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奈良・元興寺ものがたり ~日本最古の寺は庶民が支え続けた

2018年09月20日 | 美の殿堂ものがたり

奈良の中心にある猿沢の池から南に広がる古い町並は「ならまち」と呼ばれています。江戸時代の建物も少なからず残る町並の大半は、平城京遷都時に飛鳥から移転してきた元興寺(がんごうじ)の境内でした。

元興寺は飛鳥時代に起源をもつ日本最古の本格的な仏教寺院です。1,400年にも及ぶ長い歴史の荒波の中で、現在は小規模な3つの寺院に分かれて存続しています。奈良時代の面影を今に伝える国宝・五重小塔(ごじゅうのしょうとう)ほか、多数の国宝・重要文化財がのこされています。地域の住民にとても愛されている寺院でもあります。

平城京には興福寺を始めいくつかの官寺が飛鳥から移転していますが、それぞれ数奇な運命をたどっています。今日は最も歴史が長い、元興寺のものがたりを紐解いてみたいと思います。


国宝・元興寺極楽堂(本堂)

元興寺は、飛鳥の地で588(崇峻天皇元)年から建設が始まり、596(推古天皇4)年に最初の堂宇が完成したと考えられている法興寺(ほうこうじ)が始まりです。仏教推進派だった蘇我馬子により建立されました。609(推古天皇17)年には、飛鳥大仏の一部として現存する本尊が完成しています。仏師は法隆寺・釈迦三尊像も造立した鞍作止利(くらつくりのとり)です。

大化の改新で蘇我氏がほぼ滅亡して以降も天皇の崇拝を受け、官寺並みの待遇で大官大寺(現:大安寺)・薬師寺・興福寺と共に平城京に移転します。平城京移転後に元興寺と名前を変えています。一方、法興寺も平城京移転後も飛鳥にしばらく存続し、現在は後身寺院の飛鳥寺になっています。飛鳥大仏は飛鳥寺の本尊です。

元興寺は奈良時代には隆盛を誇りますが、平安時代になると興福寺や東大寺に比べ寺勢は衰えていきます。火災・落雷・戦乱などで徐々に堂宇を失っていき、金堂も室町時代に失われます。しかし皮肉なことに寺域が縮小すると様々な商工業者が住み着くようになります。興福寺や東大寺の御用の需要が大きかったと考えられます。現在に続くならまちの形成の始まりです。


現在のならまち

元興寺は金堂が失われた室町時代以降に、現在の3つの寺院に分かれたと考えられています。世界遺産に登録されている中院町に所在する真言律宗の元興寺は僧房があったエリアでした。国宝の極楽堂と禅室も、鎌倉時代に僧房を改築したものです。国宝・五重小塔はここにあります。

五重小塔は高さは5mほどですが、内部構造が建造物のように忠実に造られています。奈良時代で唯一残された五重塔でもあります。奈良時代の塔は薬師寺・當麻寺にもありますがいずれも三重塔です。


禅室(左)と極楽堂(奥)

芝新屋町に所在する華厳宗の元興寺は五重塔があったエリアです。近隣の興福寺や、現在高さ日本一の東寺より高い五重塔でしたが、幕末の火災で焼失します。興福寺の五重塔とツインタワーのように並ぶ町並の風景はとても壮観だったでしょう。

もう一つ、西新屋町に所在する真言律宗の小塔院(しょうとういん)は、永らく国宝・五重小塔を収めた堂宇があった場所です。この3つの寺院は直線距離で互いに100mも離れていない近距離に固まっています。外側から縮小を始めた元興寺の境内が最後まで残ったエリアです。

江戸時代は発展する現ならまちに住む庶民の信仰の場として細々と法灯を保っていました。明治以降は荒れ放題の状況が長く続きます。戦後の1950年代になってようやく住職・辻村泰圓により境内の再興が始まり、現在の美しい姿を取り戻しました。

ほとんどの伽藍が失われる中で、建造物である国宝の極楽堂・禅室・五重小塔がのこされたことは奇跡に近いと言えます。平安~鎌倉時代の仏像も中院町・真言律宗・元興寺に3体、芝新屋町・華厳宗・元興寺に2体、西新屋町・真言律宗・小塔院に1体がそれぞれのこされています。すべて重要文化財で、うち芝新屋町・華厳宗・元興寺の薬師如来立像は国宝です。地域の住民も加わって大切に護られてきたのでしょう。


現在も人々に愛されている元興寺(節分の様子)

元興寺は常に権力者との距離が近かった興福寺や東大寺とは異なり、現在のならまちに自然発生的に芽生えた庶民信仰によって支えられてきました。日本最古のお寺は庶民の手によって守られ続けてきたのです。伽藍の縮小が結果的に寺の永続につながったように思えてなりません。

なお元興寺にほど近い十輪院(じゅうりんいん)は、元興寺の子院だった寺です。鎌倉時代の住宅の色合いを残す国宝の本堂が美しい寺です。いにしえの元興寺の面影を確かめることができます。こちらもぜひどうぞ。



歴史と仏教美術の全貌を紹介する公式ガイドブック


元興寺(真言律宗、奈良市中院町)
【公式サイト】https://gangoji-tera.or.jp/


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