風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第一部) 其の弐拾四

2010-02-14 18:46:38 | 大人の童話

昭和四十六年四月、第六小学校を卒業した夢は東中に進みました。夢は、また

四小に会えると思うとうれしくてたまりません。しかし、不安もありました。中学生に

なった自分は、はたして小学生の頃のように、四小と心を通わせることができるのか

どうか、夢は期待と不安を抱えながら、中学校の入学式に向かいました。一年生の

時に通いなれた道、その道を歩きながら、夢はいろいろなことを思っていました。

そして、四小 の後ろの道を通り過ぎようとした時、突然、あの優しい響きの声を

聞いたのです。あわてて四小の方を振り返ると、そこには、今までにない

大きな輝きを放つ、光に包まれた四小の姿がありました。

「おかえりなさい。それから、中学入学おめでとう。」

「ただいま、帰ってきたよ。これからまた、三年間よろしくね。」

四小は黙っていました。

「どうしたの。なぜ、答えてくれないの。」

やがて、静かな優しい、それでいてどこか厳かな雰囲気のある四小の声が響いて

きました。

「あなたも、もう中学生。これからは、わたしと話すこともなくなるでしょう。あなたは

どんどん大人へと向かってゆくのだから。でも、寂しがらないで。そして、覚えて

おいて。たとえ、もうこれから先、わたしと話すことはできなくても、心だけは、ずっと

通わせ続けることができるのだ、と。あなたがわたしを思う時、必ずわたしもあなたを

思う。あなたがわたしを忘れても、わたしはあなたを忘れない。ずっとあなたを

覚えている。そう、これからも・・・ずっと・・・・ずっと・・・・・・・・。」

声がしている間、夢はずっと泣いていました。しかし、最後の声が消える間際、

大声で叫びました。

「わたしも、わたしもずっと忘れない。これから先、どんなに時がたっても、

忘れない。 ずっと、ずっと覚えている。あなたの、四小さんのことを・・・・・・・。」

「あ・・・り・・・が・・・と・・・う・・・。」

一瞬、四小の声が聞こえたような気がしました。こうして、声は静かに消えて

いきました。それとともに、四小を包んでいた光もすべて消え、周囲はいつもの

風景に戻っていました。

「わたしの方こそ、あ・り・が・と・う。」   

そう言うと、夢は涙を拭い、力強く、また中学の方へ向かって歩き出しました。

                                                完   

 


風の向こうに(第一部) 其の弐拾参

2010-02-12 23:01:44 | 大人の童話

ドッジボール大会から一ヶ月後、卒業も真近ということで、卒業文集を書くことに

なりました。夢は四小と六小、どっちの思い出を書こうか困ってしまいました。

普通ならもちろん、五年間の時を共に過ごした六小でしょう。しかし、夢には、

一年生の時の四小のことが深く心に残っていて、六小でのことが書けそうも

ないのでした。四小のことが大好きな夢、その四小と同じくらい六小のことも

大好きなのに。するといつの間に来たのか、いきなり六小が声をかけてきました。

「どうしたの、考えこんで。」

「わっ、びっくりしたぁ。急に来ないでよ。」

「わかった、文集のことでしょ。もうすぐ卒業だもんね。」

「うん。何を書こうかなって考えてたの。」

「そんなの決まってるじゃない。わたしとのことを書けばいいのよ。」

「うーん、でも、なんかねえ。あ、ねえ六小さん、文集に四小さんとのことを

書いてもいい?」

「えーっ、何それ。四小さんとの思い出の方が、わたしとのことより残ってるの?」

「う・ん。」

六小はしばらく黙っていましたが、やがて、

「いいよ。」

 と言いました。

「え、いいの?」

「だって、しようがないじゃない。」

「ありがとう。決して、六小さんとの思い出が残ってないわけじゃないからね。」

「わかってるわよ、そんなこと。」

そう言いながらも、六小は本当は少し寂しく思っていたのです。しかし、文集に

四小とのことが書けるとただ喜んでいる夢には、そんな六小の気持ちなど全然

気づくことができなかったのでした。こうして夢は、”思い出の第四小学校”という

題で卒業文集を書きました。その中から最後の二行を、ここに載せておきます。

”わたしは戸久野第四小学校のことを、そして、この戸久野のことを一生

忘れないだろう”

 

 

 

 


風の向こうに(第一部) 其の弐拾弐

2010-02-11 22:06:39 | 大人の童話

昭和四十五年十一月、六年生になった夢は市内小学校ドッジボール大会に

出るため、友だち二人と六小から会場の四小に向かっていました。夢はどきどきして

いました。

”久しぶりの四小、学校の様子はどうなっているだろう。一年の時、同じ組だった

子たちは。”

夢の胸に、懐かしい想いが次々と浮かんできます。なかでも、二年の二学期から

一度も会っていない四小のことは特に気になりました。

”わたしのこと、覚えていてくれてるだろうか。あの頃みたいに、今でも話すことが

できるのだろうか。”

そんなことを考えて歩いているうちに、いつか四小に着いていましたが、四小の

様子は四年前とだいぶ変わっていて、夢はびっくりしてしまいました。林だった所に

校舎が増築され、昇降口の場所も違い、校舎前の花壇の土手には芝生が

植えられ、階段ができていました。それでも、やはり一年間通った学校、懐かしさが

胸に染みとおってきます。と、その瞬間、目の前の校舎がパァーッと大きく光り、あの

聞き覚えのある懐かしい声が聞こえてきました。

「よく来たわね。ちょっと見ないうちに大きくなって。」

”ああ、四小さん、わたしのこと覚えていてくれた。わたし、まだ四小さんと

お話できるんだ。”

夢は感激で何も言うことができずにいました。

「どうしたの。何も言わないで。」

四小にうながされてやっと一言、

「会えてとてもうれしい。ありがとう。」

あとはもう、涙で言葉になりませんでした。四小は静かに夢を見つめ、微笑みながら

言いました。

「ね、また会えたでしょ。さあ、もう涙を拭いて。ほら、ドッジボール大会始まるわよ。

今日は、おもいっきり楽しんで行ってね。」

四小に語りかけられ、少し落ち着いた夢は、

「うん、ありがとう。四小さん、そこで見ていてね。」

笑顔で答え、、手を振りながら校庭の方へ走っていきました。大会の結果は、

残念ながら惨敗でした。四小に、

「残念だったわね。気を落とさないで。」

と慰められましたが、本当は夢にとっては、大会の結果なんてどうでも

よかったのです。だって、夢の心の中では、大会の結果より四小に会えた喜びの

方が、ずっとずっと大きかったのですから。帰り際、夢は四小にそっと言いました。

「あのね、わたし、六小さんともお話してるの。前に、四小さんが言ったとおりに

なったみたい。でもね、四小さんと話し方全然違うのよ。なんか、一人でキャーキャー

言ってる時もあるし。おもしろいけどね。」

夢の言葉を聞いた四小は、

「ウフフ。そう、よかったわね。」

そう言うと、うれしそうに光を放ちながら消えていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


風の向こうに(第一部) 其の弐拾壱

2010-02-10 21:06:58 | 大人の童話

九月一日、六小の子どもたちは、無事新校舎で二学期の始業式を迎えることが

できました。そして三日、六小の子どもたちと、一学期間世話になった四小・東中の

子どもたちとのお別れ会が、四小の校庭で開かれることになりました。夢たちは

いったん学校に集合して、学年ごとに並んで四小へと向かいました。会場に着くと、

もうすでに四小・東中の子どもたちは並んでおり、校庭に入ってくる夢たちを拍手で

迎えてくれました。夢は、大勢の人たちに拍手されるなかを歩いて行くので、少し

緊張していました。その時です。夢の緊張を解きほぐすかのように、校舎から光が

放たれ、声が響いてきたのです。

「いらっしゃい。今日はお別れ会を開いてくれてありがとう。」

四小はうれしそうでした。夢は、ついこの間別れたばかりだというのに、もうずっと

会っていなかったような気がして、今にも泣き出しそうになっていました。

「どうしたの。かわいい顔がゆがんでいるわよ。」

「な、なんでもない。四小さんのいじわる、イーッだ。」

「ウフフフ・・・・・・。」

本当は四小にも解っていたのです。夢がどんなにうれしかったか、必死に泣くのを

こらえようとした結果の、ゆがんだ顔だったということを。四小は会の間、時に小さく

光りながら、ずっと夢のことを見つめていました。会は、先生方のお話、四小・東中

児童生徒代表の言葉、六小児童代表のお礼の言葉と滞りなく進んでゆき、最後に、

六小児童代表二人から四小・東中児童生徒代表にそれぞれ花束が贈られ、静かに

終わりました。そして、夢たちは来た時と同じように拍手で送られ、四小を後に

しました。夢はこらえきれずに、とうとう泣き出してしまいました。四小が、夢に優しく

語りかけます。

「夢ちゃん、泣かないで。大丈夫、今は別れるけど、きっと、また会えるわ。だから、

それまで待ってて、ね。」

「う・・・ん。」

夢は、それだけ言うのが精一杯、あとはもう言葉になりませんでした。そんな夢に、

四小は一際大きく輝き、こう言いました。

「きっと、六小さんともお話できるわよ。」

 


 


風の向こうに(第一部) 其の弐拾

2010-02-08 21:06:28 | 大人の童話

夏休みも終わる頃、やっと新校舎が完成し、六小の子どもたちは先生たちと共に、

引っ越しの準備に追われていました。たくさんの机や椅子・棚・書類を入れた

段ボール箱、それらを一つ一つトラックに運びます。といっても夢はまだ低学年、

先生や親、高学年のお兄さん・お姉さんに比べれば楽なものです。だって、

自分たちの机と椅子を運べばいいだけなんですから。夢が「うんしょ、うんしょ。」と

言って椅子を運んでいると、四小が声をかけてきました。

「大丈夫?重くない?」

「うん、大丈夫。ありがとう。」

「気をつけてね。」

「うん。」

夢はそう答えると、椅子を持ち直し、トラックの止めてある方へ向かって行きました。