
祐福寺 勅使門

祐福寺 今川義元本陣跡
義元殿、前夜の宴
大軍を擁して尾張を、織田信長を討つべく進発した今川義元殿。
その軍勢は沓掛城に納めきれず、戦から遠ざかって久しい義元殿は軍勢の喧騒を嫌い、寺か社の寝所を望まれた。
そこで三河と尾張の国境となる境川沿いの名刹、祐福寺に本陣を置いた今川義元殿。
香を焚かせ、小姓に団扇で風を送らせていると、松平元康君の使者が到着したと知らされ、庭園に使者を通した。
〜来るしゅうない、元康が使者よ、口上を申してみよ〜
義元殿は襖を開けさせ、義元殿は小姓に風を送らせたまま、口上を述べさせた。
使者は、松平元康の軍勢、無事 大高城に兵糧をお届けしたとの知らせであった。
義元殿は、使者に松平元康に城を守り通した鵜殿長照と交代し、城を守備し、翌朝に丸根砦の織田勢を蹴散らす命を下した。
夕方になり、土地の有力な者たちが相次いでお目通りを願い出てきていた。
新たな領主となるであろう義元殿に酒樽や赤飯、肴を荷駄に積んで持って献上したいと来た。
〜殊勝なことである。その方らの領主は誰か。〜
領民らは、水野信元の名を挙げた。
元康君の母上、於大様の兄君で、元康君には、伯父にあたる。
〜水野か。元康が大高で兵糧入れを成し、その夕刻に縁者の領民が わしの陣中に兵糧を申し入れて来たわ…。〜
義元殿は領民に安堵する様に申し聴かせ、献上の品を受け取った。
遅くになって元康君と守将を交代した鵜殿長照がたどり着いた。
義元殿の妹を母に持つ鵜殿長照は義元殿の縁者にあたり、かわいい存在である。孤立する大高城を守り抜いたことを義元殿は称賛してみせた。
やがて献上された品々を肴に鵜殿長照殿と宴となった。
鵜殿長照殿は、道中領民共が味噌が高騰して難儀しているらしいと義元殿に耳打ちした。
味噌は貴重な保存食、また籠城戦には味噌は欠かせないものである。信長が清洲城に籠もるとしきりに流言を耳にしている義元殿は、どうやら自軍の大軍の前に、信長は城を枕にするつもりだと結論づけた。
義元殿、最後の夜は酒宴のうちに明けようとしていた。