ユング心理学研究会
ユングスタディ報告
ユング「心理学と宗教」を読む 2月3日【第5回】
.令和4年度の初回となる2月のスタディでは、全集パラグラフ56-68(邦訳書p.37-44)を読み進めました。ユングの全三回講義のうち、今回から第二回目に入ることになります。ユングは引き続き、患者であった男性知識人(ノーベル賞物理学者パウリ)の見た夢を元に考察を述べていきます。
.パウリが見た「サルの復元」の夢には、本能性を再統合することによって新しい人間になる「霊的な再生」のテーマが示されている、とユングは言います。
この夢を見た頃のパウリは、夜な夜な歓楽街へと繰り出し、女性とアルコールに依存をする毎日でした。偉大な物理学者としての知的な昼の生活とは対照的な夜の生活が、すでにコントロールできないものになっていたことが彼の抱える問題でした。そんなパウリにとって、意識的なあり方を損なわない形での本能性の再統合が必要であるとユングは捉えています。
「死と再生」は、『赤の書』や『リビドーの変容と象徴』にも見られる、ユング心理学の最初期からの重要なテーマです。
.ユングは続いて、パウリの見たまた別の夢を提示します。その夢の中でパウリは、「内的平静あるいは精神集中の家」と呼ばれる厳粛な建物に入り、純粋になり浄化されるべく精神集中を行いますが、そこに「声」が聞こえてきます。
声は、「宗教は女のイメージを排除したり取って代わったりするものではなく、むしろ魂のあらゆる他の活動に付け加えられてそれを究極的に完成させるものだ。生命の充溢から自分の宗教を誕生させねばならない」ことを告げます。この夢はパウリにとって、人生と人間に対する自身の態度を完全に変えてしまった経験の一つとなりました。
.ユングは「精神集中の家」の中に出てくる、ピラミッド型に配置された多数の燃える蝋燭に注目し、そこに「四元性」および「生命としての火」という、古来からの重要なシンボリズムが現れていると指摘します。どちらも神聖なイメージであり、ここには神性の現前かそれに等価な観念が表れています。
.また「声」は、無意識の重要で決定的な表象として、パウリの夢にたびたび現われてきたとユングは説明します。無意識の心から来る「声」は、ときに優れた知性と目的性をおびることもありますが、これは預言者たちにも見られるような、基本的な宗教現象でもあります。「声」は、自分の意識的努力で産出したものではない、無意識の産物です。
私たちは自分のことを意識の範囲内でのみ認識可能ですので、無意識を含む人格の総体の完全な記述や定義は不可能です。ユングは「声」の現象を、無意識内にある様々な部分の中心から発せられているものであると理解します。「私」すなわち意識的自我は、総体としての心の一部であり、全体的な心的人格の中心としての自己に従属しているのです。
.画像はスタディ中に提示したもので、テトラクテュス、および「声」の現象の図示になります。
.テトラクテュスとは、1から4までの自然数とその合計である10を図形化したもので、四元性に関わるシンボルです。宇宙は数により支配されるとした古代ギリシアのピタゴラス学派は、世界秩序を表す四元数の図としてこれを神聖視していました。晩年のパウリもまた、このテトラクテュスに注目し、ユングの言う個性化過程の統合のシンボルでもある「三から四への移行」に関連する重要な数学的問題を示唆するものとして研究していました。
https://jung2012.jimdofree.com/