西宮にある大谷記念美術館で、江戸時代半ばの京都の絵師・呉春(ごしゅん)と弟子たちの作品を紹介する展覧会「四条派への道」が行われています。現代まで続く京都画壇の主流となった四条派の影響力の大きさがよくわかるよう構成されています。
- 師の円山応挙以上に人気を集めた呉春、文人画から写生画に傾倒していく流れがよくわかる
- 京都のみならず大阪にも広がった呉春の弟子たちの作品も素晴らしい
現在の江戸時代後半の京都画壇の絵師の人気は応挙と若冲が図抜けていますが、呉春もやはり見逃せないことに気付かされます。呉春は絵の腕だけではなく、人柄もとても好かれていたのです。
この美術館は庭でも癒される
西宮市大谷記念美術館の館名に冠されている「大谷さん」が、コレクションと邸宅を寄贈した実業家であることは知っていました。何を思ったのかその「大谷さん」について調べてみると、すごい系譜の人物であることがわかりました。
調べてみる気になったのは「大谷さん」の名前は竹次郎(たけじろう)で、松竹の創業者ではないか、と思ったためです。同姓同名の全くの別人で、炭素製品大手の昭和電極(現:SECカーボン)を戦前に創業した人物でした。驚きの系譜というのは、竹次郎の兄・米太郎(よねたろう)がホテルニューオータニを創業するなど、昭和の有数の実業家だったことです。
米太郎は現在の合同製鉄の前身企業を創業して鉄鋼王と呼ばれ、戦後には五反田のTOCビルも傘下に収めます。現在も大谷家は浅草ROXや大崎ニューシティといった著名ビルのオーナーです。
超一等地の紀尾井町のホテルニューオータニの土地は、建設計画前から米太郎が所有しており、富豪ぶりがうかがえます。帝国ホテル/ホテルオークラと並んで御三家の一角に数えられたのも、永野重雄など政財界の有力者との関係が密接だったからこそ成し遂げられたものです。
竹次郎は米太郎の事業にも多く関わっていました。現在の大谷記念美術館は竹次郎の邸宅の跡地で、阪神間有数の豪邸であったことがうかがえます。大谷記念美術館のコレクション展を見ると、その充実ぶりがしっかりと伝わってきます。
展示はすべての展示室を使って行われているため、1F西側の展示室で通常行われているコレクション展は開催されていません。前半が主に呉春の足跡を追う展示、後半が弟子たちの作品の展示です。
呉春は1752(宝暦2)年に京都で金貨を鋳造する金座(きんざ)の役人の家に生まれました。京都の金座の役人はとても裕福で、尾形光琳のパトロンだった中村内蔵助も同様の役人でした。生まれつき手先が器用で、洗練された振る舞いから社交も上手でした。この出自のよさが後に、呉春の人気を支えることになります。
最初に与謝蕪村に弟子入りし、文人画と俳諧を学びます。若い頃から名の知れた絵師になっていました。妻と父を相次いでなくしたことから、蕪村のパトロンだった大阪の池田の商人の家で2年ほど静養します。蕪村の死の直前に京都に戻り、円山応挙と親しくなります。文人画から写生画に転換し、応挙の死後は瞬く間に京都画壇をリードするようになります。
性格も画風も生真面目だった応挙とは異なり、呉春は様々な芸事にも通じていました。応挙流の美しい写生画にユーモアを加えた画風も、人気の急上昇を後押ししました。弟子も多くなり、皆で四条通周辺に居を構えたことが「四条派」の語源です。応挙流の画風を継いだ一派は、四条派に完全に凌駕されるようになります。四条派は現在まで続いており、竹内栖鳳や堂本印象が受け継いでいます。
【京都国立博物館公式サイトの画像】 呉春「百老図」
京都国立博物館蔵の呉春「百老図」は、前半生の文人画時代の名品です。山肌の豊かな描写の中に、早くも遊び心を感じさせます。
【文化遺産オンラインの画像】 呉春「柳鷺群禽図」
京都国立博物館蔵の呉春「柳鷺群禽図」は、池田時代の作品です。まだ応挙とは出会っていないと考えられていますが、文人画に写実的な表現を加えているように感じられます。呉春の器用さもあるのでしょう。重要文化財にふさわしい傑作です。
【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
「牧馬図」も池田時代の名品です。馬の目の描き方にとてもユーモアがあります。
【文化遺産オンラインの画像】 呉春「大江山鬼賊退治図」
京都国立博物館蔵の呉春「大江山鬼賊退治図」は、応挙死後に京都画壇の中心となった円熟期の作品です。わかりやすい古典の題材をユーモアのある文人画風に描いています。この屏風を主人が客人に見せると、とても話が弾んだであろうと想像できます。
「松鶴図」は晩年の作品で、鶴の描写のリアルさが目を引くのに加え、構図は琳派を思わせるように洗練されています。呉春の人気ぶりがしっかりとうかがえます。
【文化遺産オンラインの画像】 岡本豊彦「苫船図」
弟子たちの作品では、山水図で名を馳せた岡本豊彦(おかもととよひこ)の京都国立博物館蔵「苫船図」が美しく輝いていました。雪の積もった船を描いた描写は、写真のように洗練されています。観る者をぐっと惹きつける力強さも兼ね備えています。
岡本豊彦では大阪市立美術館蔵の「呉春像」も注目です。晩年の師の姿を描いたものですが、とてもかわいいおじいいちゃんに見えます。呉春の朗らかな人柄が伝わってきます。
【京都国立博物館公式サイトの画像】 松村景文「綿・茄子図」
呉春の異母弟の松村景文(まつむらけいぶん)は、岡本豊彦の山水に対し花鳥画で有名です。京都国立博物館蔵「綿・茄子図」は余白の使い方と構図がとても洗練されています。
展示最後の1F西側の展示室では、大阪で活躍した四条派の絵師たちの作品が展示されています。なかなか見る機会がないため、興味深く鑑賞できます。
関西では昨年2018年1月に逸翁美術館で開催された「開館60周年記念展 第五幕 応挙は雪松、呉春は白梅。」以来の本格的な四条派の展覧会です。江戸絵画の豊かな魅力を一層吸収することができます。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
東京藝大による最新の分析が”技法”という魅力を明らかにする
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<兵庫県西宮市>
西宮市大谷記念美術館
四条派への道 呉春を中心として
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:西宮市大谷記念美術館、毎日新聞社
会期:2019年4月6日(土)〜5月12日(日)
原則休館日:水曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30
※4/23までの前期展示、4/25以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。
◆おすすめ交通機関◆
阪神電車「香櫨園」駅下車、南口から徒歩8分
JR神戸線「さくら夙川」駅下車、南口から徒歩18分
阪急神戸線「夙川」駅下車、南口から徒歩20分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
大阪駅(梅田駅)→阪神本線・特急→西宮駅→阪神本線・普通→香櫨園駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には無料の駐車場があります。
※道路の狭さ、駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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