彼との連絡が途絶えると、時間はこんなに長く静かなことを思い出しました。
これは痛み分け。別離となれば、当然身を切られるような思いは私だけではありません。でもそれを抱えながら、お互い何も感じなくなる日が来るのを待つしかない、と考えたのです。
何より私には仕事もある、ネットもある、車もある、猫もいる、友人もいる、片付けたい場所はいくらでもある、時間はいかようにも過ごせるのだから大丈夫、そう思い込もうとしてました。
彼から電話があるまでは…。
彼から
「これから予定通り一緒に桜を見に行きたい、お願いだから今後も変わらず会って欲しい」
という電話を貰いました。しかも、"私の辛さは何だったんだ"と拍子抜けするような話しぶり。そしてまた、私が一緒にいられない理由を並べ立て、彼がそれでも一緒にいたいと返す会話を延々と繰り返していました。
でも、彼は彼なりに苦しさを感じていたようです。解決の糸口が見えないまま何時間も話し続けていたら、それまで努めて明るく話していた彼が突然すすり泣き始めました。いつだってニコニコ笑っている彼が、です。
これには申し訳なさを感じたのと同時に、それまで感情的に話をしていた私の頬をバチンと叩かれたように、冷静になれました。
そもそも話し合いの佳境で泣く人は苦手ですけどね。でも、押し付けるばかりでなく、きちんと彼の心も受け止めよう、と思い直したというか…。
「息子はあの調子で、一緒に暮らしていても殆ど話さない。娘の会社だって止めたのに結局新事業を始めてしまって、軌道に乗るまでとは言え、こちらの持ち出しが続いている状況でさ、誰も僕自身のことなんか見てやしないし、気にも留めてない。僕は皆んなに都合がいいだけのお父さんだよ」
「もちろん子供の心配をするのは親の役目だけど、僕はいつも誰かの心配をするだけ。アキだけが僕を見て、気にしてくれて、僕の身体を心配してくれて、そのことが僕の生活のハリだったり、生きる理由だったりしたんだよ。でも、このまま突然アキが目の前からいなくなってしまったら、僕のこと、誰が心配してくれるの? 誰も気に留めてくれないじゃない…」
もちろん、彼だって子供達や友人が心配してくれているのは分かっています。ただ、掛け値なしに心配してくれる両親は既に他界しました。
でも、この言葉は私の中で何よりストンと腑に落ちました。"ああ、そうだなあ"としっくりきたのです。
アラフィフになると、親の介護や子供のことなど、心配するのは自分以外の誰かのことばかり。でも、私達も同じように気に掛けて欲しいし、大切にされたいんですよね。今の彼には、それが私だったんだなと思いました。
そんなこんなで。
楽しいことばかりではない今後を含めて、私は彼と一緒にいる'覚悟'を決めました。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、心持ちとしてはそんな感じ。
何かあった時、きっと物凄く辛いこと、嫌なことが降り掛かるのを承知の上で、お互いを心配する関係でいようと確認し合いました。
彼は彼のできる範囲で、彼を取り巻く環境を変える努力を約束し、私は今後も彼の傍で今まで通り怒って笑って過ごすことを約束した次第。
アラフィフの恋愛は、結婚しなくとも想像以上に複雑だなあ、というのが今回の結論でした。