タイガーボードのTVCMで知られる建材メーカー・吉野石膏(よしのせっこう)。日本有数の印象派コレクションを積み重ねていることは案外知られていません。そんな稀有のコレクションを大々的に披露する展覧会「印象派からその先へ」が、兵庫県立美術館で始まっています。
- 吉野石膏コレクションの二本柱の一つ・印象派を中心とする近代西洋画が一堂に会する
- 前衛からエコール・ド・パリに至る作品もきちんとカバーされており、近代西洋画の流れが俯瞰できる
- 1980年代からと蒐集時期が早くないものの、ぶれのない審美眼は素晴らしい
吉野石膏の地元・山形県に普段展示されている印象派の名品が、日本の中心大都市圏・東阪名を巡回しています。「よくぞ集めた」と、きっと驚かれることでしょう。
吉野石膏は1901(明治34)年に山形県で創業し、石膏を用いた建材で業界最大手のメーカーです。石膏ボードは、耐火性に優れていることから建物の壁や天井に幅広く用いられています。水に溶けるとすぐに凝固し、繊細な表現ができることから、彫刻やアロマの材料としても石膏は馴染まれています。
コレクションは、1970年代からの近代日本画、1980年代後半から西洋近代絵画の蒐集で形成されています。近代の日本で美術品が大量に流通し、入手する絶好の機会となった明治維新/戦後という二大チャンスで入手したものではありません。昭和の高度経済成長の後に蒐集を始めたものです。美術品のコレクターとしては後発組ですが、バブル経済に踊らされることなく脈々と蒐集と保持を続けていることが称賛されます。
3F展覧会場の入口
展覧会は時代に応じた3章から構成されます。1章は印象派とポスト印象派の画家たちです。
【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 シスレー「マントからショワジ=ル=ロワへの道」
もっぱら風景画を描き、明るい陽光に基づく印象派表現の王道を歩んだシスレーの初期の作品です。大きな青空の下、馬車が田舎道を進んでいます。道幅はかなり大きく開放感があります。シスレー作品は計6点が出展されており、吉野石膏の印象派コレクションでも中核を成しているように感じられます。
【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 ルノワール「シュザンヌ・アダン嬢の肖像」
【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 ルノワール「森の散歩道(ル・クール夫人とその子供たち)」
計6点が出展されているルノワールも、シスレーと並んで見事なラインナップです。「シュザンヌ・アダン嬢の肖像」は、チラシなど展覧会PRの主役に採用されています。瞳を大きめに描いて目立たせるルノワールらしい肖像画です。より明るく見えるパステル画の効果を活かし、裕福な家庭の少女を幸福感あふれんばかりに描いています。
同じモデルのよく似たポーズの作品は、アーティゾン(旧:ブリヂストン)美術館も所蔵しています。
「森の散歩道(ル・クール夫人とその子供たち)」は、散歩する母子を意識的に小さく描き、森の中を進む道にあふれる緑のイオンを強調しています。とてもしとやかな作品です。
【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 カサット「マリー=ルイーズ・デュラン=リュエルの肖像」
アメリカ人女流画家・カサットらしい写実的な表現が美しい女性の肖像画です。犬を抱いて座る、黒い瞳と黒い髪が印象的な裕福な女性の日常の一瞬を、見事に表現しています。
【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 ピサロ「モンフーコーの冬の池、雪の効果」
ピサロもまとまって6点が出展されています。「モンフーコーの冬の池、雪の効果」は明るいタッチが多い印象派作品の中で、冬の薄暗い風景を描いていることが目を引きます。ピサロが影響を受けたバルビゾン派のように、農村の風景を素朴に描いているところにこの作品の個性を感じます。
2章のタイトルは「フォーヴから抽象へ」、世紀末の時代の画家たちの作品です。
【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 マティス「白と緑のストライプのブラウスを着た読書する若い女」
色彩の魔術師・マティスが、フォービズム的な荒々しい表現ではなく、おとなしく写実的に描いているところが魅力的な作品です。白と緑のストライプの衣装のデザインはとても斬新です。バチカンの衛兵の制服のように、とてもかっこよく見えます。
【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 ルソー「工場のある町」
「工場のある町」は、ルソーらしい不思議な風景画です。魚眼レンズで見たように地平線が歪曲されて描かれています。タイトルにある工場がどこにあるのか一見わからないところが、ルソー一流の創作です。
3章は「エコール・ド・パリ」です。両大戦間のひと時の平和な時代の空気を描いた名品が並んでいます。
【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 ユトリロ「サン=ベルナール(アン県)の家並」
エコール・ド・パリ時代を代表する画家・ユトリロの名品もきちんとコレクションされています。「サン=ベルナール(アン県)の家並」は、アル中でもあった「白の時代」の後の作品です。白の表現から一皮むけた円熟味を感じさせる名品です。写実的な構図も心の落ち着きを感じさせます。
【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 キスリング「背中を向けた裸婦」
ポーランド人のキスリングが描いた「背中を向けた裸婦」は、アングルが描く裸婦の背中を思わせる作品です。女性の割には腕や肩の筋肉をしっかりと描いており、男性的に理想化された艶めかしさだけを強調しない表現が目を引きます。
私は山形美術館を訪れたことがないことはなく、この展覧会を見るまでは、吉野石膏コレクションについては存在することくらいしか知識がありませんでした。バブル経済期の一貫した審美眼のないコレクションでは? という”うがった”イメージを持っていたことは事実です。
展覧会を見終わって、こうした”うがった”イメージは一変しました。「よくぞ集めた」と驚きました。
吉野石膏コレクションは、多くが地元の美術館に寄託されています。西洋近代絵画は山形美術館、日本近代絵画は天童市美術館です。日本は地方にもすぐれた作品が多数あります。山形県に訪れた際はぜひ足を運んでみてください。
【公式サイト】 山形美術館
【公式サイト】 天童市美術館
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
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日本は世界屈指の印象派所蔵国かも。
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<神戸市中央区>
兵庫県立美術館
特別展
印象派からその先へ -世界に誇る吉野石膏コレクション
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:兵庫県立美術館、神戸新聞社、MBS、共同通信社
会場:展示棟3F 企画展示室
会期:2019年6月1日(土)~7月21日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~19:30)
※この展覧会は、2019年5月まで名古屋市美術館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、2019年10月から三菱一号館美術館、に巡回します。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
◆おすすめ交通機関◆
阪神電車「岩屋」駅下車、徒歩8分
JR神戸線「灘」駅下車、南口から徒歩12分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:45分
JR大阪駅(阪神梅田駅)→阪神電車→岩屋駅
【公式サイトのアクセス案内】
※この施設には有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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