薄い本、そして短編集ですが、すごく読み応えがありました
どの作品も長編のようにスケールが大きくて、発想も展開も大胆で、振り返るとこんなに短かったんだと驚かされるものばかりでした
あまりにも内容が濃いゆえに、ラストがいまひとつに感じる印象もありましたが、そもそも短編集としてのラストと考えれば申し分ないです
全話スケールが大きすぎるので勘違いしてしまうだけ。うっかり長編大作の派手なラストを期待してしまっただけです。
好きな話は【最後の不良】と【嘘と正典】
どちらもワクワクしながら読みました
【最後の不良】は、色々な視点の人が出てきますがその誰の意見もよくわかる
誰かが何かを言えば、私もうーんそうだなぁと思い、
他の誰かの立場になると、私もうーんなるほどなるほどと思う
全く説教臭くなく、あらゆる立場に立てるという体験はなんだかすごく新鮮で、不思議で、心地よかったです
そして表題作でもある【嘘と正典】はさすがはスパイもの!息つく間もない心地で読みました
共産主義なんて根っこからぶっつぶせ!みたいな話ですが、根っこからぶっつぶせないことは歴史が知っていますよね
間違ったことや失敗を繰り返した過去が私たちにとっての「正しい歴史」であって、どんなにもどかしくても歴史を自分の好ましい方へ書き換えることはできないんだなぁ
個人的に見ればハッピーエンドではありませんが、歴史的に見ればハッピーエンドです
さいごに、解説も良かったです
京都大学の推理小説研究会の方が解説を書いているのですが、まさに小川哲さんのファン!といった感じで、
本書への愛情に溢れていて、文章にひたむきさもあって、とても楽しんで本編を読んだあとにこの解説を書かれたんだろうなと感じました