風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第二部) 其の七

2010-02-22 23:36:58 | 大人の童話

あと二ヶ月で三学期も終わるという昭和四十二年一月、待ちに待った給食が

始まりました。二学期の間、牛乳だけの牛乳給食だったので、給食が始まるのを

楽しみにしていた夢はうれしくてたまりません。毎朝、学校に着くと必ず、”今日の

お昼は何かな”と、廊下に掛けてある「今日の献立ボード」を確認しました。そして、

毎日楽しく給食を食べていました。ある日のお昼、夢が給食を食べていると、

「夢ちゃーん、給食おいしい?」

と何の前ぶれもなく、六小が声をかけてきました。

「あ、びっくりした。また出てきた。」

「何よ、わたしのこと、幽霊みたいに。」

六小が、ちょっとムスッとして言うと、

「だって、急に声かけるんだもん。」

夢は、六小がおどかすからよ、というように言い返しました。

「あら、そう。まっ、いいじゃない。ねえ、それより給食おいしい?」

「うん、とっても。今日はね、コッペパンと牛乳と、それに鯨の竜田揚げなんだよ。」

「ふーん、そう。じゃあ、よかったわ。」

六小はにこっと笑って、おいしそうに給食を食べる夢を、そっと見ていました。

 

 

 


風の向こうに(第二部) 其の六

2010-02-21 20:30:02 | 大人の童話

十一月十一日、父母会代表や町のお偉方を招いて、六小の開校を祝う式典が

校庭で行われました。夢は、これから何が始まるのかと興味津々でしたが、式は、

校長先生・父母会会長・町代表の話などだけで終わり、ちょっとがっかりして

しまいました。夢は、”六小さん、どう感じているかなあ”と思い、六小の方をちらっと

見てみました。見たとたん、思わず笑ってしまいました。だって六小さんったら、

自分を祝う式典だっていうのに、鼻ちょうちんつけて寝ているんですから。

”ふふっ、やっぱり六小さんも退屈だったのね。”

式が終わっても、まだ六小は寝ています。夢は「終わったよ。」と、六小を起こそうと

思いましたがやめました。

「ゆっくり眠ってね。おやすみなさい。」

そっと言うと、みんなといっしょに教室へ戻りました。教室では、先生が

[開校記念誌]を渡しています。まだ、ほんのりインクの匂いのするその記念誌を

見た時、夢は、”これから、この学校の、六小さんの歴史が始まるんだ”と思って、

とてもうれしくなりました。そのあと、家に帰ろうと校舎の外に出た時、夢はいきなり、

六小から声をかけられました。

「もう、そんな時間?式、終わったの?」

「うん、そうだよ。六小さん、やっと起きたのね。」

「う~ん、よく寝たあ~~。だって、式、つまらなかったんだもの。夢ちゃんだって

そう思ったでしょ。」

「う・ん、まあね。」

「うふふ、やっぱり。」

六小は、我が意を得たり、とでも言うように小さく笑いました。

夢は、先生から渡された記念誌を、大きく六小に振って見せて、

「この記念誌、大事にするね。」

と大声で言いました。六小は、

「ありがとう。」

と返すと、うれしそうに大きく一回光って消えていきました。

 

 


風の向こうに(第二部) 其の五

2010-02-21 00:50:59 | 大人の童話

ある日の朝会のあと、夢はしゃがんで、一所懸命に石を拾っていました。と、急に

眼の前が明るくなり始めました。あわてて顔をあげると、そこには、いたずらっぽく

笑っている六小の顔がありました。

「おはよう、夢ちゃん。石拾い大変ね。ごくろうさま。」

「あ、おはよう、六小さん。今日も、元気だね。」

「うん、もちろん。ねえ、石、いっぱい拾えた?」

「うん、こんなにいっぱい。」

夢は、両手の平いっぱいに拾った石を、六小に見せました。

「あら、ほんと。すごいわねー。」

「でも、まだいっぱいあるよ。これ、全部きれいになくなるかなあ。」

「なくなるわよ、いつか。だって、みんな一所懸命拾っているんだもの。」

「六小さんはいいよね。ただ見てるだけだもん。」

「あら、わたしは監督だもの。あたりまえでしょ。」

「何それ、へんなの。」

「ウフフ・・・・。」

”そろそろ、拾うのを終わりにします。みんな、それぞれ拾った石を、バケツに入れて

教室に戻ってください。”

先生が、石拾いの終了を告げています。

「あ、もう時間。六小さん、じゃあ、わたし行くね。」

「うん、またね。」

六小は、教室へ戻っていく夢を見ながら、もう一度、小さく「ウフフ。」と笑うのでした。

 

 


風の向こうに(第二部) 其の参

2010-02-20 17:20:34 | 大人の童話

始業式から2日経った九月三日、一学期間お世話になった四小・東中との

お別れ会を四小の校庭でやることになりました。夢は、朝からそわそわしていて、

学校に行ってもおちついていられません。そんな夢を見て、六小が

「夢ちゃん、おちつかないね。何で?どして?」

と、しつこく聞いてきます。夢は、困ってしまいました。だって、まさか「四小さんに

会えるから」なんて、六小には言えませんもの。すると六小は、”夢が落ち着かない

理由なんて、ほんとはとっくに解っている”とでも言いたそうに、プイッと横を向いて、

「今日はお別れ会だもんね。四小さんに会えるんだもんね。うれしいよね。」

と、たたみかけるように言ってきました。六小が、自分の心の内の想いを

解っているとはおもいもよらなかった夢は、素直に六小に謝りました。

「うん、そうなの。四小さんに会えるんでうれしいの。だから、落ち着かないの。

ごめんね、六小さん。」

六小はしばらく黙っていましたが、少したって、

「まあ、しかたない・・・・か。夢ちゃんと四小さんは、一年間もつきあってきたんだし。

わたしとは、会ったばっかりでこれからだし。うん!うれしそうにしていても許して

あげる。」

「ほんと?ありがと。」

「でも、これからの五年間は、わたしといっしょなんだからね。それを忘れないでよ。」

「うん、わかってるって、安心してよ。」

「ほんとかなあ。心配だなあ。」

そうこうしているうちに時間になり、夢たちは学年ごとに並んで、会場の四小に

向かって歩いて行きました。六小は、その後ろ姿を見送りながら、

”夢ちゃんと心通わせられてよかった。四小さん、きっと一年間楽しかっただろうな。

うふっ、明日から楽しくなりそう。”

と、一人、いえ一校微笑んでいました。