美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

なぜフェノロサの墓が三井寺にあるのか?_大津市歴史博物館 4/14まで

2019年03月17日 | 美術館・展覧会

日本の美術ファンの間では、フェノロサやビゲローの名はとても有名ですが、法明院(ほうみょういん)という寺はほとんど知られていません。滋賀・三井寺(みいでら)の塔頭で、フェノロサやビゲローと深いゆかりがある寺です。地元の大津市歴史博物館では、法明院の歴史や二人とのゆかり、上質な所蔵文化財を紹介する展覧会が行われています。

  • 三井寺の学問寺で、北院エリアの中心的堂宇、古い仏像も多く伝わる
  • 応挙や大雅の襖絵の他にも多数の仏画が展示され、江戸時代半ばの寺勢を実感できる
  • フェノロサやビゲローの手紙や遺品、写真も多数展示
  • フェノロサやビゲローとのゆかりは、初代東博館長と法明院住職の関係がきっかけ


フェノロサやビゲローはなぜ法明院に深く帰依したのか? とても深い話を展覧会から知ることができます。



三井寺、正式名称:園城寺(おんじょうじ)は中世以来、寺門派(じもんは)として延暦寺の山門派(さんもんは)と永らく構想を続けてきたことはよく知られています。秀吉が天下を取ると、突然排斥されますが、江戸時代初めに復興したのがほぼ現在の寺観です。

法明院も江戸時代初めに創建されたもののすぐに衰え、江戸時代半ばの1723(享保8)年に再興されたのが現在の寺観です。以降は有力な寄進者が常にいたと推測されます。再興から明治維新までの150年ほどの間に、おびただしい数の障壁画や仏画、住職の肖像画がのこされています。いずれも保存状態は良く、財政的な余裕があったことを示しています。

【三井寺公式サイトの画像】法明院襖絵 池大雅「幽居図」
【三井寺公式サイトの画像】法明院襖絵 円山応挙「山水図」

大雅・応挙いずれの襖絵も、学問寺の客殿を飾るにふさわしく、奥深い精神性を示すかのように大自然を描いています。上流階級の客人で常に賑わっていたのでしょう。


法明院、フェノロサの墓

フェノロサは1878(明治11)年に来日し、東京大学で哲学を教える傍ら、専門外だった日本美術に関心を寄せ始めます。仏像や仏画を通して宗教としての仏教そのものにも興味を持ったのでしょう。同じ頃フェノロサは、初代東京国立博物館長を務め、日本の美術品や博物保護の第一人者だった町田久成(まちだひさなり)と出会います。日本美術や仏教について様々な知識を得るようになります。

町田は、法明院の住職・桜井敬徳(さくらいけいとく)から戒を授かって僧籍にも入っており、フェノロサと法明院のゆかりは町田がきっかけになります。1885(明治18)年、日本美術蒐集のために来日していた友人のビゲローと共にフェノロサは、敬徳から戒を授かり僧籍に入ります。こうして法明院との強いきずなが生まれ、再来日の度に法明院を訪ねるようになります。

フェノロサは旅先のロンドンで急死しますが、法明院に分骨を遺言します。ビゲローも同じく分光津を希望し、二人の墓が法明院に設けられることになります。



【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

展覧会では明治時代の法明院を物語る数多くの写真や肖像画も展示されています。フェノロサやビゲローの肖像写真は、様々なメディアでもよく見かけます。おそらく多くが法明院所蔵の写真を使っているのでしょう。両者とも、政治家のような強いまなざしではなく、悟りを開いたように落ち着いたまなざしをしています。美術品の持つ価値を見抜くためのまなざしなのでしょう。


フェノロサとビゲローが法明院で使っていたテーブル

敬徳が自らの遺品をビゲローに贈呈した目録も展示されています。それだけ敬徳とビゲローやフェノロサの間には信頼関係が成立していたのです。廃仏毀釈に苦しんでいた時代、アメリカ人がもたらした”美術品”としての価値に、仏教文化の永続を託したのかもしれません。

フェノロサやビゲローと接点のあった日本人は岡倉天心がとかく有名ですが、町田久成や桜井敬徳もキーマンだったことがよくわかる展覧会です。岡倉天心という従来の思い込みに左右されず、新たな発見を求めてそれがかなえられた展覧会でした。


法明院からのぞむ琵琶湖、雨で見えにくい

高台にある法明院からは、晴天であれば琵琶湖の絶景が見渡せます。三井寺から歩いても30分もかかりません。フェノロサとビゲローの墓は、志納を収めれば常時お参りできます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



二人が愛した法明院の魅力とは

________________

大津市歴史博物館
第78回企画展
フェノロサの愛した寺 法明院 ―三井寺北院の名刹―
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:大津市、大津市教育委員会、大津市歴史博物館、京都新聞
会期:2019年3月2日(土)~4月14日(日)
原則休館日:月曜日、3/22
入館(拝観)受付時間:9:00~16:30

※期間中一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※展示期間が限られている作品があります、
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

京阪石山坂本線「大津市役所前」駅下車徒歩7分
JR湖西線「大津京」駅下車徒歩20分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
京都駅→JR湖西線→大津京駅→京阪石山坂本線→大津市役所前駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 京都の桜は平野神社を見ない... | トップ | 皇族ゆかりの品はその国の文... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

美術館・展覧会」カテゴリの最新記事