(1959/イェジー・カワレロウィッチ監督・共同脚本/ルチーナ・ウィンニッカ、レオン・ニェムチック、ズビグニエフ・チブルスキー/100分)
初めて見たのが高校生の頃。その十数年後にもう一度見て、今回のBS放送が人生3度目の鑑賞です。モノクロのポーランド映画。何れもNHKの字幕放送でした。
ポーランド映画と言えば戦争が背景だったり、政治的な色合いが濃いという印象だったのに、初めて見た時にそんな先入観と全然違うモダンジャズが流れるムード満点な映像に酔い、今もってポーランド映画と言えば真っ先に浮かんでくる作品がコレです。
ワルシャワからバルト海沿岸の避暑地へ向かう夜行列車に乗り合わせた人々の一晩のアレコレを、赤の他人なのに成り行きで同じ個室に入ることになった訳有りなサングラスの男(ニェムチック)と、哀愁漂う瞳をした色っぽい女とのやりとりを中心に描いた映画であります。女の名前はマルタ(ウィンニッカ)。彼女を追いかけて普通席車両(=2等車両)に乗り込む若者(チブルスキー)もいて、この二人の訳有り具合も興味を惹くシークエンスになっています。
指定席車両(=1等車両)の乗客には、バカンスに向かう途中なのに弁護演説の練習をする老弁護士と彼の若い妻。この若妻は刺激を求めて何かとサングラスの男に色目を使い、声をかけます。独身主義を公言する禿頭の男。不眠症の男。若い恋人同士。老牧師と旅をする若い牧師。そして、車掌の中には中年女性もいるなど、色々な人々がどこか寂しげな旅情を漂わせながらしっとりと描かれています。
ロード・ムーヴィーが好きなのは別の記事でも書きましたが、列車の旅はいわば究極のロード・ムーヴィーでしょう。この映画も90%以上、多分95%くらいのシーンが列車の中で描かれています。
個室寝台車両は片側に通路があって、反対側の個室には上下2段のベッドが進行方向に垂直に作られています。映画では、個室側の窓は左から右へ風景が流れ、通路側の窓からは外の風景は右から左へ流れていきます。部屋の中でも通路での撮影でもカメラは車両の狭い雰囲気を崩さず、他の映画では時々見かけますが、壁の向こうから撮影したようなアングルのショットは殆どありません。十代の頃に強烈な印象を残したのは、丁度その頃、そんなカメラの使い方を気にしながら映画を見ていたからでしょう。
独りになりたかった赤の他人の二人が狭い寝台車の中でお互いを徐々に知っていく。更には、冒頭で乗客が読んでいる新聞に妻殺しの犯人が逃亡中であることが書いてあり、途中の駅では警察官が5、6人乗り込んできてサングラスの男を取り調べ始める。
殺人犯が列車から逃げて、大勢の乗客が追いかけるというシーンも、朝もやの雰囲気や群集心理の嫌らしさも描かれていてカワレロウィッチ万歳!と叫びたくなりましたな。
ビブラフォンの音がまるでMJQ(=モダーン・ジャズ・カルテット)のようなBGMは、ポーランド・モダンジャズの第一人者アンジェイ・トシャコフスキーによるものとの事。オープニングから時々流れる気怠いスキャットは<アメリカのジャズの大御所A・ショーの“ムーン・レイ”を編曲した>ものだそうです。
大昔に読んだ雑誌の中で、吉永小百合さんが『最も好きな映画音楽だ。』と語っておられました。
プラットホームを行き来する人々を俯瞰で捉えたオープニングから、海沿いの終着駅に止まった列車の空っぽになった寝台車両を移動撮影で写していくラストシーンまで、一貫したムードの映像は・・・ウ~ン、素晴らしい!
59年のヴェネチア国際映画祭ではカワレロウィッチ監督がジョルジュ・メリエス賞を、奥さんのウィンニッカが演技賞を受賞したようです。
尚、マルタを追いかけている若者は列車が止まる度に外からマルタに会おうとし、再び走り出した列車にはいつも飛び乗っていて車掌に注意されますが、皮肉なことに、演じたチブルスキーはこの映画の8年後、列車に飛び乗ろうとして事故死したとのことでした。
▼(ネタバレ注意)
駅で偶然出会ったある男から寝台車の切符を買ったマルタ。男性用の個室に女性が入っていた理由はそれだったわけですが、実はその男が妻殺しの犯人で、犯人はマルタに指定席を譲った後普通車両に乗っているという筋書きです。
マルタにはリストカットの過去があり、今度の旅はその過去の激しい恋の相手から手紙がきたせいらしい。避暑地で彼と逢う予定のようですが、マルタ自身にも成り行きは見当がつかないようでした。列車で追いかけてきた若者は、どうやらリストカットの後の恋人なのでしょう。終着駅の一つ手前の駅でマルタの部屋にサングラスの男を見かけ、呆然と列車を見送る若者。サングラスの男は、勿論マルタには声をかけない。
弁護士の妻はサングラスとは別の男にも声をかけ、ついに終着駅手前で火遊びのお相手を見付ける。不眠症が悩みの男は殺人犯を追っかけたせいか、通路の椅子で知らぬ間に眠っていた。人生色々です。
サングラスの男は医者。前日、飛び降り自殺で瀕死の重傷を負った18歳の少女を助けることが出来ず、悔やんでいる所だった。海辺の駅には奥さんが待っていて、マルタは反対側の海辺の方の出口から列車を降りていく。
女性車掌に起こされる最後の乗客は、個室に入り浸りだった恋人同士でした。
▲(解除)
※ 再見記事(動画付き)はコチラ。
初めて見たのが高校生の頃。その十数年後にもう一度見て、今回のBS放送が人生3度目の鑑賞です。モノクロのポーランド映画。何れもNHKの字幕放送でした。
ポーランド映画と言えば戦争が背景だったり、政治的な色合いが濃いという印象だったのに、初めて見た時にそんな先入観と全然違うモダンジャズが流れるムード満点な映像に酔い、今もってポーランド映画と言えば真っ先に浮かんでくる作品がコレです。

指定席車両(=1等車両)の乗客には、バカンスに向かう途中なのに弁護演説の練習をする老弁護士と彼の若い妻。この若妻は刺激を求めて何かとサングラスの男に色目を使い、声をかけます。独身主義を公言する禿頭の男。不眠症の男。若い恋人同士。老牧師と旅をする若い牧師。そして、車掌の中には中年女性もいるなど、色々な人々がどこか寂しげな旅情を漂わせながらしっとりと描かれています。
ロード・ムーヴィーが好きなのは別の記事でも書きましたが、列車の旅はいわば究極のロード・ムーヴィーでしょう。この映画も90%以上、多分95%くらいのシーンが列車の中で描かれています。
個室寝台車両は片側に通路があって、反対側の個室には上下2段のベッドが進行方向に垂直に作られています。映画では、個室側の窓は左から右へ風景が流れ、通路側の窓からは外の風景は右から左へ流れていきます。部屋の中でも通路での撮影でもカメラは車両の狭い雰囲気を崩さず、他の映画では時々見かけますが、壁の向こうから撮影したようなアングルのショットは殆どありません。十代の頃に強烈な印象を残したのは、丁度その頃、そんなカメラの使い方を気にしながら映画を見ていたからでしょう。
独りになりたかった赤の他人の二人が狭い寝台車の中でお互いを徐々に知っていく。更には、冒頭で乗客が読んでいる新聞に妻殺しの犯人が逃亡中であることが書いてあり、途中の駅では警察官が5、6人乗り込んできてサングラスの男を取り調べ始める。
殺人犯が列車から逃げて、大勢の乗客が追いかけるというシーンも、朝もやの雰囲気や群集心理の嫌らしさも描かれていてカワレロウィッチ万歳!と叫びたくなりましたな。

大昔に読んだ雑誌の中で、吉永小百合さんが『最も好きな映画音楽だ。』と語っておられました。
プラットホームを行き来する人々を俯瞰で捉えたオープニングから、海沿いの終着駅に止まった列車の空っぽになった寝台車両を移動撮影で写していくラストシーンまで、一貫したムードの映像は・・・ウ~ン、素晴らしい!
59年のヴェネチア国際映画祭ではカワレロウィッチ監督がジョルジュ・メリエス賞を、奥さんのウィンニッカが演技賞を受賞したようです。
尚、マルタを追いかけている若者は列車が止まる度に外からマルタに会おうとし、再び走り出した列車にはいつも飛び乗っていて車掌に注意されますが、皮肉なことに、演じたチブルスキーはこの映画の8年後、列車に飛び乗ろうとして事故死したとのことでした。
▼(ネタバレ注意)
駅で偶然出会ったある男から寝台車の切符を買ったマルタ。男性用の個室に女性が入っていた理由はそれだったわけですが、実はその男が妻殺しの犯人で、犯人はマルタに指定席を譲った後普通車両に乗っているという筋書きです。
マルタにはリストカットの過去があり、今度の旅はその過去の激しい恋の相手から手紙がきたせいらしい。避暑地で彼と逢う予定のようですが、マルタ自身にも成り行きは見当がつかないようでした。列車で追いかけてきた若者は、どうやらリストカットの後の恋人なのでしょう。終着駅の一つ手前の駅でマルタの部屋にサングラスの男を見かけ、呆然と列車を見送る若者。サングラスの男は、勿論マルタには声をかけない。
弁護士の妻はサングラスとは別の男にも声をかけ、ついに終着駅手前で火遊びのお相手を見付ける。不眠症が悩みの男は殺人犯を追っかけたせいか、通路の椅子で知らぬ間に眠っていた。人生色々です。
サングラスの男は医者。前日、飛び降り自殺で瀕死の重傷を負った18歳の少女を助けることが出来ず、悔やんでいる所だった。海辺の駅には奥さんが待っていて、マルタは反対側の海辺の方の出口から列車を降りていく。
女性車掌に起こされる最後の乗客は、個室に入り浸りだった恋人同士でした。
▲(解除)
※ 再見記事(動画付き)はコチラ。
・お薦め度【★★★★★=クールなムードがお好きなアナタ、大いに見るべし!】 

ロード・ムーヴィーがお好きなのですか。「イージー・ライダー」や「スケアクロウ」、「ペーパー・ムーン」、「レインマン」など、題名だけは知っていますが観ていません。70~80年代はリアルタイムで観られる環境でなかったのが影響しています。残念!
つい先日「テレマ&ルイーズ」のTV放映があったので観ました。
不思議に日本映画のロード・ムービーだけは少し観ています。「菊次郎の夏」「旅の重さ」「西へ」「KYOKO」などです。
ところで私が頻繁にお邪魔するのもどうか?とも思いますので、少しは遠慮するように心がけます。もし、ご迷惑をかけていたとすれば、いけませんので。
挙げられた洋画のロード・ムーヴィーは全て観ています。
「イージー・ライダー」、「ペーパー・ムーン」はUPしていますの、50音リストからどうぞ。
お薦めは、「ペーパー・ムーン」ですね。
邦画では「旅の重さ」しか観ていませんが、コチラも書いていますよ。
えーっ!遠慮なんてしないで下さいよ。仕事しながらですので、すぐにはお答えできない事もあろうかと思いますが。
なかなか、ご訪問できないのも残念です。
晴~~~れた空~~~♪
そ~~~よぐ風ぇ~~~♪
歌ってゴマかそうとする私をうんと、叱って下さい!十瑠さん!!
すっかり、忘却のハワイ航路!でしたっ。(笑)
さて!その時間、私は何をしていたでしょうかっ?
・・・誰も答えてくれやせんので、自分で申告しまっす!
耳がおかしくなるほどの大音量ミュージカル、「ドリームガールズ」を・・・
観てました・・・トホ。
「夜行列車」・・もう、放映ないんだろうか。(哀しい~)
つか、姐さん!ナニしちょるん
一応DVDにおとしてはいますが・・・どうする?
前日の「影」と共に三度目の鑑賞。
「夜行列車」は79年にポーランド映画が4本リバイバル公開され、そのうちの一本でした。その時観た他の三本は「水の中のナイフ」「地下水道」「灰とダイヤモンド」でしたが、本作が断然のお気に入り。とにかくムード満点で、酔いしれて下宿までふらふら歩いて帰ったのを思い出します。
十瑠さんが先にMJQ風と紹介したものだから、そのまま書いたものか悩みましたが、そう思ったのは事実ですからそのまま書きました(笑)。音楽の貢献度も相当高いですね。
正にカワレロウィッチ万歳!
「影」は録画されました?ミステリー・ファンならこちらもなかなか良いですよ。
10代の体験は鮮烈で、私はこの時代のポーランド映画がいちばん記憶に残っています。カワレロウィッチの『影』『尼僧ヨアンナ』、ワイダの『灰とダイヤモンド』『20歳の恋』、ムンクの『パサジェルカ』、ポランスキーの『水の中のナイフ』、どれも忘れがたい作品ばかりです。
生涯のベスト10をつくれば、『夜行列車』はじめこの時期のポーランド映画が3本は入ってきそうです。
「影」も勿論録画しました。あと「尼僧ヨアンナ」とか「戦争の真の終わり」とかも未見なので放映してくれると嬉しいんですが。
コルトレーンでもマイルス・デイビスでもなく、ミルト・ジャクソン風のビブラフォンの音色がクールで良かったですネ。
それでも、当時は今よりも優れた映画が多かったような気がしますが、ポーランド映画がそんなにお好きとは・・・。
高校生の頃にアメリカン・ニューシネマが流行していた私が、「卒業」や「真夜中のカーボーイ」に強烈な思いがあるのと同じですかな。
TB&コメントありがとうございました。
今、ジャズ演奏にはまっているので参考になります。
マルタ役のウィンニッカ・・・監督の奥様だったんですね。僕の昔の恋人に雰囲気が似ているのは、昔・・・たぶん子供の頃、この映画を見たことがあったので、この女性のことをどこかで憶えていた影響かもです。
マルタ似の彼女は今何処・・・ですか。
監督は去年亡くなられてしまったんです。残念です。