読書の森

永遠の嘘をついてくれ


「永遠の嘘をついてくれ」を白いシャツとジーンズの中島みゆきが唄っていた。
嬬恋村コンサートのワンシーンは鮮烈な印象で残る。
並んで歌う吉田拓郎も中島みゆきも夢の様に色っぽく、永遠の嘘を付き合う同士に見えた。

永遠の嘘は必ずしも色恋に限らない。
その人を護る嘘ならば、突き通せるのは大人の証拠ではある。
言ってはいけない人の決定的な欠点や自分にとってどうにもならない事はあえて明らかにしない。


これはYES,NOの区別が明確な国に比べて、日本人の得意技である様に思える。

ところが、私は無性に洗いざらい本当の事を喋りたくなる悪い癖がある。
なんとかして自分の馬鹿正直な衝動を止めたいのに、修正が利かなくなる。
嘘というよりは思いやりをいつも心の何処かに置かねばなるまい。

悪いことに年を経るごとに、この衝動が強くなるみたいだ。

火野正平という役者さんがいる。
私の父は実物を見たそうで「いい男だった」と感心してた。

どこがいいのか私には分からないけど、独特の女性を引き付ける魅力があるのだろう。
若い頃の火野正平は若い女の子に非常にもてた。
次々と恋の噂が流れていた。


驚くべき事に恋の終わった後も女性は誰一人として彼を恨んでいないらしい。
何故だろう。
それをいつかテレビ番組で聞かれた時彼は言った。
「その時は本当に本気なんです。本気で相手が欲しい。この人しかいないと思う。
その気持ちで相手と付き合う」
と言った。
成る程と思った。

そして恋の終わった後は、土下座して謝るそうだ。
「何かも俺が悪い」
と。
この人は嘘付きじゃない。
正直過ぎるのだと私はやっと気づいた。
それにしても、この人の奥さんさぞかししんどい事だろうなとも思った。

時を経た今思うことは、奥さんの為にも「おまえが一番好きだよ」という嘘をついていた方が老後優しく面倒看てもらえる、という事だ。

年取ると「正直」帰りしがちだけど、自分のためにも優しい嘘をつき通す必要はあるみたいですよ、とあまり色気のない結論を得た。
それにしても、嘘ついてくれる相手が欲しいものです。




追記:2016年10月のエッセイを加筆訂正して載せています。


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