねて来てくれたお兄様に、ご主人様はイソイソとお茶の用意などするが、お茶を飲むのもそこそこに、甥っ子(自分の息子)と共に、粗大ゴミ搬出作業を開始した。
その後、そのお兄様は毎週末、この里山に来て長屋改修作業を懸命に行うことになる。
その様子を、鉄カブトは満足げに眺めていた。
作業開始から10ヵ月後、その長屋は見事によみがえった。
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