(2006/ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス共同監督/グレッグ・キニア、トニ・コレット、スティーヴ・カレル、アラン・アーキン、ポール・ダノ、アビゲイル・ブレスリン/100分)
以前「イン・ハー・シューズ」について書いた時に、viva jijiさんからのコメントでお薦めいただいた映画で、ご贔屓俳優アラン・アーキンが助演オスカーを獲ったことでも個人的には『忘れちゃいませんぜ』という映画です。先週レンタルしたのに、借りた途端に忙しくなって、返却前日に辛うじて1回こっきり観ることが出来ました。
お薦めのきっかけは「イン・ハー・シューズ」でキャメロン・ディアスの姉を演じたトニ・コレットに馴染みがないと書いたことで、それならばと彼女の出演作を幾つかご紹介下さって、その中の一つがコレということ。「イン・ハー・シューズ」では、婚期を逃しかけている女性の役でしたが、この映画では二人の子持ちの主婦シェリル・フーヴァーという役でした。
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シェリル自身、飛び抜けた美女でも知性溢れるキャリア・ウーマンでもないが、家族もどれもこれも冴えない面々ばかり。
9段階のプログラムからなる成功理論を考案して一儲けしようと脱サラした夫リチャード(キニア)は、講演会の参加者も少なく破産寸前。ある出版エージェントに望みを託すが、なかなか色好い返事が来ない状況だ。
ニーチェに傾倒する厭世気味の長男ドウェーン(ダノ)はパイロットになるまではと無言の行を続けていて、家族とも筆談でしかコミュニケーションをとらない。「ハリーとトント」にも似たような若者が出てましたな。
9歳の妹オリーヴ(ブレスリン)は少し太めの幼児体型をものともせずに美少女コンテストに応募している。大きなメガネをかけているが、メガネを取れば結構可愛い顔にも見えたりする。
オリーヴにダンスの振り付けをしているのが父方のお祖父ちゃん(アーキン)で、この爺さん、孫娘には優しいがヘロインの常習者。エッチな事も大好きで、どうやらそれらが原因で老人ホームを追い出されて来たらしい。
そんな家族にもう一人同居人が増える。プルーストの研究をしているシェリルのゲイの兄フランク(カレル)。ライバル評論家に“彼氏”を獲られた上に本の売り上げでも水を開けられ、人生を悲観してリストカット。一命はとりとめたものの、独りにはさせられないとの病院の勧めにより妹の家にご厄介となる。
病院からの連絡でシェリルがフランクを引き取りに行き、ドウェーンの部屋に同室させる所から映画は始まる。
フランクがシェリルの家に入り、そこにリチャードも帰ってきて食事が始まるが、食卓を囲んでのやりとりが、スムーズにいっていない家族の関係を空気感と共に表現していて、とても上手いカメラワークと編集でした。
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リチャードは食事中も成功論をちらつかせてフランクを負け犬呼ばわり、爺ちゃんは『今日もフライドチキンか!』とブータレる。そこに、一本の電話。なんと、オリーヴが準優勝となった美少女コンテストの地方大会で、優勝した女の子に違反があったらしく、オリーヴが本選に行けることになったのだ。本大会が開かれるのは1000㎞以上離れたカリフォルニア。飛行機代は出せないが、オリーブに諦めろとは言えない。フランクや爺ちゃんを置いて行くわけにもいかず、経費節約のために家族全員で1台のマイクロバスで一路カリフォルニアを目指すことになる・・・。
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ロード・ムーヴィーですな。
しかもこのオンボロバス、途中でクラッチがいかれるマニュアル車で、低速での走行が出来ない。発進時には坂を利用するか、人力で押すしかない。オリーブと運転者以外が車を押して、走り出したところで次々と開け放たれたドアから飛び乗るという具合。その様子もドタバタコメディみたいで可笑しい。
リチャードは破産目前なのにこんな珍道中でリーダーシップをとらないといけないし、エージェントからの連絡はないしと、その悲壮感もおかしみに拍車をかけ、爺ちゃんに頼まれて途中の売店でエッチな雑誌を買っていたフランクも、ライバル評論家とドライブ中の“元彼”に会ったりと、こちらも悲しい状況になったりする。
スラップスティック・コメディのようですが過剰になりすぎず、しんみりとする場面もあるし、ちょこちょこと点描される脇の登場人物が“らしくて”現実逃避してないのがイイですな。
なんとか大会の開始時間に間に合うも、オリーヴ以外の出場者はどれもコレもジョンベネちゃん程ではないにしろ美少女揃い。ドウェーンやフランクは止めさせようとするが、誰もオリーヴには言えない。最後の特技紹介でのオリーヴのダンスがクライマックス。お祖父ちゃんに教えられたダンスが会場に波紋を巻き起こすが、娘を応援しようと一緒にステージに駆け上がるリチャードの姿が可笑しいやら嬉しいやらで、笑いながら泣いてしまうという近年珍しい経験をさせていだきました。
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美しくて印象に残ったのは、審査会場の近くの桟橋にフランクとドウェーンが出かけて話をするシーン。
色々な事件を経験して、バラバラだった家族がつながっていく、まさしく“ハートフル・ロード・ムービー”でした。
但し、ラスト・シーンが少しインパクトが弱いかな。客観的な状況は殆ど変わっていないのだから、せめて内面的な好転が目に見えるショットが欲しかった。甘いと言われるかも知れませんがね。
ということで、お薦め度はとりあえず★三つ。このレベルだと通常は2回観るし、2回目の方が★が増える確率が高いので、今回は暫定とさせていただきましょうか。
尚、この映画はサンダンス映画祭に出品されて好評を得、その後一般公開でもヒットしたとのこと。
2006年のアカデミー賞で、助演男優賞(アーキン)と脚本賞(マイケル・アーント)を受賞、作品賞と助演女優賞(ブレスリン)にノミネートされたそうです。
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※ NHK-BS放送での再見記事(2010.10.30)~予告動画付きです。
以前「イン・ハー・シューズ」について書いた時に、viva jijiさんからのコメントでお薦めいただいた映画で、ご贔屓俳優アラン・アーキンが助演オスカーを獲ったことでも個人的には『忘れちゃいませんぜ』という映画です。先週レンタルしたのに、借りた途端に忙しくなって、返却前日に辛うじて1回こっきり観ることが出来ました。
お薦めのきっかけは「イン・ハー・シューズ」でキャメロン・ディアスの姉を演じたトニ・コレットに馴染みがないと書いたことで、それならばと彼女の出演作を幾つかご紹介下さって、その中の一つがコレということ。「イン・ハー・シューズ」では、婚期を逃しかけている女性の役でしたが、この映画では二人の子持ちの主婦シェリル・フーヴァーという役でした。
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シェリル自身、飛び抜けた美女でも知性溢れるキャリア・ウーマンでもないが、家族もどれもこれも冴えない面々ばかり。
9段階のプログラムからなる成功理論を考案して一儲けしようと脱サラした夫リチャード(キニア)は、講演会の参加者も少なく破産寸前。ある出版エージェントに望みを託すが、なかなか色好い返事が来ない状況だ。
ニーチェに傾倒する厭世気味の長男ドウェーン(ダノ)はパイロットになるまではと無言の行を続けていて、家族とも筆談でしかコミュニケーションをとらない。「ハリーとトント」にも似たような若者が出てましたな。
9歳の妹オリーヴ(ブレスリン)は少し太めの幼児体型をものともせずに美少女コンテストに応募している。大きなメガネをかけているが、メガネを取れば結構可愛い顔にも見えたりする。
オリーヴにダンスの振り付けをしているのが父方のお祖父ちゃん(アーキン)で、この爺さん、孫娘には優しいがヘロインの常習者。エッチな事も大好きで、どうやらそれらが原因で老人ホームを追い出されて来たらしい。
そんな家族にもう一人同居人が増える。プルーストの研究をしているシェリルのゲイの兄フランク(カレル)。ライバル評論家に“彼氏”を獲られた上に本の売り上げでも水を開けられ、人生を悲観してリストカット。一命はとりとめたものの、独りにはさせられないとの病院の勧めにより妹の家にご厄介となる。
病院からの連絡でシェリルがフランクを引き取りに行き、ドウェーンの部屋に同室させる所から映画は始まる。
フランクがシェリルの家に入り、そこにリチャードも帰ってきて食事が始まるが、食卓を囲んでのやりとりが、スムーズにいっていない家族の関係を空気感と共に表現していて、とても上手いカメラワークと編集でした。
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リチャードは食事中も成功論をちらつかせてフランクを負け犬呼ばわり、爺ちゃんは『今日もフライドチキンか!』とブータレる。そこに、一本の電話。なんと、オリーヴが準優勝となった美少女コンテストの地方大会で、優勝した女の子に違反があったらしく、オリーヴが本選に行けることになったのだ。本大会が開かれるのは1000㎞以上離れたカリフォルニア。飛行機代は出せないが、オリーブに諦めろとは言えない。フランクや爺ちゃんを置いて行くわけにもいかず、経費節約のために家族全員で1台のマイクロバスで一路カリフォルニアを目指すことになる・・・。
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ロード・ムーヴィーですな。
しかもこのオンボロバス、途中でクラッチがいかれるマニュアル車で、低速での走行が出来ない。発進時には坂を利用するか、人力で押すしかない。オリーブと運転者以外が車を押して、走り出したところで次々と開け放たれたドアから飛び乗るという具合。その様子もドタバタコメディみたいで可笑しい。
リチャードは破産目前なのにこんな珍道中でリーダーシップをとらないといけないし、エージェントからの連絡はないしと、その悲壮感もおかしみに拍車をかけ、爺ちゃんに頼まれて途中の売店でエッチな雑誌を買っていたフランクも、ライバル評論家とドライブ中の“元彼”に会ったりと、こちらも悲しい状況になったりする。
スラップスティック・コメディのようですが過剰になりすぎず、しんみりとする場面もあるし、ちょこちょこと点描される脇の登場人物が“らしくて”現実逃避してないのがイイですな。
なんとか大会の開始時間に間に合うも、オリーヴ以外の出場者はどれもコレもジョンベネちゃん程ではないにしろ美少女揃い。ドウェーンやフランクは止めさせようとするが、誰もオリーヴには言えない。最後の特技紹介でのオリーヴのダンスがクライマックス。お祖父ちゃんに教えられたダンスが会場に波紋を巻き起こすが、娘を応援しようと一緒にステージに駆け上がるリチャードの姿が可笑しいやら嬉しいやらで、笑いながら泣いてしまうという近年珍しい経験をさせていだきました。
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美しくて印象に残ったのは、審査会場の近くの桟橋にフランクとドウェーンが出かけて話をするシーン。
色々な事件を経験して、バラバラだった家族がつながっていく、まさしく“ハートフル・ロード・ムービー”でした。
ということで、お薦め度はとりあえず★三つ。このレベルだと通常は2回観るし、2回目の方が★が増える確率が高いので、今回は暫定とさせていただきましょうか。
尚、この映画はサンダンス映画祭に出品されて好評を得、その後一般公開でもヒットしたとのこと。
2006年のアカデミー賞で、助演男優賞(アーキン)と脚本賞(マイケル・アーント)を受賞、作品賞と助演女優賞(ブレスリン)にノミネートされたそうです。
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※ NHK-BS放送での再見記事(2010.10.30)~予告動画付きです。
・お薦め度【★★★=一見の価値有り】 
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よくぞ揃えた!って感じのダメダメ家族が
少しずつ愛おしくなってくる不思議な魅力を
もつ映画でしたね。
T・コレットは「シックス・センス」も。
オスメント君のお母さん役でした。
彼女、歌もメチャうまいんですよ。♪^^
(「コニー&カーラ」)
十瑠さんは「シックス・センス」は、いかが?
反則ワザ(笑)映画でしたが当時はかなり騒がれましたね。
それは初耳。
「コニー&カーラ」と「シックス・センス」も以前お薦めいただいてましたが、とりあえず「コニー&カーラ」っちゅうのが気になりますね。
その時は、また
オリーヴちゃんも可愛かったですね。
>「ハリーとトント」にも似たような若者が出てましたな。
あ、わたしも同じこと思ってました。あちらもロード・ムービーだし、意識したのか偶然なのか。気になるところです。
>娘を応援しようと一緒にステージに駆け上がるリチャードの姿
そういえば、一番に駆けつけたのはお父さんでした。わたしの感想には父親の事がひとつも書いてないと今更気付いたり(笑)
それぞれ個性的だから、誰に注目するか観る人によって違ってきますね~。
お兄ちゃんは父親にかなり不満があったみたいですけど、でも最後にはオヤジと一緒に踊ってましたから、これからはも少し会話の出来る親子になるんでしょう。なにより、叔父さんという新しい先輩も出来たことですし。
この映画は、美少女コンテストに出場する娘を会場に送り届けようとする、崩壊家族の珍道中コメディですね。
人物設定やコンテストの様子には、ある種のアメリカ的な病理や、それを描こうとする風刺精神も見え隠れするんですが、この映画の主眼は、話をそっちの方向に持っていくのではなく、あくまで"家族の絆"のところに収束させるところにあるんですね。
笑いはブラックだけれど、帰結点はハートフル、なんですね。
故障だらけの黄色いVWワゴンに乗ろうとする一同が、なぜポスターのようになっているのかは、映画を観れば分かる仕掛けになっていますね。
クラッチが壊れてしまって、出発の度にみんなで車を押す羽目になるんですね。(笑)
この車を押して、動き出してから、みんなで飛び乗るというシチュエーションが、劇中で何度か繰り返されるのですが、ドラマの進行によって、その都度、シーンの意味合いが変わってくるところが、実にうまいなあと感心しました。
ことに、最後の最後、コンテスト会場から家に向かって出発する時のシーンは、一同の一体感と、問題は何も解決していないとはいえ、かすかな希望を感じさせる至福の瞬間といえますね。
グレッグ・キニアが相変わらず、安っぽい負け犬オヤジを演じて最高ですね。
成功するための方法論を、本やセミナーにして一儲けを企んでいるのだが、本人が貧乏人で、美少女コンテストの会場までの飛行機代もだせないというお粗末さ。
出版契約を匂わせたエージェントに、何度も何度も電話をしたあげく、直接乗り込んでいく余裕のなさ、これを演じられるのは君しかいないね、グレッグ・キニア君!!
スティーヴ・カレル、トニ・コレット、アラン・アーキン、もう、イメージそのままのキャスティングで最高ですね。
低予算のインディペンデント映画で、これだけ達者な俳優を揃えられるところが、アメリカ映画の底力なのかもしれませんね。
お客を呼べる"スターバリュー"はないかも知れないけど、みんな名のしれた俳優ですからね。
ちょうど、投稿いただいた6月29日だったようです。
「アメリカ上陸作戦」、「暗くなるまで待って」からこの「リトル・ミス・サンシャイン」、「アルゴ」まで長く楽しませていただきました。
ご冥福をお祈りいたします。
合掌