六本木・サントリー美術館で行われている「遊びの流儀」展にようやく行くことができました。”遊び”は日本では平安時代から絵画のモチーフとして定着しており、その時代を楽しむ人々の息吹が生き生きと伝わってきます。私が大好きなモチーフです。そんな事前期待に応えてくれる見事な展示内容でした。
- 安土桃山時代から江戸時代初期にかけて、遊楽図が最も流行した時代の絶品が一堂に集結
- 時代に応じて洛中洛外図から室内遊楽図へと嗜好が変化していく様子がとてもよくわかる
- 「生活の中の美」をテーマに運営するサントリー美術館の企画の質の高さが見事に現れている
日本には「よくもまあこんなにたくさんの”遊び”の絵がのこっているもんだ」と感心する展覧会です。”遊び”を楽しむ人々の表情を見ていると、なんだか元気が出てきます。古今東西、”遊び”はみんな好きなんです。
サントリー美術館の運営母体で、サントリーグループのメセナ活動を音楽と共に統括する「サントリー芸術財団」が2019年に設立50周年を迎えます。この展覧会を含め2019年に開催されるサントリー美術館の展覧会タイトルには「50周年」の冠が付けられており、今年2019年11月から約半年間の改修工事に入る前に、美術館としての活動の集大成を披露するような意気込みが感じられます。
中でもこの展覧会は遊楽図や風俗画を中心に構成されており、「生活の中の美」をテーマに運営するサントリー美術館にとっては本家本丸のようなテーマ設定です。
私はいつも展覧会の冒頭で「出品リスト」に目を通し、どんな他の美術館や個人から作品が貸し出されているかを確認します。この展覧会では全国の名だたる美術館や個人から名だたる名品が貸し出されており、この展覧会にかけるサントリー美術館の意気込みと貸し出した所蔵者からの信用が見事にマッチしていると感じました。
美術館から見える檜町公園はいつも清々しい
展示は時代順ではなく、作品のテーマやモチーフごとに構成されており、それぞれの中での流行の変化が追いかけやすくなっています。
第1章「月次風俗図」は12カ月の風物や行事を描いたもので、平安時代から描かれた”遊び”の絵のモチーフとしては最古の部類に入ります。
【サントリー美術館 コレクションデータベースの画像】 月次風俗図屛風
サントリー美術館蔵「月次風俗図屛風」は、花見や月見など現代人が見ても季節感がすぐわかります。日本人が培ってきた季節に応じた”遊び”の伝統が、右上隅から反時計回りに右下隅まで連続して描かれており、季節にとらわれず”ハレ”の場を華やげた屏風であると考えられます。見ていてとても明るく元気の出る屏風です。7/24以降の展示です。
第2章「遊戯の源流」では平安貴族が楽しんだ”遊び”の様子がわかる作品が集結しています。江戸時代前期に、平安時代の貴族の”遊び”を描いたやまと絵が流行しました。当時の人々が抱いた王朝文化への憧れが見事に表現されています。
【サントリー美術館 コレクションデータベースの画像】 源氏物語画帖
住吉如慶(すみよしじょけい)が絵を担当したサントリー美術館蔵「源氏物語画帖」は、源氏物語の場面の中で平安貴族が様々な”遊び”を楽しむ様子を可憐に伝えています。色彩は薄く、描写は精緻です。小画面の画帖なので、抑え気味に描いたほうが上質に見えると考えたのでしょう。場面替えされますが全期間展示です。
【サントリー美術館 コレクションデータベースの画像】 「貝桶・合貝」
貝の美しさを左右に分かれて競い合った貝合(かいあわせ)は、江戸時代頃になると二枚の貝殻の組み合わせを当てる「貝覆(かいおおい)に変化します。二枚の貝は元のペア以外は絶対に合わないため、夫婦円満の象徴として婚礼調度にも用いられました。サントリー美術館蔵「貝桶(かいおけ)・合貝(あわせかい)」は、かなりのクラスの上流階級の婚礼調度であったと感じられます。全期間展示です。
サントリー美術館蔵「蹴鞠・鞠挟」は、蹴鞠の白い球を額縁のような枠にはめこんだもので、枠の上質感が白い球をさらに輝かせていることに驚きます。全期間展示です。徳川美術館蔵「打毬具」は、西洋のポロのような遊具です。7/24以降の展示です。日本の”遊び”は本当に多種多様であることをあらためて実感できます。
名古屋・徳川美術館、展覧会に多数貸出
中国の知識人のたしなみである、琴・囲碁・書道・絵画の四つ芸を描いた「琴棋書画(きんきしょが)」もきちんと構成に含まれており、第3章で鑑賞することができます。元来は日本ではなく中国絵画のモチーフですが、日本の上流階級が伝統的に信奉していました。展覧会の構成には欠かせないと言えるでしょう。
海北友松(かいほうゆうしょう)晩年の傑作、妙心寺像「琴棋書画図屛風」では、中国の文人が琴棋書画に励んでいると思いきや、中には居眠りしている人もいます。友松はそんな人間の煩悩を描こうとしたのでしょうか。師から弟子への厳しい禅問答のネタにも使えそうです。
流れるような黄金の雲の描写がとても優雅で、その下の衣装の彩色が美しい文人たちの動きがわかりやすく表現されています。重要文化財、7/24以降の展示です。
泉屋博古館蔵・宮川長春「遊女図巻」は、長春らしい上品なタッチで様々な娯楽にいそしむ遊女や客の姿を描いています。琴棋書画が、琴→三味線、囲碁→双六などと置き替わっているという解説には感銘を受けました。「遊び」の流行が、上流階級のプライドをくすぐりながら巧みに変化していることがとてもよくわかります。
©Pixabay
プロローグともいえる第3章までだけでも、日本の”遊び”の表現の多様性と奥深さを充分に感じることができます。第4章からはこの展覧会の目玉作品が次々登場します。続きは次回お伝えします。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
サントリー美術館所蔵のとっておきの日本美術の名品130点を収録
________________
<東京都港区>
サントリー美術館
サントリー芸術財団50周年
遊びの流儀 遊楽図の系譜
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:サントリー美術館、朝日新聞社
会期:2019年6月26日(水)~8月18日(日)
原則休館日:火曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~19:30)
※会期中4回に分けて一部展示作品/場面が入れ替えされます。
詳細は「展示替えリスト」PDFでご確認ください。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。
◆おすすめ交通機関◆
都営地下鉄大江戸線「六本木」駅下車、8番出口から東京ミッドタウンB1Fに入り徒歩5分
東京メトロ日比谷線「六本木」駅下車、地下通路を通って8番出口から東京ミッドタウンB1Fに入り徒歩10分
東京メトロ千代田線「乃木坂」駅下車、3番出口から東京ミッドタウン1Fに入り徒歩10分
サントリー美術館は、東京ミッドタウン・ガレリア3Fにあります。
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→メトロ丸の内線→霞ヶ関駅→メトロ日比谷線→六本木駅
【公式サイト】 アクセス案内
(注)10:00~11:00は1Fからしか東京ミッドタウンに入れません。
【美術館公式サイト】 11:00までの入館方法
※この施設(東京ミッドタウン)は有料の駐車場があります。
※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
________________
→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal