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東博・黒田記念館「特別室」 ~近代洋画の大御所が残したヌードと向き合う

2017年12月22日 | 美術館・展覧会

 

昭和初期の煉瓦が並木とよく合う

 

 

東京国立博物館の西隣に、あまり知られていないが、昭和のノスタルジーを感じさせる美しい煉瓦の建物がある。明治から大正にかけての日本の近代洋画の大御所・黒田清輝(くろだせいき)の作品を展示する「黒田記念館」だ。年3回だけ公開される「湖畔」「智・感・情」といった代表作以外は、随時入れ替えながら通年で展示を行っている。上野公園の中でも特に静かに、黒田作品と向き合うことができる。

 

薩摩藩士の家に生まれた黒田清輝は、法律を学ぶために留学したパリで画家・山本芳翠や美術商・林忠正と出会い、画家に転向した。帰国後の1896(明治29)年に東京藝大の前身である東京美術学校西洋画科の教員になり、洋画界での地位を高めていく。

 

黒田の代名詞とも言える裸体画は、帰国直後に京都で行われた内国勧業博覧会に、フランスで評価された「朝妝」を出展したことで、国内で一躍注目を浴びることになった。当時の価値観ではヌードは芸術ではなく猥褻(わいせつ)であり、公開の是非を巡って大論争となった。1900(明治33)年の展覧会に出品された「裸体婦人像」に至っては警察に咎められ、絵の下半分が布で覆われるという、現代の価値観では実に珍妙な「腰巻事件」も起こっている。

 

【公式サイトの画像】 腰巻事件の「裸体婦人像」(静嘉堂文庫美術館蔵)

 

 

 

こうした荒波を乗り越え、1910(明治43)年には洋画家として初めて「帝室技芸員(現代の文化勲章のような顕彰制度)」に選ばれ、近代洋画の大御所としての地位を確立する。黒田記念館の建物も「遺産を活用して美術の奨励に役立てよ」という黒田の遺言に基づいて建てられたものだ。

 

2階の「黒田記念室」は遺族から国に寄贈された黒田の作品を入れ替えながら、通年公開している。所蔵作品数は油彩画だけで130点あり、黒田の生涯を通じた作品の変遷が俯瞰できるよう展示が工夫されている。

 

 

 

年3回公開される「特別室」

 

 

「特別室」は、黒田の代表作である「智・感・情」「舞妓」「湖畔」「読書」を年3回公開している。高い天井からは自然光を取り入れ、室内は柔らかい雰囲気を醸し出している。

 

「湖畔」は美術ファンのみならず、教科書に載っていることも多かったので、日本の近代洋画ではおそらく最も知名度の高い作品だろう。箱根芦ノ湖の観光船乗り場の近くで、後に黒田の妻となる当時23歳の芸者をモデルに描いたものだ。いかにも気品ある明治の女性がくつろぐ姿を、明るいタッチで描いている。古き良き明治の理想的な女性像を伝える作品として、時がたてばたつほどこの作品は神格化されていくのかもしれない。

 

「智・感・情」は特別室に入った正面に展示されている。見る者はその圧巻の迫力に押し出されそうになる。この作品、3人のヌード女性がとても謎めいたポーズを取っているのだが、黒田はその意味を一切明らかにしていない。そのため長年にわたって学者の間で論争が続いている。怖いようにも見えるがよく見ると怖くない、エロティックのように見えるがそうでもない、とても不思議な絵だ。

 

黒田は見る者に絵の意味を考えさせようとして、一切この絵にまつわる話をしなかったように思えてならない。この作品を描いたのは、東京美術学校西洋画科の教員になった頃で、難問を残すことで、日本洋画化がさらに発展することを望んだように思う。

 

【公式サイトの画像】 「智・感・情」

 

 

 

 

大御所は「黒田記念室」で訪れる者を見つめている

 

 

お正月は年3回の特別室の公開期間だ。ぜひ「おすすめしたい。

 

 

 

日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんある。ぜひ会いに行こう。

 

 

稀代の建築家と画家がトーハクの魅力を徹底解剖 

東京国立博物館 黒田記念館

http://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=hall&hid=17(東京国立博物館サイト)

http://www.tobunken.go.jp/kuroda/index.html(東京文化財研究所サイト)

原則休館日:月曜日、年末年始

 

「特別室」今後の公開予定

2018年1月2日(火)~2018年1月14日(日)

2018年3月26日(月)~2018年4月8日(日)

例年、11月上旬の約2週間も公開されます

 

※展示作品は、展示期間が限られている場合があります。

 

 

 


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