牧場というところはいつもベビー・ラッシュなのだろうが、それでも人間の赤ん坊となると話は違う。首も座らない乳児が3人揃っているのは壮観だった。 谷地田ファームは馬メインの牧場で、住吉神社の神馬を預けている関係で私も3度ほどうかがったことがある。今回は、夏祭りで神馬2頭を神社に運ぶのでその打ち合わせに来た光さんに、私とサクヤさん、鷹史さん、都ちゃんが連れて来 . . . 本文を読む
管制室でモニターを見ながら話し合ってすぐにわかってしまった。ここは地球じゃない。木星と火星の間。小惑星帯と呼ばれる地域にある小惑星のひとつらしい。彼らは自分の星をダンと呼んでいる。近隣の2つの小惑星、ハラ、ハクナとの間で国交があるらしい。小惑星帯の中の星から空を見上げると、空を埋めるようにいびつな形の小惑星が浮かんで見えるのかと思っていた。まったくそんなことはなく、地球から見る月以 . . . 本文を読む
オリが私の腕を掴んで塔の中を走ってゆく。引っ張られてはいるが、乱暴ではない。鷹ちゃんにそっくりの少年。あなたは誰? 鷹ちゃんのご先祖様? それとも未来の鷹ちゃん? 他人の空似とは思えない。でも、となると、ここで私の知ってる鷹ちゃんと会うのは不可能ということなのだろうか。 ミギワの名前は鷹ちゃんから聞いていた。水際? 汀? 境界 . . . 本文を読む
想像通り、崖から降りるにつれて浮力が感じられるようになった。スカイダイビングのフリーフォールのイメージで、落下速度を調節しながら塔に接近した。峡谷の底まで下りてしまったら、塔の中を上るのが大変そうだ。塔の中ほどの高さのテラスを目標に据えて、少しずつ速度をゆるめつつ降りた。そういえばパラシュートもパラグライダーも無いけど、うまく着地出来るだろうか。ま、何とかなるだろう。 ……何とかなった。思ったよ . . . 本文を読む
水に入る前は、眩しいほど輝いている青い水面のすぐ下に眠っている澪さんが見えていた。靴と靴下を脱いで水に足を入れた途端、水面が揺れて澪さんの姿が消えた。予感はしていた。澪さんはもっと“深い”ところにいる。 裸足で花を踏みながら歩く。色とりどりの花のようなサンゴ虫やイソギンチャク。色とりどりの魚たち。ここが本物のサンゴ礁のラグーンなら、折れたサンゴの枝やカキ殻などでガサガサして裸足で歩けるはずはない . . . 本文を読む
高校に無事、合格した。合格発表の日まで気付かなかったが、清香も同じ飛鳥高校を受験して合格していた。ニヤリと形容したくなるような微笑を浮かべて、『3年間よろしくね』と言われた。やれやれ。賑やかな高校生活になりそうだ。 受験勉強の追い込みの時期にはあまり弾けなかったので、春休みの間に少しピアノを思い出しておこうと思った。弾かないとピアノが傷むと言うし、調律も必要だろう。 土蔵に近づくと . . . 本文を読む
輸入雑貨のお店で一目惚れして、お年玉貯金を一部崩して買った木苺模様の白磁のティーセットがあった。トランクのような形のバスケットの内側に、赤と白のギンガムチェックの布が貼られていて、5組のティーカップ、ソーサー、銀のスプーンとティーポット。買ったものの、今まで出番がなかった。 ドイツパン屋さんで買って来たバタークッキーを白磁のボウルに盛り付けて。桂清水を電気ケトルで沸かして、ティーポ . . . 本文を読む
ヒイラギの花の咲く夜約束してから、黒曜とは月に1、2回の頻度で会えるようになった。中庭の見える渡り廊下の長椅子が、私たちの定位置になった。家族が寝静まった23時頃。ヒーターを点けてお茶を淹れる。黒曜が来ない夜も、寝る前に夜の中庭を眺めるひと時は、いいリラックスの時間になった。 お茶を四杯用意して、先生や碧ちゃんを誘ったが、2人は遠慮してお茶会に加わらなか . . . 本文を読む
黒曜のことは母から聞いたことがあった。住吉三神をお祀りするようになる前からの、この杜の本来の祭神。水と音楽の女神。琵琶を弾くので弁天さまとも呼ばれている。 月明かりにぽうっと白く浮かぶクジャクソウの花に囲まれて、黒曜は琵琶を爪弾いていた。何かの曲を演奏してるというより、気持ちのままに、思いつくままに、音を出しながらハミングしている。真っ直ぐな黒い髪は地面につきそうな長さだ。中国風というより、奈良 . . . 本文を読む
夏期講習やJAZZの野外ライブで夏は終わり、秋は大祭の準備で慌ただしい。中2だけど受験生予備軍ということで、本格的なお手伝いは免除されている。これが紫ちゃんだったら、お祓いや神事で役に立てるのだろうけど、私は本当に雑用ぐらいしか出来ることがない。 織居の分家の他にも若い神職さん達が、合宿状態でお手伝いに来てくれているので、私にはさっぱり仕事が回って来ない。うちは神職さん達の修行場と . . . 本文を読む