愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
写真、詩、小説、エッセイ、料理、政治、経済etc..

2012年10月02日 10時58分31秒 | 

映画館に来た。独りで。
早朝の待合いは空いている。
インディージョーンズ・クリスタルスカルの王国。
前作は二人で来た。初めてのデート。
ポップコーンをほおばりながらも、君は画面に釘付けだった。
僕はと言えば、映画そっちのけで、君の横顔ばかり見ていた。
衝撃のシーンで、思わず君は僕の手を握った。
どきっとした。
映画が終わったあと、インド料理屋でランチを食べた。
インド民謡が流れる中で、君は映画の興奮が冷めないらしく、一方的に話していた。
僕は君の形の良い唇が動くのに見とれていた。
「ねえ、聞いてるの?」「もちろん」「さっきから何もしゃべらないじゃないの」
僕は映画の筋など何も覚えていなかった。「面白かったじゃない」適当に答えた。
「どこが?」
「ええと。それより、これからどうしよう」僕が言ったのはランチのあと、どう過ごすかだった。
「どうもならないわ。さよならするだけ。私、デートは一回きりと決めてるの」
「え?どうして?」
「だって、人を好きになってしまったら、失ったとき傷つくもの」
「僕は君から離れない。約束するよ」
「明日のことは分からないわ。あなたの約束だって、何の補償もないもの」
そう言って、君は席を立った。
君の後ろ姿を見ながら、僕は深く心を痛めた。自分ではなく、君のこころの在りように。
確かなことは、何もない。
けれど、傷つくことを恐れて、避けていたら、人は前には進めない。
それは、傷つけることも同じ。
人を傷つけないで生きて来た人は一人もいないはずだ。
僕は君に携帯メールを送った。
「インディージョーンズの次回作が作られるかどうか分からない。それは10年後かもしれない。もし、作られたなら、その時、この映画館で、封切りの初回で会おう。それまで僕が変わらなかったら、君も変わるかもしれない」
そして10年。
僕は開演までの時間、待合いのテーブルで本を読んでいた。
「あなたって、ばかね」
耳元でささやく声がする。
君だった。
開演のアナウンスが聞こえた。
「さあ、行きましょう。ハリソン・フォードも歳をとったでしょうね。初めてだわ。同じ人と2回もデートするなんて」
僕は変わらない君の形の良い唇を見つめていた。

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