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寓話の天才画家の表現に引き寄せられる ~国立国際美術館「バベルの塔」展

2017年08月12日 | 美術館・展覧会

国立国際美術館(大阪) 「バベルの塔」展

 

 

大阪・中之島の国立国際美術館で「バベルの塔」展が開催されている。春開催の東京・上野の東京都美術館から巡回してきたもので、目玉作品の「バベルの塔」のほか、ボスやブリューゲル独特の奇想の作品に見応えがある。

 

ブリューゲルによる「バベルの塔」は2点現存しており、出展作はオランダ・ロッテルダムのボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館所蔵の方である。もう1点のウィーンの美術史美術館の作品を見た方は、絵のサイズがやや小さいことに気づかれると思うが、ボイマンス美術館所蔵作の方が制作が後であるからか、塔の大きさ・存在感をより感じさせる。

 

ブリューゲルらしい緻密な表現も存分に楽しむことができる。塔の最上部に足場を組んで建設作業をしている人や、塔の周りを歩く人は米粒よりも小さいと思える大きさで数えきれないほど描かれている。港に入る船も数センチほどしかないが、マストや乗組員などが本当にリアルだ。バベルの塔と言えば「実現不可能なもの」のたとえに使われるが、「実現可能では?」と錯覚させるオーラを発している。

 

ブリューゲルの作品では他に、ヒエロニムス・ボスの影響を受けたと言われる、昆虫や動物をモチーフにした実存しないモンスターを描いた版画が興味深い。モンスターは寓話を表現したものだが、日本の鳥獣戯画を思わせるように愛くるしい。「大きな魚は小さな魚を食う」に描かれたモンスターは、特設ショップでフィギュアになって売られており、思わず手が伸びる。

 

 

ボイマンス美術館「大きな魚は小さな魚を食う」

 

 

また「農民画家」と呼ばれるブリューゲルの、民衆の様子を細密に表現した版画も興味深い。市民がスケートを楽しむ様子は、一目で「ブリューゲルの画風だ」と感じさせる彼独特の素朴さが表現されている。彼の作品から当時のフランドルの風俗や生活・仕事の様子をうかがう研究者が多いこともうなずける。

 

 

ボイマンス美術館「アントウェルペンのシント・ヨーリス門前のスケート滑り」

 

 

ヒエロニムス・ボスの「放浪者(行商人)」は、彼の代表作と言われるプラド美術館蔵「快楽の園」のようにたくさんの人物やモンスターが描かれた絵ではなく、一人の人物だけをクローズアップして描いており、より寓話の意味を考えさせる構図になっている。絵の形は円形で、額縁は八角形、一見ボスの画風に見えないかもしれないが、人物の顔の表情は無垢な目が特徴的で確かにボス的な表情だ。

 

一辺が1mもないであろう小さな絵だが、惹きつけられるように立ち止まって見つめてしまう。この時代の画家は寓話をモチーフに描くことが多いが、「意味を考えさせる」描写はボスが特に長けていると思う。

 

 

ボイマンス美術館「放浪者(行商人)」

 

 

ブリューゲルもボスも、特に油絵は現存作が非常に少ない。今回の日本での“出開帳”は、ボイマンス美術館の新館建設に伴い実現したもので、身近に鑑賞できるいい機会となる。

 

オランダの美術館は、レンブラントの「夜警」があるアムステルダムの国立美術館、フェルメールの「葵ターバンの少女」があるハーグのマウリッツハイス美術館がよく知られるが、ロッテルダムのボイマンス美術館もぜひ訪れてほしい。中世から近代まで秀作が網羅されている。

 

特におすすめしたいのが「エマオの人々」。この作品は20世紀で最も巧妙な贋作者として知られるハン・ファン・メーヘレンの作品で、フェルメールの未発見作として世に出され、当時のフェルメール研究者たちが本物と鑑定したことから、ボイマンス美術館が購入した。しかしメーヘレンが自らの贋作であることを告白したことから発覚したが、現在もメーヘレンの作品として展示され、公式サイトにも事の次第が説明されているのには感服する。フェルメールの画風に見えないようで見える不思議な描写で、最初から贋作として世に出されたのであれば、見事な芸術として成立すると感じる。

 

 

ボイマンス美術館「エマオの人々」

 

 

 

 

 

ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館(画像は公式サイトより)

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

 

ブリューゲルを学ぶには最適

(朝日新聞出版)

 

 

ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館

Museum Boijmans Van Beuningen

公式サイト http://www.boijmans.nl/en/

 

 

 


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