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JR阪和線の奇妙な英語放送…OfficeとStation

2024-05-19 15:51:34 | 時事問題
JR阪和線内の奇妙な英語

“Next Office, Ootori!”

永井津記夫(ツイッター:https://twitter.com/eternalitywell)


  私は今、週に1,2回JR阪和線に乗って、関西国際空港に向かう分岐点となる日根野駅を経由して大阪方面に出かけています。この路線の和歌山から来る電車は日根野で関西空港から来る電車と連結して八両編成の快速電車となり、天王寺、大阪方面に向かいます。
 電車の中では、日本語の車内放送のほかに、英語、韓国語、中国語の放送が入ってきます。時に日本語放送も含めてすべて耳障りで、やめてくれと思うこともありますが、まあ、聞き流すことにしています。
 中国語、韓国語放送についてはよくわかりませんが、英語については(英語の教師をしていたので)間違いや、間違いに近い表現などに気づくことがあります。
  到着する駅の名前を知らせる案内が入ります。
   Next Office, Ootori. (次のOfficeは鳳おおとり)(* 注1)
 この言い方は2、3年前から始まりました。それまでは、“Next Station, Ootori.”と放送していました。どうしてstationからofficeに変えたのか、おかしな英語だと思い、JRに連絡しようとしましたが、JRは要望や質問をメールなどを受け付けるようにはしていないようです(おそらく、とんでもないクレームが来るのがいやなのでしょう)。
 “office”という単語の意味は、どの辞書にも記述されているように「事務所」、「会社」、「職場」です。つまり、「仕事をする場、仕事場」という基本的な意味を持っています。
 日本の駅にも英米の駅にも、通常、単に乗降場所である一段高い場所(platform プラットフォーム)があるだけではなく、雨除け用の屋根や反対側車線に行くための車両の高さを越えて設置されている渡り廊下や階段が付いている場合があります(地下通路になっている場合もよくあります)。そのような設備も含めて“station”と呼んでいます。駅の上部や横が建物となっている場合は駅舎(station building)と呼んでいます。その中にofficeも付いています。“ticket office (切符売り場)”や“stationmaster’s office (駅長室)”などの“office”と呼ぶべきものが付いています。officeは、その中で働く人たちを主役にした(意識した)言葉であり、列車に乗り降りする人たちを意識した(主役にした)言葉ではありません。
  “station”の語源的意味は“stand(立つこと)”であり、立っている場所を示し、“stay(滞在する)”や“stage(舞台)”などと語源的につながります。そうすると、“railroad station(鉄道の駅)”の語源的な意味は「列車の発着時に立って乗降する場所」ということになります。主役は乗降客と列車なので仕事場を基本的に意味する“office”を用いることは不適当ということになると思われます。私たち乗客や列車は「次の仕事場(Next Office)」に到着するのではありません。
  JRが「Next Station」を「Next Office」に置き換えたのは、英米人の顧問等のアドバイスを受けてのことかも知れません。が、教養のある人、英米で一流大学を出て(学歴などなくてもよいのですが、通常の日本人にはその学力が判断できないため)、国語=英語の教師をする資格を持つくらいの英語力のある人のアドバイスを受けるのならほぼ間違いがないでしょうが、単に“英語”を“ペラペラ”と話す程度の人物のアドバイスに基づいているのなら大きな失敗をすることになるでしょう。
 これは、日本語をペラベラと話す日本人ならだれでも外国で日本語を教えられるか、ということと同じです。漢字をよく知らない日本人が外国人に漢字の意味や熟語を教えられないのと同じです。漢字をあまり知らない日本人の中学生でも日本語をペラペラと話すことができます(少なくともそのように見えます)。しかし、この生徒に日本語でビジネスの文章を書かせて相手方と交渉ができるか、ということです。英語をペラペラと話す(ように見える)外国人に正確な英語が書けるかどうか、ということです。これは慎重に見極める必要があります。
  私は日本語の「やばい」を「すごい」や「素晴らしい」の意味で使うことはありませんが、今では「やばい」を「素晴らしい」の意味で使う若者が多数います。言葉は常に変化していますから、英米でも、“office”を“(railroad)station”の意味で使う人たちがいるのかもしれません。が、まだ、英米の辞書はそのような意味を辞書の中に採用していないようです。したがって、私たちは“office”を“station”の意味で使うべきではありません。
  下の図Aと図Bは、Marriam-Websterの『Visual Dictionary Online』からとったものです。“”Powered by ikonet.com © QA INTERNATIONAL 2024“”とあり、最新版の辞書です。


  鉄道駅の説明が上に書かれています。「railroad station   Covered building for the public where trains and passengers arrive and depart. (鉄道駅:一般の人々用の屋根付きの建物で、列車や乗客が到着し出発するところ)」とあります。つまり、駅の本分は列車が発着し乗客が乗降する場所ということです。「駅」の本分(本務、役目)は列車や乗客の発着の場所であり、「仕事場」を本来の意味として有する“office”を「駅 station」の代わりに用いるのは不適切と言えます。
 図Aでは貨車(freight car)と貨車用の駅(freight station)も入っており、乗客用の設備と貨車用の設備を含めて、“railroad station”と呼んでいることが分かります。

  図Bは“passenger station (乗客用駅)”の図で、その説明は図Aと同じですが、大きな屋根がプラットフォームを覆うかたちで付いており、その屋根の外(横)に“office”が設置されています。ここには駅長室(stationmaster’s office)や職員が各種の作業をする場や切符売り場(ticket office)などがあるものと思われます。
  この図からも、鉄道の駅を“office”というのは間違いであることが分かります。私は、「Next Office, Ootori.」と車内で聞くたびに、「次の仕事場、鳳(おおとり)」と聞こえます。

  さらに気になるJRの英語車内放送があります。途中の駅(鳳駅か和泉府中駅)で特急の通過を待っている時に、車内温度の維持のためか、次のような車内放送が流れます。
 「ドアは自動では開きません」 “The door (i)sn’t open automatically.”
という放送が入ります。この英語ですが、下線部の“(i)sn’t”の前の部分の発音がよく聞き取れません。“isn’t”を速く読んで“sn’t”と聞こえているのか、“doesn’t”の頭の発音が抜け落ちて“sn’t”と聞こえるのか分からないのです。もし、“isn’t”なら、英語のできる中学生なら間違わない英語を間違って使っていることになります。
 “isn’t”の“i”がぞんざいな発音で落ちているなら、
  The door isn’t open automatically. (ドアは自動では開いていません)
ということになり、動作・動きを示す動詞に付くautomaticallyを静止状態を示すbe動詞と形容詞openの結合に使っていることになり、おかしな表現(間違った表現)ということになります。
 もし、“(doe)sn’t”と発音しているなら、”open”は動詞となり文法的には誤っていない文、つまり、いちおう、正しい文になります。
   The door doesn’t open automatically. (ドアは自動では開きません)
 が、車両内のドアは対になっているドアが左右に開くかたちであり、阪和線の快速の一車両内には左側に三つ、右側に三つ、計六つの乗降用のドアが付いていますので、私が英訳するなら、一つの乗降口に対しても、前中後の三つの乗降口に対しても適用可能なように、
 The doors don’t open automatically.
としたいところです。左右にスライドして開くドアを一体と見て、doors ではなく、単数形の“door”を使って、“The door doesn’t open”としても間違いとは言えないかも知れませんが(一対のドアではなく、右または左にスライドして開くドアの場合はこれでよい)、阪和線の一車両内には複数のドアがあるので、「The doors don’t open automatically.」とした方がよいでしょう。いずれにしても、“isn’t open automatically”と言っているのなら誤りです。
  この英文の放送用の文章(text)はだれが作ったのでしょうか。教養のある英語のネイティブスピーカーが作ったものなのか、それとも、日本人が作ったものでしょうか。
 外国人が多数乗ってくるJR阪和線内の英語放送は標準的で、誤りと見なす人がいない英語を使うべきでしょう。
  この車内放送は日本人の英語のレベルが低いことを示すために、だれかが意図的に“変な英語”にしているのなら、言語道断です。     (2024年5月19日記)

(* 注1) 上記の記事を書いたあと、JR阪和線と並行して大阪湾沿いに走る南海線に乗車する機会がありました。この南海線も関西国際航空に乗り入れています。車内の英語放送を聞いていると驚いたことに、「Next Office, ~」とやっていました。
 ユーチューブ動画で車内放送を取り上げていることを知り、聴いてみると、JRでも南海でも以前は「The Next Stop, ~」と放送していたようで(これは私も阪和線の電車で聞いていたはずで何も思わずに聞き流していたと思います)、この“stop”は“bus stop(バス停)” などと使われるように、正しい使い方で、stop の基本的な意味は「止まる、止まること、止まり」ですので、「The next stop is Ootori.」なら、「次に止るのは鳳です」ということになります。
 この記事を書いたあとで、JRのWebサイトに意見を述べるところがあるのが分かり、「office」について質問を出しました。その後、阪和線の快速に乗ると、英語放送は“The next office, Ootori.”という放送が流れ、ドアの自動開閉の英語放送は入っていませんでした。nextの前に“the”を入れるのは正しい英語ですが、theがなくても間違いではありません。時を示す副詞句の場合にはthe のあるなしで、意味が変わりますが(next year:来年 the next year:翌年)、教室などで教師が次の生徒にあてる場合、「Next boy」と言って、“the”を付けないことも多いです。
 阪和線内の英語放送はほぼ女性が担当しており(英語のネイティブスピーカーだと思われますが、そうでない人もいるかも知れません)、その放送内容はほぼ同じですが、こまかい部分は(制作年度によるためか)異なっている場合があります。
 いずれにしても、「駅」の意味で“office”を使うのは止めるべきです。


参照:
「英語教育は破綻するか」
  *https://ameblo.jp/373374eternal/entry-12281477194.html
  *https://blog.goo.ne.jp/151144itnagai/e/9b9e2ea671f7b2aa7074f1599755dec0

「大学世界ランキング *国語教育の重要性」…注3でナイジェリア人の英語講師(NET)の問題点を指摘しています。
  *https://blog.goo.ne.jp/151144itnagai/e/c51877887a956f9049a694e26da823c8
  *https://ameblo.jp/373374eternal/entry-12531673273.html