愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
写真、詩、小説、エッセイ、料理、政治、経済etc..

思い出はJAZZと共に

2012年10月02日 11時01分03秒 | 

真夏の静かな夜。
ジョン・コルトレーンのサックスがもの悲しげに歌い上げる。
夜はジャズがいい。
それも、バラードが。
知らず、遠い想い出が現れては、消えてゆく。
まだ、二十歳過ぎの多感な頃、知り合って3ヶ月ほどの女の子とジャズ喫茶に行った。
よくしゃべる女の子だった。それが堪らなくなって、ジャズ喫茶に行ったのだった。
当時、ジャズ喫茶では会話は御法度だった。
だから、二人は黙ってジャズに聴き入っていた。
いや、音楽に耳を傾けていたのは僕だけだったのかもしれない。
彼女はただ、我慢していただけだったのかも。
突然、電話がかかってきて、会って欲しいと言われ、不承不承出かけていった。
ジャズ喫茶を出て、歩道橋の上で、行き交う車を、ただ、見ていた。
彼女は言った。
「あのね、明日、実家の尾道に帰るの。大阪とはさよなら。あなたに会えるのもこれが最後。
あなたにその気がないのは知っていました。でも、せめて、あと一度だけ、会ってお別れを言いたかった」
僕は悪いことをしたな、と心の中で彼女に詫びた。
若さゆえの残酷。
「そう。元気でね」
橋の上で、彼女と別れた。
僕はあの日、彼女を傷つけたんだろうと思う。
今なら、もっと違う接し方があるんだろうけれど。
優しさの仮面をかぶった冷酷。
青春の1ページなんて、きれいな言葉ですまされない、苦い想い出。
歩道橋の別れ以来、連絡はなくなった。
今、どうしているかなんて、思う資格もない。
曲が変わる。
「IT'S EASY TO REMEMBER」
優しい曲だ。
遠い昔の罪を優しく包み込んでくれる。
「想い出すのはたやすい」と訳すのだろうか。
時を戻せるものならば。僕らはいつもそう思う。
不可能なことを、僕らは望む。
また、次の曲が僕を責める。
「YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS」
恋は知っても、愛は知らない時代。それが青春。
コルトレーンの最後の一吹きが僕のこころを揺さぶる。
「TOO YOUNG TO GO STEADY」
「恋人になるには若すぎて」
テナーサックスが消え、静寂が訪れる。僕は静かに、アンプをOFFにする。

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